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第11話 踊り子商会で逢いましょう

 踊り子商会『タンシャージャ』。

 質の高い踊り子を王都及び周辺貴族へ収める事で一気に成り上がった組織だ。


 踊り子商会は他にも幾つか存在するが、ここは最も格上の踊り子を提供する事で人気がある。


 選抜される娘たちは外観レベルは当然の事。踊り、歌、宮廷儀礼、はては身辺警護など……様々な分野に精通した踊り子を排出している。


 私は褐色金髪少女メイドのウルシュラちゃんに案内され、ここ『タンシャージャ』の入り口までやって来た。見た目はド派手な劇場である。


「なんかアーカーベー21みたいだなぁ」


 日本で有名なアイドルグループを思い浮かべる。


「アーカーベー21……うん。ここはそれに近い」


 翻訳飴を経由して私のイメージを拾ったのか、ウルシュラちゃんが同意する。


 定期的に踊り子たちによる公演が行われ、貴族はおろか、一般市民の娯楽にもなっている。女性ファンも多いのだとか。踊り子は全然下賤なんかじゃなかった。もしかしてウサミミ隊員ユスティーナさんもここのファンだったりするのだろうか。



 そしてこれは……私にとっても実に夢のある話である。私も成り上がってシアター持ちアイドル事務所……いやここの場合は踊り子商会と呼ぶべきか……とりあえずそんな感じの主となってみたいものだ。


 可愛い子を集めて、ダンス、歌、演劇をじっくりねっとり手取り足取り教えてあげなければ……グヘヘ……。ハッ!? もしかして夢見ていた女の子だらけの私のハーレムの建造も夢みれば夢じゃない!?


 げっへっへと妄想に浸っている私を袖を引っ張り、踊り子商会の横にある、女の子が好きそうな可愛らしい軽食店へと向かうウルシュラちゃん。ここに居ればアイドルちゃんに会えそう。密かに女性ファン達のオフ会の定番になっていたりするのだろうか。 いやインターネットは無いからオフ会とは言わないだろうけれど。


「ここで今回の案内人と合流する」


 屋外の座席へ腰掛けながらそう説明するウルシュラちゃん。


「少し待たされそう。 なにか頼む?」と、メニューを手渡してきた。


「私、文字まだほとんど読めないからねぇ。何か適当に……。そうだ、『カフェラテ』みたいなのってある?」


 むうーん! と、 スプーンを曲げる超能力者みたいなジェスチャーで、私が持つカフェラテのイメージをウルシュラちゃんに飛ばしてみる。 ハンドパゥワです! いや、別にそんな事しなくても伝わるのだけれど。


「カフェラテ。 覚醒成分が含まれる豆を煮た黒い汁。 苦いので砂糖と牛乳を混ぜて飲む物……。似たようなの、あるよ」


「え、ほんと? じゃあそれを温かいのでお願い!」


 季節は初夏だが、踊り子衣装はお腹が冷えるのだ。


 若い女性店員さんが注文した物を運んできた。ウルシュラちゃんにはパフェっぽいデザートとオレンジっぽいフルーツジュースを。私にはカフェラテっぽい何かを。


 注文された商品が行き渡った事を確認した後、 店員さんが恐る恐ると声をかけてきた。


「あの……失礼ですがお客様方は、タンシャージャのメンバーですか?」


 薄手のコートを羽織っているとは言え、手首の飾りなどで踊り子である事が分かるのだろうか。さてどう答えるべきだろう……チラッとウルシュラちゃんを見る。


「うん。 今日から入門する。 応援してね」


 無表情でハートマークを作るウルシュラちゃん。私がセーフハウスで教えたポーズだ。可愛い。


「えぇ! 新人さんなんですか!?」


 その可愛さに店員さんが胸キュンした事が傍から見てても分かる。しかもそれが新人だとは! 驚くのは当然といえる。ふふふ。どこのお姉さんもロリアイドルには基本的に弱いのだ。


 店員さんがキャーどーしよー!

 可愛すぎてお姉ちゃん困っちゃうー! という表情をしている。


「てっきり既に活躍されている方かと想いまして……。 あの、あの、 失礼なのは承知しておりますが、お名前を教えていただけますか?」


 モジモジと尋ねる店員さん。


「シュラです。 よろしくね」


 無表情なまま、前へ突き出した両手を振るウルシュラちゃん。アイドルとして無表情なのはどうよ……とは思っていたけれど、 ウルシュラちゃんの場合、それで寧ろ魅力が増すのだから恐ろしいものである。 あれは今後狂信的なファンがついてもおかしくない。


 つか、偽名とは言え、名前、教えちゃっていいのか。ならば遠慮はすまい。私もアイドル営業させていただきましょう。


「えーと、 ソルヤちゃん?」 と、私は店員さんに声をかける。


 なんで私の名前を? と、怪訝な顔をする彼女の胸元にあるネームプレートを笑顔で指差す。ああ、なるほど! と、一瞬で警戒心が解けた。人は名前で呼ばれると嬉しくなるものなのだ。意味はまだ分からないけれど、幾つかの文字を発音出来るようになってて良かった!


「ソルヤちゃん! まだ入門前だけれど会えて嬉しいな! 私はユーリ! まだ新人だけれど、がんばるから応援よろしくねっ」


 私は立ち上がり、店員……ソルヤちゃんの両手を握ってブンブンと振った。まるで昔同級生だった友達に再開したかのような、屈託のない笑顔で。お久しぶり! 会いたかったよ! 元気してた? また会おうね! という感じで。


「あぁっ、はいっ! はいっ! シュラちゃんとユーリちゃん! がんばってください! 公演絶対観に行きますから!!」


 ソルヤちゃんは興奮で顔を上気させたまま、店内に戻って行った。店内の他の店員さん達に私達の事を伝えたのか、全員がこちらを見てくる。それに大きく手を振り返すと、キャー! という声がこちらにも聞こえてきそうにはしゃいでいた。


 よっしゃ、 ユーリちゃんとして、ファン第一号ゲッツ!


「……さすがゆりか様。アイドル。凄い」


 パフェを食べながら、ウルシュラちゃんが感心した口調で言う。


 アイドルという単語のイメージは、先ほど踊り子商店前で伝達済みだ。たぶん握手会とかファン交流イベントのイメージも同時に伝わっていたのだろう。さきほどのウルシュラちゃんはそれを再現していたという訳か。


「一緒にアイドルのトップ、目指そうね!! シュラちゃん!」


 敢えてアイドルネームの方で呼んで見る。


「目的……勝手に変えちゃダメ……」


 しかしまんざらでもなさそうなウルシュラちゃんである。その表情を見ながら私はカフェラテモドキを一口啜ってみた。


 うん? どっちかといえばロイヤルミルクティーっぽい。中にチョコレートのような、 甘くて苦い物が入っているのか。これはこれで好みである。


「それ、カフェラテで間違いない?」と尋ねてくるウルシュラちゃん。


「大体あっているよ。 ちょっと違う部分もあるけれど、これは気に入った!」


 イメージがそこそこ正しく伝わっている事を確認出来たのか、安堵した表情を彼女は浮かべた。


「で、私としては、 ウルシュラちゃんのそれも、ちょっと気になるんだけれど」


「んー。 食べてみる?」


「うん。あーん」と、雛鳥のように口を開けて待つ私。


「ほい」と、ウルシュラちゃんがクリームと果物を一欠片、スプーンに載せたまま私の口に挿れてきた。


「はむんっ」 とパクつく。


 おー、美味しい。でもこれは牛乳じゃなくて、なんだろう。 ヤギの乳でも使ったクリームなのだろうか。 草っぽさが残っているが、果物の甘酸っぱさがそれを打ち消して、乳の濃厚さを際立たせている。


「もう一口ちょーだい!」


「んー、ほい」 と、 また一口分、スプーンで私の口に放り込んできた。


 なぜかウルシュラちゃんの顔が赤い気がする。あ、もしかして……


「さっきの翻訳飴の事、思い出してた?」


 にひひっと笑う私。


「……むぅー」 と、 からかわれた事に不満を垂れつつも、 翻訳飴の事は否定しないのか。君がもう少し大人になって、まだ私の事を好きでいてくれたら、その時は飴無しでちゅっちゅしようね。



「よう、そこの美少女ちゃん達。相席いいかな?」


 ぬ。 誰だ私とウルシュラちゃんのほのぼのタイムを邪魔する男は。


 私達の同意も得ずに、ちゃらちゃらとしたその男は、空いている椅子を引いて勝手に座ってきやがった。


 見た目は30代前半。

 貴族のような派手さはないが、王都の一般市民よりも良い素材で作られた衣装を着ている。 日焼けした肌色。 髪は白髪がやや混じった銀髪を短い坊主頭にしている。


 うわぁ。8のつく職業の人っぽいなぁ。金色のネックレスをつけたらまんまそれだ。


「ソルヤちゃーん、 いつものお願いね!」


 おや。ここの常連客なのだろうか。


 改めて目の前のこの軽薄そうな男を観察してみる……ん? いや、これはそういう演技なのだなと、正面から見て感じ取った。 こいつがウルシュラちゃんのいう案内人だろうか。


「……お、さすがだねぇ」


 私の観察結果を感じ取ったのか。 さっきまでのちゃらちゃらしたノリが急激に薄まり、やり手のプロデューサーのような雰囲気が出てきた。こっちも本性では無い気がするが……本質には近いようだ。


「俺はヴァルト。 ヴァルト・アハマヴァーラ。 踊り子商会タンシャージャの総支配人だ。 よろしくな、新人ちゃん」

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