第1話 美少女を口説くなら夕暮れを待て
新作「女装レイヤー俺氏。女の子になってしまったので女子レイヤー仲間増やして百合百合するです」
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百合エルフは科学と魔法で無双する
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上記二作品もよろしくお願いします。
私は富士見ゆりか。 16歳。
可愛い女の子好きが高じて、なぜかアイドルやってます!!
今日はゴールデンタイム向けバラエティ番組の収録である。ぶっちゃけ、ひな壇でただ愛想振りまくだけの内容なので、番組自体はどうでもよろしい。私にとって重要なのは、他のアイドルちゃん達と楽屋でワイワイ出来るって事。
収録が終わり楽屋でみんなでお喋りしていると、他の番組を収録していた叶真弓ちゃんも休憩に入ってきた。
「「「おはようございます!」」」
時刻はすでに夜だが、挨拶は常におはようございますだ。
真弓ちゃんは同じ事務所の先輩アイドルであるのと同時に、同じ学校の先輩でもある。
業界に特別な挨拶習慣があるように、その学校の挨拶習慣にもまた特徴がある。他のアイドルちゃん達も私と真弓ちゃんがその挨拶をする事を毎回期待している節がある。それを真弓ちゃんも分かっているのか、学校外なのに律儀にその挨拶をしてくれる。
「ゆりか、ごきげんよう」
「真弓ちゃん、ごきげんよう」
キャー! と楽屋が湧いた。私と真弓ちゃんが会う度にしているお約束行事なのに、この光景を見るとやはり皆喜ぶみたいだ。でもまぁ分からないでもない。だって私もそれに憧れてこの学校に入ったのだから。
「そうそう、ゆりか、明日はオフなんですって? 田中さんから聞いたわ。 私もオフなのよ。珍しいわよね、お互いオフの日が被るなんて」
田中女史は私のマネージャーだ。 私と真弓ちゃんと仲が良いのを知っているのか、私の情報を時々横流ししてくれる。ありがたい。
「そうなの!? 珍しいよね。 じゃあ、せっかくだし明日の放課後、近くのカフェ行かない?夏限定メニュー始まったってさ」
学校の近くにはOGであると思われる方が経営している、素敵なカフェがあるのだ。うちの学生が「近くのカフェ」と言えば、大抵ここを指す。
「そうね、最近ゆりかとはゆっくり喋れなかったし。 いいわよ。 じゃあ放課後にゆりかの教室まで迎えに行くわね」
やったー! 真弓ちゃんとデートだ! 田中さんありがとう!
そこで、さっきまで私と喋っていた新人中学生アイドルちゃんが感激したかのように、再び声をかけてきた。
「叶先輩と富士見先輩は、もしかしてあのお嬢様学校に通われていらっしゃるのですか?」
おや、この娘は私達があの学校に通っているって事を知らなかったのか。私はお嬢様って感じじゃないから、中学生アイドルちゃんが驚くのも無理もない。
そこに私達と仲のいい別の高校生アイドルちゃんも話に加わってきた。
「二人共、お姉さまとかいわれてモテるんじゃないの~?」
「私はともかくとして、真弓ちゃんは学校では本当にお嬢様って感じだからねぇ」
真弓ちゃんはお姉さまと慕われているけれど、特定の「妹」を持たないと宣言している。
「でもゆりかちゃんはお姉さまってより、お姉ちゃん!って感じよねー」
「「ねー」」 と、 高校生アイドルちゃんと中学生アイドルちゃんが笑いあった。
ふはは、事実なので他人に言われると腹がたつ。こやつめ、あとで可愛がってあげなければ!!
「ふふっ。私にとってはゆりかは世話のやける妹かしら」
え!? 初めて妹って言われた。 嬉しい!!
「ま、真弓お姉さま……」
「こら、ゆりか。私の事をそう呼ばないって約束したでしょ」
どこかの小説に憧れて入ったお嬢様学校で出会った真弓ちゃんは、私と仲が良い。 私があまり典型的なお嬢様学校の生徒ではないだからだろうか。だからこそ、私が彼女の事をお姉さまと呼ぶのを嫌がる。
それでも、私は心の中で彼女の事を真弓お姉さまと呼んでいるのだ。自分が入学する前に夢見たお姉さまが、まさしく真弓ちゃんなのだから。
そのせいか、私は可愛い女の子を見れば即座にアプローチをかけるれども、真弓ちゃんにだけは、普通の親友としての一線を超えないようにしてきた。
愛していると言ってもいいくらいなのに! だからこそ、彼女へ更に一歩踏み出す事を、私は恐れているのだろうか。
明日のデートも、ただ単に近くのカフェでお茶をするって程度の、他愛もない約束に過ぎない。
翌日。前日に収録の疲れとデートの約束で少し寝不足&疲れ気味だった私は、放課後の約束の時間まで余裕があるからと、つい教室でうたた寝してしまったみたいだ。
……風に吹かれた制服のタイに頬を撫でられて目覚めて見ると、私はいつのまにか、だだっ広い草原で寝っ転がっており……そして周りを15人ほどで構成された騎馬隊に囲まれていた。
「アーハン?」
私は脳の動きが鈍くなっているのを自覚しつつ、立ち上がって彼らを見渡してみる。
全員がファンタジー映画に出てきそうな甲冑を装着している。装備している兜はフルフェイスタイプで表情が見えない。とてつもない威圧感。
だがこちらに危害を与えるような雰囲気でもなさそうだ。最前列に居並んだ二人の騎士の片方が馬から降りてくる。
よく見てみると、この二人が装着している甲冑の装飾は他の人たちよりも派手だ。隊長と副隊長とかなんかだろうか。私に向かって優しく何か語りかけてきた。
「xxx、xxxxx」
……聞いた事の無い言語だ。 しかしその母性溢れつつも甘い声に一瞬緊張が解けてしまった。言っている意味は分からないが、『大丈夫。安心して』とか、そのようなニュアンスのようだ。
「え……えっと、どぅ……どぅゆーすぴーくイングリッシュ?」
取り敢えず英語で返してみるも、反応は芳しくない。私の発音が悪いって……事もあるかもしれないけれど。
彼女の後ろに控えている騎士達は、私が言葉を理解出来ない事に軽くどよめいたよう。しかし目の前の彼女は通じなくて当然と言わんばかりに冷静だ。
それでも私を不安がらせないようにか、彼女は兜の顎紐を解き出した。
どんな女性なのかしら……声から推測するに、優しいお姉さんなのだろう……。
彼女が兜を外すのと同時に、ふわり、甘い香りが漂って来た。
その匂いを運んできた夏風にたなびく銀色の長髪。それは光加減によってはピンク色にも藍色にも見える。
ワインレッドのような濃い赤い瞳は慈愛に満ちていた。そして更に目を惹くのは、上に伸びたウサギのような長い耳。
兜着用時は威圧感が認識の邪魔をしていたけれど、いざ対面してみると私よりも頭一個分小さい、可愛いくて思わず甘えたくなるようなウサミミの女性だった。
……え、ウサミミ……?
ここで私はようやく察した。なるほど、そういうドッキリね!
謎の言語を喋る騎馬隊に突然囲まれたアイドルはどのように反応するのか!? 的内容から、この夏公開されるハリウッドの大作ファンタジー映画の番宣に繋ぐいつものパターンだろう。
「……さすがハリウッド……完璧な特殊メイクね……」
おっと、いけない。思わず素が出てしまった。これは一旦カット入るかな?
チラッと周りを見てみるが、誰も私の発言を気にしていないみたい。さすが娯楽大国のプロ。仕込みも一流すぎる。
私を心配させまいとでもしているのか。ウサミミさんは笑顔を崩さないまま、『ほ~ら、ウサちゃんですよ~』と言わんばかりに両耳を軽くピコピコと折り曲げる動きをしてみせてくれる。
なんてキュートなの……。はぁ、早く収録終わらせてこのウサちゃんとお喋りしたい。真弓ちゃんとの約束を強引にすっぽかされた代償は、彼女とのおデートで埋めさせていただこう。
ドッキリと分かってしまえばなんて事は無い。こんな企画を思いつきそうな幾人かと、事前に通達してこなかった田中さんを心の中で一通り罵倒しつつ、調子を整えて私は演技を開始した。
「さ……さっきまで学校にいたのに……目覚めたら……急に知らない場所にいて……」
瞬時の判断の結果、ここは『懸命に泣くまいとしながらも思わず涙声になってしまう』演技で、無垢な美少女感をアピールする事にした。少し前に主演したドラマ内で、恋人が不治の病に冒されている事を知った時のヒロインのノリだ。
大げさなリアクションを取るお笑い路線もありだが、田中さんというか事務所が許可すまい。
ウサミミさんがオロオロと困惑しながら、私の両手を軽く握ってきた。
なんだか本気で安心させてくれるその動きに誘われるように、涙をこらえる演技をしながら彼女に抱きついた。彼女はそんな私の頭をゆっくりと撫でながら、耳元で何かを囁いてくれる。相変わらず言っている言葉の意味はわからないが、とても落ち着く声色だ。
それはとても自然な動きで、まるで演技じゃないみたい。
ややして、ウサミミさんが私から一歩後退し、腰ポーチからガラス玉のような物を取り出した。
それが彼女の手の平に置かれると……光る魔法陣のようなエフェクトが発生した。手の平で回転しながら玉へ収束していき、淡い光を放ち出す。
プロジェクションマッピングかなんかだろうか。無駄にかっこいい演出である。年末の特番並みにお金かかってるなぁ、このドッキリ。
笑ったらケツバットでもされてしまうのだろうか。
ウサミミさんはその光るガラス玉を彼女の口に放り込み、左手をさっと上げた。
それは事前に打ち合わせてあった合図だったようだ。すかさずもう片方の隊長らしき人が、何かの号令を全隊にかけた。するとウサミミさん以外の全員が馬ごと後ろ向きになるよう、隊列が瞬時に組み直される。惚れ惚れするほど統率の取れた動きだ。
全員が後ろへ向いた事を確認したウサミミさんが再び近づいて来た。
私を抱きしめたかと思うと……
キスをしてきた。
「んっん~~!?!?」
ちょっとまってー!
こんなのお茶の間に流せないでしょう!
どこの深夜番組だよこれ!!
ハリウッド大作映画の番宣じゃなかったの!?
いくら私が女の子大好きだからって、しかも相手は可愛いウサミミお姉さんだからといって、いきなりキスされては拒絶感がある。
しかしそれはとても甘いキスで、抗えるものではなかった。どうやら彼女が先程口に含んだものは飴玉だったようだ。光る飴玉。ファンタジーだね……そんな溶けかかった飴玉をコロコロと彼女が口の中で転がして溶かしていき、私の中に移し入れた。
飴が私のベロに触れた瞬間、脳にスパークが疾走った。まずは言葉だ。眼の前の女性の思考を経由して、言葉が流れ込んできた。そしてこの世界の大体のイメージも……本当にドッキリなのだろうかこれは……。
飴玉で必要以上に甘く、そして刺激的になったキスはそこで終了してしまった。私たちの間にかかっていた半透明な糸が消え行くのを、彼女は名残惜しそうな目で見届けたあと、陶然とした微笑で言った。
「突然の無礼をお許しください。そして……お待ちしておりました……勇者様」
初小説です。
可愛い女の子達が頑張る姿、描いて行きたいですね。
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