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友達

買い物から帰って来ました。

 (はるか)は家に入る前に、物置小屋の裏で中二の自分に変身した。

変身するのに場所を探すのが大変だ。外は寒いし・・。

大きな店にはトイレがたくさんある。そんな場所だと変身しやすい。しかし近所のスーパーのような所ではトイレの数も少ないので入っていった人と出てきた人が違いすぎると疑問を持つ人も出てくるだろう。

どこかの国のヒーローみたいに電話ボックスや回転ドアがあればいいが、最近はそんなものをあまり見かけない。街頭にも備え付けのカメラがあるし、携帯を持っている人が多いのでどこで姿を撮影されるかわからない。ツイッターで「おかしな人発見、ナウ。」なんてつぶやかれたら、逃げ惑う羽目になる。


そうしてみれば、隠れて何かをできない世の中になって来てるのねぇ。泥棒や芸能人はどーやって生活してるんだろう?

泥棒と芸能人を並べて考える遥はどうかと思うが、変身することを考えただけでも一昔前に放映されていたテレビの変身アニメのようにはいかないようだ。


遥が北風に押されるように家の玄関に飛び込むと、美玖(みく)がピアノ教室から帰ってきていた。

「お姉ちゃん、ズルいっ。私も一緒に買い物に行きたかったのにぃ。」

もう、本当に目ざとい妹だ。

遥の持っていたお店のビニール袋を見て、すぐにどこへ行っていたのかわかったようだ。

「また今度ね。土曜日に出かけるからこの服が早く欲しかったの。」

「まさかデート?!」

「そんなわけないじゃない。」

「だよね。・・言ってみただけ。」

クッ、にくったらしい。

遥は美玖の頭を持っていたビニール袋で叩いて、二階の自分の部屋へあがった。


このハイネックのセーターを買ったので、遥のお年玉は底をついてしまった。

はぁ~、しばらくはお姉さんに変身して買い物に行けないなぁ。

ファッション誌に出てくるような格好をしてウィンドウショッピングをするのは楽しかったのだが、次回は違う変身の仕方を考えなければならないようだ。

今度はどんな風に変身しようかしら。


山内君、芳樹(よしき)の家がわかったかしら。芳樹の家へ曲がる角で別れたけど、今頃どうしてるのかなぁ。

ぼんやりと考えていた遥の頭の中に浮かび上がって来たのは、何故か次の変身計画ではなくて山内翔(やまうちかける)の姿だった。

山内君と話をするのって楽しかったな。あの人、どうして学校ではしゃべらないんだろう。話が苦手って訳でもなさそうだし。そう言えば学級委員になった時はホームルームの司会もちゃんとしてたよね。

女の子とだけ話さないのかなぁ。思春期症候群なのかもね。


山内君って、どこに住んでるんだろ? 山内君の部屋ってどんな部屋なんだろう?

遥の妄想はどんどん広がっていった。

しかし想う対象が変わってきていることに、遥は気づいていなかった。



 土曜日に遥は市営図書館に来ていた。

恵麻(えま)ちゃんと美月(みつき)を待つために、窓から駐輪場が見える学習机を確保する。

あっ、来た。

恵麻ちゃんは相変わらずサラサラのロングヘアを二つに(くく)って、ウサギみたいだ。大き目のフリルがついたピンクのスカートが可愛い。

美月は恵麻ちゃんとは対照的にボーイッシュな格好をしている。紺色のジャケットにジーパン、中に着ているセーターが赤なので女の子だということがかろうじてわかるが、髪もショートだし足元は部活でも使うバスケットシューズだ。

やれやれ二人で並んでたらカップルみたい。背丈もちょうどいいし。芳樹(よしき)、あんた負けてるよ。

遥は恵麻ちゃんの彼になったばかりの幼馴染に、心の中で手を合わせた。


「あけおめ!」

「そうか、美月は今年初めてだね。おめでとう、今年もよろしくぅ。」

遥がそう言うと、美月はニヤニヤして遥の向かいの席に座った。

「始業式に遥の方を見てたんだけどなー。遥は誰かさんの方ばかり見てて、私のことなんかガン無視だったね。」

「え?そうだった? ごめん。わかんなかった。」

「はぁ~、あんたってもう。二年になって一人だけ違うクラスになった私のことを少しは考えてよっ。」

美月は恵麻ちゃんと同じ小学校で家も近い仲良しだ。一年生の時にどちらかというと遥の方が二人の仲間に入れてもらった感じになる。けれど中二のクラス分けの時に、美月だけが隣のクラスになってしまった。

美月はがっかりしていたが、もともと明るい性格なのですぐに友達も出来て楽しそうにしていたので、遥もあまり美月の心配をしていなかった。

でも今の言い方を聞くと、美月は一年の時のように三人でやっていきたかったらしい。


「三年は、三人一緒のクラスになれたらいいね。」

恵麻ちゃんがいつものようにフォローを入れてくれる。

「それなんだよねー。初詣に思わずその事を祈っちゃったよ。」

「でも美月って今のクラスで友達が多いじゃない。」

「遥は遠くからしか見てないからそう思うのよ。あの子らは友達っていうより・・。」

美月が言いよどむと、恵麻ちゃんがすぐに後を続ける。

「ファンなのよ。」

「なんか勘違いしてるんだよね。私はヅカの男役じゃないし。」

ぶーたれる美月を見て、遥は大声で笑いだしそうになったが、周りを見て懸命に(こら)えた。


男前に生まれるというのも大変だ。

その後は周りに気を使って三人で大人しく勉強をしたが、遥は美月の気持ちをもっと()むべきだったと反省した。遥は恵麻ちゃんとテニス部もクラスも一緒だったので、ついつい二人でよく話していたが、美月にとってはそれが寂しかったのだろう。

これからは週末にこうして三人で過ごすのを増やすことにしよう。それに恵麻ちゃんがデートでいない時は自分で美月に声をかけようと遥は思ったのだった。


友達との距離の取り方を学ぶ時期だよね。

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