きみ、誰?
次に何が出てきたんでしょうか。
遥が福袋から掴んで出したのは、星の形のチャームがついたネックレスだった。
妹の美玖の福袋に入っていたのは、ハートの形の中にダイヤモンドのようなピンクのガラス玉が一つはめられたペンダントだった。
「私のは星なんだー。」
ガラス玉があるかと思って星のチャームを触ってみたら、ポンッと音がして子犬が飛び出してきた。
遥はギョッとして仰け反ったが、心臓がどきどきしているわりに頭の片隅はどこか平静だった。
おっと、ここまでくるかー。
どんな構造になってるかなんて考えても仕方がないけど・・・生き物はなぁ。お母さんになんて言おう。
「あんまり驚かないね。」
おいおい、しゃべるよこの犬。
「いやぁ、ここまで来るとねぇ。でも驚いてるよっ。生き物が出てくるし、話も出来るみたいだし。」
子犬は立ち上がると遥が持っていたネックレスを取って、自分の首にかけた。
・・・それ私のネックレスじゃないんだね。
子犬の身体はふわふわのクリーム色の短い毛におおわれている。顔つきは柴犬のようだが犬種は定かではない。こういうのも犬種っていっていいのかどうかはわからないけど・・。
「僕はタタン。今年の干支神の使徒だよ。」
「ああ、戌年だもんね。」
「そう。お犬様の指令を受けて遥を助けに来たんだ。この福袋は特殊だから。」
しっかりした口調だ。このタタンという犬は頼りになるかもしれない。
「確かに・・・特殊だね。帽子の機能には驚いたよ。」
「帽子はもう試してみたんだ。あれは頭にのせると帽子だけじゃなくて、年齢も操作できる。髪の毛も自由自在さ。」
えっ? 髪の毛も?
遥は横に置いてあった帽子をもう一度頭に乗せた。そして「ストレートのロングヘアー」を想像してみる。
鏡を覗いてみると・・・ああっ!憧れのストレートのサラサラの髪になった自分がいた!
「すごぉ~い。」
わー、なんか変な感じ。生まれてこの方クルクルした癖っ毛を持て余していたのだ。一度でいいから友達の恵麻ちゃんのような髪になりたいと思っていた。
夢がかなったよー。嬉しいー。
使える。この帽子は使えるねっ。
「・・・そこまでロングだと、ストレートパーマをかけたからとも言えないよ。もっとショートにしないと。」
タタンが苦言を呈す。
「だってぇ、今までロングにしたことがない。いや出来なかったんだもん。やってみたかったのよー。」
タタンって意外と真面目? んーと融通が利かないのかも。
溜息をついたタタンは、仕方がないなぁと言う顔をした。
「人に見られない時だけだよ。誰かに疑問に思われたらお終いだからね。」
「お終い?」
「そう、この福袋の効力が切れるっていうこと。僕も他の人が出てきたら消えるから。呼び出すときはペンダントの星を触って。」
「う、わかった。」
これって気をつけて使わないといけないみたい。せっかくのこんな面白い福袋だもん、出来るだけ長く楽しみたいよね。
「じゃあ、ショルダーバッグを出して。」
「え?そんなものまで入ってるの? 妹のはポーチだったけど。」
福袋に手を入れると袋の底の方に茶色の皮のキャメルのショルダーバッグが入っていた。
「うわぁ、こういうショルダー欲しかったんだっ。」
遥はすぐに肩に交差してかけてみた。
ふふふ、これなら何を着ても合いそう。
「これはね、四次元収納空間と鮮度も保てる機能が付いている。俗にいうマジックバッグとどこでもポケットがくっついたようなものかな。忘れ物をしても部屋の中のタンスの引き出しからハンカチを取り出せる。そして帽子みたいに形も変わるよ。」
タタンの説明に遥はわくわくした。
「うわっ、それ超便利じゃん!」
遥はうっかりの忘れ物が多いので、その機能は本当に助かる。スポーツバッグに変身させて学校へ持って行ったほうがいいかもしれない。
「じゃあ、実験ね。」
遥はショルダーバッグの中に手を入れて、頭の中でイチゴの刺繍の入ったハンカチを思い浮かべる。
すると引き出しのハンカチ入れの中へ入れていたイチゴのハンカチが手に吸い付くようにして出てきた。
「やったー、本当に出てきたよっ!」
喜んでいる遥にタタンは冷静に言った。
「ただし自分のものしか出てこないからね。他人のものを盗ったら犯罪になっちゃうから。」
「なるほどねー、よくできてるわ。これって大きなものも入れられるの?」
「マジックバッグだからたいていのものは入るけど、ビルなんかは入らないと思う。」
バッグにビルを入れようとする人なんかいないよねぇ。でも結構大きなものでも入りそうだな。
「最後にワンピースとソックスが入ってる。それの機能を説明するよ。」
タタンが福袋からビニールの袋に包まれたワンピースとソックスを一足出した。
「この白いワンピースは帽子と同じ機能。想像した形の服と年齢に合わせた大きさに変化できる。ソックスは・・・走るのが1.5倍の速さになる。でも疲れも1.5倍溜まるからこの機能を使うのは非常時だけだね。」
「えー、なんでソックスだけそんな投げやりな機能なのぉ?!」
ここまで色んな商品を作って置いて、ソックスだけ可哀想すぎる。
「さぁ、犬神さまも考えるのが面倒くさくなったんじゃない?」
犬神様ぁ~。
とにもかくにもタタンのお陰で福袋の機能が明らかになった。
タタンがブローチの中に帰ってから、帽子だけ例のブルーのものに変身させて美玖の所へ戦利品を見せに持って行った。
美玖はショルダーバッグが入っていたのを知って「お姉ちゃん、ずるいっ!」としばらくうるさかった。けれど美玖のトイレのせいで福袋をゲットできなくなりそうだった時に、お店の人が機転を利かせて規格外のものを持って来てくれたと説明すると、なんとか気持ちが収まったようだった。やれやれ。
遥はその夜、この不思議な商品たちの使い道を考えてなかなか眠れなかった。
最初に何をしよう。やっぱり・・・あれだよね。
遥は何をするつもりなんでしょう・・。