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疑惑の種

まずい会話を翔に聞かれてしまった遥は・・。

 あれから何度も帰ろうとしたけれど、お菓子があるから遊びにおいでと二人の山内君に誘われて、家に招かれてしまった。

新幹線のDVDを見ながら(りゅう)くんがウトウトと眠ってしまうと、(かける)君が(はるか)にちょっと話があると言う。

さっきの彼女うんぬんの話なんだろうなぁ。でも竜くんとブロックで遊んでいる間に、言い訳は考えておいた。なんとかごまかせると思う。


「竜が起きるとうるさいから、こっちの部屋に来て。」

リビングから隣の座敷を通って廊下に出て目の前にあった(ふすま)を開けると、六畳ほどの控えの間のような部屋があった。そこには机や本棚が置いてあり、隅には畳の部屋に合うようなローベッドが置いてある。

ベッドのそばの畳の上には、遥が持っているのと同じ英単語帳がラインマーカーと一緒に転がっていた。

どうも翔君の部屋のようだ。


「そこに座って。」と言われてベッドに座ったのだが、なんか独特の匂いがした。

これって、翔君の匂い?

遥がドキドキしていることなど気にならないようで、翔君は遥の方を向いて畳に胡坐(あぐら)をかいた。

眼鏡の奥の真剣な目を見て、遥も気を引き締めて翔君に対峙(たいじ)した。


「さっき道で竜と話してたことなんだけど。」

「うん。・・ごめんなさい。親戚のお姉ちゃんに頼まれたの。今度、竜くんに会ったらお兄ちゃんに彼女がいるかどうか聞いて欲しいって。」

「そのお姉ちゃんって、誰?」

「それは内緒なんだって。恥ずかしいから。」

遥がそう言うと、翔君は頭をガシガシかいて困った顔をした。


「・・そうか。そしたらそのお姉さんに言っといて。お兄さんは好きな人がいるらしいよって。」

好きな人?! 遥の心臓がギュッとねじれるように痛んだ。

「それって・・・誰なの?」

「それはお兄さんの秘密だ。内緒にしとくよ、恥ずかしいからね。」

でももしかして・・・。

「それって、竜くんが言ってたはるかちゃん?」

「言わない。こういうことは本人同士で話すことだと思うな。・・・はるちゃんが、遥さんなら話してもいいけど。」


えっ?!


遥の顔をじっと見る翔君の鋭い目に、思わず目が泳いでしまう。

ダメだダメだ。ここで踏ん張らないと、福袋が使えなくなっちゃう。


「はるちゃんは、遥さんて人じゃないよ。その人は大きいお姉さんなんでしょ。」

「うん。そこがおかしいんだよな。マンガじゃあるまいし・・・。」

翔君はブツブツ独り言を言っている。

「モールの大通りで大人っぽい格好をした戸田さんを見たと思って、抜け道をして急いで行ってみたらはるちゃんが竜と話してるんだもんなぁ。いくらマスクとズボンと靴が一緒だからって、常軌を逸してるよな。俺も子ども相手に何言ってんだろう・・・。」


ドキーーーーーッ!!


見られてた。


頭が寒くて、髪の毛を温かい帽子に変身させることばかり考えてて、翔君が歩いてることに気づいてなかったよ。


「ふうん、そうなんだ。女の人が歩いてたけど、どこかのお家に入って行ったよ。」

「そうか。やっぱ勘違いだよな。戸田さんちは違う方向だし。」

これはボロが出ないうちに早く帰った方がよさそうだ。


「私、もう帰る。竜くんも寝ちゃったし。」

「ん、そうだな。送っていくよ。はるちゃんの家はどこらへん?」

「ううん、いいよ。お兄ちゃんは勉強があるでしょ。うちは近いし、タタンもいるから。」

「そうか? でも途中まで送るよ。車が危ないからね。うちの竜もまだ危ないから僕が散歩の後をつけて行ってるんだ。あいつは独りでザンダの散歩をしてるつもりだろうけど。」

・・それで後ろからきたのね。

これは送ってもらったほうがいいかもしれない。下手に後をつけられたらバレちゃうかも。


「じゃあ、大きい道を渡るとこまでお願いします。そこから先は新しいお家ばかりだから大丈夫。」

「ああ、駅裏の新興住宅か。わかったわかった。」

翔君が自転車を出している間に、遥は裏の犬小屋の側まで走って行ってペンダントをこすってタタンを呼び出した。

「もうっ、またこの犬がいるっ!まだ帰ってなかったの?」

「シィーー!声を出さないで。翔君にバレそうになっちゃったの。もう少しつき合ってよ。」

「はるちゃん?」

翔君が庭のほうで呼んでいる。

「はーい! ・・・・いい、タタンは犬よっ。ワンだからねっ。」

「わかったよ。本当に使徒をこんなことに・・・。」

「ブツブツ言わないのっ。」


遥がタタンを抱いて表の方に出ていくと、翔君が不思議そうな顔をした。

「あれ? リードは?」

「あ、タタンが嫌がるから抱っこしていく。」

ヤバい。首輪とリードをつけるのを忘れちゃった。

「えっ? 重たくない?」

「重たくないよ。暖かいから・・その・・。」


遥が困っているのを見て、翔君もそれ以上何も言わなかった。

道を渡って新興住宅街の入り口まで来たので、遥は適当な家を選んで指を指した。

「あそこがお家だから。ここからは大丈夫。どうもありがとう。」

「そうか、気をつけてね。」


翔君と別れて、遥は家と家の間へ入ってから今度はおばあさんに変身した。ここまで年齢差があると、もう誰に会っても遥だとはわからないだろう。

「もうしゃべってもいい?」

「うん。ペンダントに戻ってもいいよ。あー、重たかった。タタン、ちょっとダイエットしたら?」

「・・・君って人は。一言だけ言っとくけど、バレそうなんだったら服も変えといたほうがいいよ。」

「あ、そうか。タタン、頭いいね。」

「遥が抜けているとも言う。」

やれやれとタタンが首を振りながらペンダントへ帰って行ったので、遥はペンダントを拾ってショルダーバッグに入れた。

そして、服をおばあさんぽいものに変える。

よしっ、完璧。じゃあそろそろ帰りますか。

今度は道に出てからキョロキョロと周りを見て、人がいないことを確認してから家に向かって歩き出した。


しかし(かける)が近くの家の壁に隠れて様子をうかがっていたことに遥は気づいていなかった。

あらら。

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