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オマケの福袋

あけましておめでとうございます。

今年初の新連載です。

挿絵(By みてみん)  by 銘尾 友朗さん



 目の前の行列を見て、ビビらない人がいるだろうか?

駅の改札を出た途端に始まった大賀デパートの福袋を求める人たちの行列は、駅前の最初の角を右に曲がってデパートの建物をぐるりと一周していた。

「何で駅の目の前にあるデパートに行くために、あんなに遠回りをしなくちゃいけないの?」

この春、中一になる妹の美玖(みく)がそう言うのも無理はない。デパートの入り口は目の前にあるのだ。駅から近いのがここの売りなのに、突き詰めて考えればおかしな現象である。


「仕方がないよ。ここの福袋は去年人気だったから。いい物が出るっていう噂が口コミで広がったんだよきっと。」

(はるか)たちも従妹のお姉さんに聞いて、今年はここで福袋を買うことにしたのだ。他にも同じような人がたくさんいるに違いない。

ブツブツ言う美玖(みく)を連れて列の最後尾に並んだ(はるか)だったが、遥にしてもこの行列は予想外だった。早めに出てきたので、せいぜい二、三十人ぐらいの列に並べば福袋がゲットできると思っていたのだ。都会とは違って、田舎のデパートの新春セールなんてそんなものである。


元旦の早朝の静かな街並みの中で、この場所だけが異様に活気に満ちている。吹きっさらしの風の中で震えながら二時間程待っていたら、福袋のコーナーだけ早めに開店するという放送が聞こえてきた。

「うー、助かった。ねぇお姉ちゃん、一番にトイレに行きたい。」

「ええっ? ここにきて?!」

列が動き始めて店の入り口が見え始めて来た時に、まさかの美玖のトイレ発言だ。

「もうっ、早く行ってきてよ。一応、一つは買っとくから。たぶん一人で二つは買えないもんね。」


後の人に押されるようにして(はるか)が五千円の福袋を一つ買った時には、美玖(みく)はまだトイレから戻ってきていなかった。

せっかく朝早く起きて二時間も並んだのに、土壇場に来てこんなことになるとは。

(はるか)が、列の最後にもう一度並んだ時に美玖(みく)がやっと戻って来た。

「めんごめんご。トイレも混んでてさぁ。」

「はいっ、これ美玖(みく)のね。私はもう一回並ぶから、美玖はお母さんに頼まれた一万円の福袋の列に並んでっ。」

「わかったー。あっちはまだ空いてるね。でもおばさんたちばっかり。」

美玖たら本当にもう・・・どうしようもないな。

でもお母さんの分が買えそうで良かった。年末に風邪をひいたお母さんは未だに咳が止まらないので、お父さんから今日の買い物は禁止だと言われてがっかりしていたのだ。


私の分はまだあるかしら?

列の後ろから見ていても福袋の山がどんどん減っていっているのがわかる。(はるか)はハラハラしながら首を伸ばして前方を見ていた。

「ありがとうございますっ。こちらの方で、今年の福袋はおしまいです!」

店員さんがそう大声で叫んだのは遥の目の前の人の時だった。遥よりちょっと年上に見えるその人は嬉しそうに最後の福袋を買っている。先に買った友達が「残り物には福があるかもよ~。」と声を掛けているのが聞こえる。

「えーーーーっ!」「うそっ!」遥の後ろの方からは大勢の人たちの悲鳴やざわめきが聞こえてきたが、遥は驚き過ぎて声も出なかった。


あー、目の前の人が最後?

・・・・・これって、今年の運試しじゃないよね。遥は今年中学三年生になるので、来年の受験のことを重ね合わせてちょっと気分がトーンダウンした。

仕方ない。美玖のせいなんだから、二千五百円ずつで山分けだね。でもあの袋、美玖のサイズに合わせてSにしたからなぁ。Mサイズの遥には着られる服がないかもしれない。分けてもらえるような小物に二千五百円払うのはきついなぁ。


遥が落ち込んで美玖のいる方へ歩いていると、黒いスーツを着た店員さんが遥を後ろから呼び止めた。

「あの、お客様すみません。ちょっとこちらへ来て頂けますか?」

振り返ってみると、白髪をきれいに撫でつけた品のいいおじいさんがニコニコして遥を呼んでいる。

「はぁ、何でしょう。」

遥がそのおじいさんの方へ行くと、たくさんのダンボールが積み重ねられた後ろの方から、店員さんがひとまわり小さめの福袋を出してきた。

「先程よりお客様の様子を拝見しておりました。せっかく朝早くから並んで頂いたのに、こんなことになってしまい、申し訳なく思いまして・・・。こちらは企画のものとはちょっと違うんですが、中身は企画以上のものが入っております。よろしかったらいかがでしょうか?」


遥の気分が一気に向上して来た。

わぁー、今年はついてるかもしれないっ!

「ぜひっ! 買います、それっ!」

「そうですか? よろしゅうございました。今後共、当デパートをごひいきにお願いいたします。」

遥のような学生にまで腰の低い対応だ。お金を払って、福袋を抱えた遥は幸せな気分になっていた。


「お姉ちゃん、良かった。買えたんだね。お母さんのもゲットしたよ。」

美玖が両方の手に大きな福袋を持って遥の方へやって来た。

実はね・・と特別ワクで福袋を売ってもらったことを美玖に話そうとしたけれど、美玖が後でごちゃごちゃ言ったら煩いと思って「うん。ギリだったけど買えて良かったよ。」とだけ言っておいた。


 美玖は帰りの電車の中で袋のテープを剝がして「このシャツいい感じっ。帽子やソックスまである。うわぁ、このポーチは修学旅行で使いたかったなぁ。」などと興奮して言っている。見たところ全部ブランドものなので、五千円の福袋にしては本当に超豪華バージョンだ。「お姉ちゃんは見ないの?」と言われたが、遥は「家でゆっくり見るよ。」と開けなかった。美玖のものとあまりに違いすぎたら困ると思ったのだ。しかし後から本当に電車の中で開けなくて良かったと思った。


遥の福袋は、とても変わった特殊なものだった。この福袋にこれから振り回されることになるとは、この時の遥は想像してもいなかった。


福袋の中に何が入っていたのか・・それは次回に。何だろう?ワクワク。

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