7.ソウル・幸せな朝
短くて、ライトな描写ですが、一応R15扱いとさせていただきます。そういう傾向を好まれない方は読み飛ばしていただいても、話の展開に支障はございません。ご理解の上、お読みください。
ぐっすり夢も見ないで眠って目覚めた朝。その瞬間から、幸せな気持ちでいっぱいになる。左腕にかかる幸せな重み。穏やかな寝顔で深い眠りの中にいる彼女が、確かにそこにいたから。
昨夜彼女を助けた時には、こんな展開を予想だにしなかった。下心なんかまったくなかった。YURIに念押しされていたし、オレ自身そんな関係を望んでいたから助けた訳じゃない。困っている人を助けるのは男として当然のことだし、あの状況で見て見ぬふりなんかできやしない。あんなに酒に弱いとは知らず飲ませてしまったのは、確かに失敗だとは思うけど、赤が好きだなんて言うぐらいだから、もう少し普通に飲めるんだろうと思うよな。
けど、彼女が酔っ払ったおかげで、彼女の心の奥底にあったマイナスの感情を吐き出すことができたんだから、悪いことじゃなかったと思う。1日だけの恋人として、いっぱい話ができたのも、自分の過去を振り返るためにはよかったと思うし。それは、オレ自身にとってもそうで。彼女がお祖母様のことをとても大好きで、お祖母様からいっぱい愛を受けていたように、オレも唯一祖父からは温かい気持ちをいっぱいもらっていたことに気づかされたから。愛を知らなかった訳じゃないって気づいて、ほんの少しだけれど、自分に自信が持てた気がする。それもすべて彼女のおかげ。今は、心から感謝している。
それに、ただいろんな話をしているだけなのに、自分の中に沸いてくるあの甘やかな感情や、ソファの隣りに座る彼女の手を握るだけであんなに心臓がドキドキすること、そっと触れ合うだけのキスがあんなに心ときめくものだってことも、今までのオレの人生にはない初めての経験だった。
彼女には、ああ言ったけど、それでもまだオレは最後まで進むべきか迷いがあった。少しでも彼女に躊躇があれば、何としてでも止めるつもりで最後までブレーキを掛けてた。けど、彼女にはまったく躊躇が無かったんだ。
昨夜の彼女は、ひたむきにそのすべてでオレを受け止めてくれた。表情も身体も声も、そのすべてがオレを刺激し、喜ばせ、夢中にさせた。抱き合うことで、こんなにも心が満たされたことは今までなかった。まるで夢のような夜だったから、それが夢でなく現実にあったことなんだと、この左腕の重みが教えてくれることが、ただうれしいんだ。
明るい朝の光を受けてオレの腕の中でまどろむ彼女は、言い尽くされた言葉だけれど、まるでオレのために生まれた天使のようで、その背中に羽根がないのが不思議なくらいだ。きっと二度とないこんな朝だから、改めてその愛しい姿をじっくりこの目に焼き付けておこう。
まるでシルクのように輝くなめらかな指どおりのキレイな黒髪。くっきりとした二重の閉じた瞼を縁取る黒く長い睫毛。すっきりと自然に通った鼻筋。口角の上がった薄めの唇はやや赤みが強くて驚くほど柔らかい。ややもすると冷たくなりそうな整った顔立ちを、その大きく黒目がちな瞳と丸い額がかわいらしさを添えて、柔らかい優しい印象に変えている。
顔立ちの良さだけじゃなく、その肌にもオレは驚かされた。白人とは違う、アジア系特有の柔らかな色味を帯びたその白い肌はきめ細かくなめらかで、その上、柔らかくしっとりとしていた。まるで触れるオレの肌に吸いつくような初めての感触に、オレは夢中になってしまった。いくら触れても触れ足りなくて、おかしくなりそうだった。
その細く華奢そうに見えた身体も、オレを驚かせるに充分だった。手足はすんなり細いのに、胸の膨らみや腰の丸みは、思った以上にボリュームと張りがあって、触れる楽しみを与えてくれた。
けど、何よりオレを刺激したのは、彼女の堪えきれずに漏らす甘い艶っぽい声だった。普通に話す時の、落ち着いた心地よいアルトの声が、オレに触れられると一つトーンが上がる。そして、恥ずかしがりの彼女は、どうしても声を堪えようとするから少しくぐもるんだ。それが滅茶苦茶セクシーで、オレを煽る。耳元で小さく喘がれると、身体が痺れるくらいに感じてしまう。
身体の相性がいい、の一言で片付けられない程、彼女はオレに感じたことのない喜びと満ち足りた夜をくれたんだ。初めてだった彼女を大事に扱うつもりだったのに、途中からそんなことも忘れてしまうほど夢中だった。きっと無理させたと思う。だからせめて今はゆっくり眠らせてあげよう。
___ 1日だけの、最高の恋人。
彼女が目覚めたら、最初で最後のデートに誘おう。最高の恋人にふさわしい、思い出に残るような素敵なデートを。オレの腕の中で生まれ変わった彼女に、いい記憶だけが残るように。
オレはそう思いながら、この幸せな夜の続きをもう少し味わいたくて目を閉じた。
次話は、二人の最初で最後のデートのお話です。テオクは百合の思い出に残るデートにできるでしょうか?
よろしかったら、またお付き合いください。