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いつまでも君と見続ける夢  作者: オクノ フミ
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6.ソウル・実家で(2)

 いきなりの急展開に、まったくオレは付いていけない。リリイは、見かけ以上に酔っているらしい。あまり量は飲めないと言っていたけど、もしかしたら飲ませちゃいけないクチだったのかも。絡み酒か?まったく世話の焼けるお嬢さんだ。


 オレみたいな、本気で女の子を愛せないような男に抱いて欲しいなんて言っちゃダメだ、って言ってやらなきゃいけないと理性ではちゃんとわかってるのに、男の本能が、心をグラつかせる。ただでさえ見かけがめっちゃタイプで、その上仕草もかわいくていいなって、ここに来てからずっと思っているというのに…。だけど、ダメ!絶対ダメ!YURIに念を押されただろ?オレの遊び相手なんかにしちゃいけない子なんだ。


 オレがそうやって内心必死にこの状況に抗おうとしてるっていうのに、リリイはズンズンオレに近づいて来る。まったく困った酔っ払いだ。さっき話しただろう?処女は大事にしろって。オレなんかに食われちゃったら、絶対後悔するって。…って、どうした?何だか泣きそうになってる。


 「やっぱり、T-OKさんにとっても私は要らない女なんですね。誰も私のことなんか、本気で必要だって思ってくれない。いつまで経っても私を愛してくれる人なんかきっと一生できないんだ。それじゃ、この先もずっとお祖父様の道具としてだけ生きていかなきゃいけないの?そんなの哀し過ぎる…。」


 足元から崩れ落ちたリリイ。その大きな黒い瞳からは涙のしずくがいくつもいくつも溢れ落ちる。そんな風に泣き出した顔でさえ、かわいいと思ってしまうくらい、オレは心惹かれているいるっていうのに。世の中の他の普通の男だって、きっと同じように思ってるはずなのに。…そうか、結局そんな普通の男と知り合う機会すらないのか。


 家柄とか財産とか、本人とは関係ないところでしか評価されないイヤな世界で生きるには、リリイは純粋で綺麗過ぎるから、ずっとずっと心が満たされずに傷ついて生きてきたんだ。


 もし、オレが抱くことでそんなリリイの世界が少しでも変わるなら。自分に自信が持てて、小さくても希望を持って生きていけるようになるなら。今この手を差し伸べるのは、きっと間違いじゃない。


 「おいで、リリイ。」


 ポロポロと涙を流し続けるリリイに、オレは両手を広げて差し伸べた。すると、泣いたままのリリイが、胸に飛び込んで来た。すぐには泣き止めなくて、オレの腕の中で泣き続けるリリイをぎゅっと抱きしめてやる。


 「大丈夫。泣き止むまで抱いてでやるから。泣きたいだけ泣いたらいいよ。今夜のリリイは、オレの大事な恋人だ。一晩中ずっとそばにいるよ。うんとオレに甘えればいい。そして、リリイが気の済むまで泣いて、それでもオレが欲しいなら、オレがリリイの初めてをもらう。そう決めたから。ね?」

 「ホント?」


 泣き濡れた瞳が、オレを見上げる。


 「ああ、ホントだよ。今夜のリリイはオレの大事な大事な恋人。だから、リリイを幸せにしたい。リリイがオレに抱かれることで幸せになれるなら、心を込めて抱くよ。傷つけるようなことはしないって約束する。オレも、あの世界でたくさんイヤな思いをした。自分らしく生きたくて、必死で今の仕事をやってきたんだ。だから、リリイがこれから自分らしく生きるためのキッカケになればいいって思ってる。リリイを必要としている人はいないんじゃない。まだ、めくり会えてないだけ。リリイが自分に自信を持って、違う世界に一歩踏み出す勇気を上げられたらいいって思うよ。」

 「T-OKさん…」

「…なんて、ちょっとカッコつけ過ぎた。本音を言えば、リリイがオレ好みでこんなにかわいいから、素直に抱きたいだけ。さっきも言ったろ?」




 そう言ってニッコリ笑うT-OKさん。私もつられて笑顔になる。


 「ふふっ、いい笑顔だ。あ、恋人なんだからこれからは名前呼びで。テオクって呼んでごらん。」

 「テオク…。」

 「そう。で、オレは何て呼べばいい?リリイのままでいい?」


 そう問われて。


 「百合って呼んで欲しいです。私のホントの名前。有里と音が同じだから学校時代からすっとリリイって呼ばれてたけど、本当は百合の花の百合って言うんです。」

 「わかった。じゃ、百合、もういっぱい泣いて落ち着いただろ?オレに百合のこと教えて。恋人のこと何も知らないなんておかしいからさ。オレ、こう見えても恋人って自分で言うのは百合が初めてだから。」

 「ウソ?」

 「ホント。自分でもロクでもない男だと思うけど、今までの付き合いは遊びでしかなかったから。母親が、好きになっちゃいけない人に恋して苦しんでるのを見て育ったから、男と女の愛は信じられなかった。自分が本気になるのも、相手に本気になられるのもイヤだったんだ。なのに、どうしてかわかなないけど、百合を抱くなら恋人でなきゃダメだって思ったんだよなぁ。ホント自分でも不思議。」

 「私が、テオクの初めての恋人?」

 「そ、初めての恋人で、明日には、初めてオレを振って去って行く女になる。だから、今夜だけ。目一杯初めての恋人に溺れさせて、百合…。」


 普通に話してる時の響きのいい優しい声とは違う、甘くてでも男っぽくて、私のすべてを耳から溶かそうとするかのような艶っぽい声でテオクにそう囁かれて、抗える女なんているんだろうか?



 私の初めての恋人。見た目だけじゃなく心も本当に素敵な人。私の初めての人…。


 生まれて初めて心から私と向き合ってくれた人と過ごしたこの夜のことを、私はきっと一生忘れないだろう。この夜の幸せな記憶さえあれば、私はこの先も生きていける。たとえこの後の人生に何があっても…。





 次話は、翌朝の回想となります。R15該当部分です。ただし、至ってライトな描写ですので、もしかするとR12相当かもしれません。

 よろしかったら、お付き合いください。

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