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いつまでも君と見続ける夢  作者: オクノ フミ
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2.横浜・ホテルの廊下で

 夜10時を回って、やっと映画完成披露のアフターパーティーが終わった。この後片付けにはまだまだかかるけど、シフトの交代時間が過ぎているし、有里との約束もあるので、後を深夜勤のチーフに任せて、帰ることにした。


 このパーティーがあったために、通常と違うシフトになってしまい、3連続夜勤だったせいで確かに疲れ気味ではあるけれど、このパーティーのおかげで久々親友の有里とゆっくり話す時間が取れたのだから、感謝しなくちゃ。


 バンケットルームからスタッフルームへ回り、私服に着替え、手荷物を持って、有里の宿泊している部屋へ最短距離で向かうべく、スタッフ用の通路から客室へ通じる廊下のドアを開いた。途端何かにぶつかった気配と声が。


 「おっと!」


 慌てて、でも、今度は気をつけて最小限ドアを開いて体を滑り込ませた。大柄な男性の影がそこにはあって、不用意に私がドアを開けたせいで、その男性にぶつけてしまったのだとわかった。


 「申し訳ございません!私の不注意でドアをぶつけてしまいました。お怪我はございませんか?よろしかったら、万一のため、医務室にご案内させていただきますが。」

 「あれっ?リリイさんじゃない?」


 有里が呼ぶ私の愛称を急に呼ばれて驚いた。改めてその大柄な男性を見上げると、さっきパーティー会場で、有里と親しげに話していた男性だと気づいた。


 「申し訳ございません。俳優さんでいらっしゃいますよね?傷ができたりしていませんでしょうか?お仕事に支障が出るようなことがあったら大変ですので、医務室へ…。」

 「ああ、大丈夫大丈夫。気にしないで。ドアに当たったのは、あのカバン。オレは当たってないから。」


 そう言って、男性は隅に置いてある小ぶりのスポーツバッグを指さした。


 「いつもなら外にランニングに出るんだけど、ちょっと飲んでるから止めた方が無難かなと思って。でも、体を動かさないと気持ち悪いからさ。人気の無いここなら邪魔にならないだろうと思ったんだけど、ここ、スタッフの通用口だったんだ。かえって邪魔して悪かったね。」


 柔らかく響く低めの声でそう言って、さわやかに微笑むその男性は、さすがに俳優さんだけあって、ただそこにいるだけで特別なオーラが発せられているようで何だかまぶしい。


 ホテル勤務をしている関係上、著名人や政治家やもちろん芸能人もたくさん見かけて慣れているはずだし、実際さっきパーティー会場で見かけた時は普通だったのに。制服を着ていないプライベートのせいなのか、今は何だか恥ずかしくて、失礼とは思うけれどきちんと顔を向けることができない。


 「いえ。こちらの不注意には変わりませんから。バッグに傷はつきませんでしたでしょうか?必要なら弁償させていただきます。」

 「いいよ、そんなの。床にボンと投げて置いてるバッグなんだから、元々あちこち傷ついてるよ。君が気に病むようなことは何もないから。…あ、じゃ、悪いと思うなら顔を上げてまっすぐオレを見て。それで一言謝ってよ。それだけしてくれたら十分だから。」


 そう言われても、「何だか恥ずかしくて顔を上げられないんです!」とは言えないし…。私が躊躇していると、つかつかとその男性が私に近づいてきた。と思ったら、アゴをくいっと指で持ち上げられ、否応なく真っ直ぐ顔を突き合わせる羽目になった。


男性が、その整った顔にいたずらっぽい表情を浮かべた次の瞬間…私の唇にキスを落とした。わざとチュッと音を立てて放した後、


「う~ん、柔らかい。ごちそうさま。お詫びはこれでお釣りがくるから。何ならお釣りもこれで返す?」


そんな軽い反応をされても、突然のことに驚き過ぎて固まった私。一瞬後、何が起こったのかにやっと気づくと、一気に顔中が真っ赤になったのが自分でもわかった。


「うわ~、かわいい!こんなキスで真っ赤になって。って、まさかファーストキスじゃないよね?」


まだ、驚きから立ち直れなくて声も出せずふるふると首を振る私に


「だよね。こんなキレイなんだもの。彼氏の1人や2人いて当然か。っと、あんまりふざけてるとYURIに刺されちゃいそうだ。ヤバイヤバイ。何たって弟のお嫁さんにして、ホントの姉妹になる計画立ててるらしいから。ま、蚊に刺されたとでも思って忘れてね。じゃあオレ、部屋に戻るわ。素敵な夜を。おやすみ~。」


私が何か言うヒマもなく、その男性は後ろ向きにヒラヒラと手を振りながらスタスタと去ってしまった。脚が長いせいか、あっと言う間に廊下を曲がり視界から消えてしまう。


「い、一体何なのよ!軽薄バカ男!私のキ…。」


呆然とした後、猛烈に怒りが湧き上がってきて、「私のキスを返せ!」と叫ぼうとしたけれど、そこで自分の状況にハッと気づいた。


そうだった。ここはまだ、私の職場で、誰かに見られたり聞かれたりしたら…。ただでさえ、あんなことがあって、いろいろ言われてるのに、これ以上噂のネタを提供する必要なんかない。


私は、気を取り直して、待ってくれているはずの有里の部屋に向かったのだった。



次話は、舞台をこの10日後のソウルに移しての百合のエピソードになります。よろしかったら、またお付き合いください。

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