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いつまでも君と見続ける夢  作者: オクノ フミ
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14.ソウルへの旅立ち(百合サイド)

 私は今、羽田空港にいる。これから、12:20発のソウル便に搭乗するところだ。妊娠4か月に入ったところだけれど、まだお腹が目立ったりはしていない。



 1か月少し前、妊娠がわかったその瞬間には、とにかく幸せで喜びに溢れていたけれど、いざテオクの子供を産もうと思ったら、さまざまな難題にぶつかる事になった。考えれば考えるほど、奥田の家から逃れるには、自分だけの力でどうにかできるとは思えなかった。このままいたら、見合い相手と結婚させられる。そうなれば、テオクの子供は見合い相手の子供として扱われてしまうだろう。そして、ゆくゆくは、祖父の後継者として、私の手から奪われてしまう。一体何をどうしたら、誰か助けて!…と思った時に、浮かんだのがテオクのお祖父様だった。奥田の家から逃げ出すことは、国内では容易ではない。けれど、ソウルへ行けたら、可能性はきっと高くなる。私は、迷ったあげく、テオクのお祖父様に電話で助けを求めた。


 お祖父様は、突然の電話にも親身になって考えて下さり、私が1番信頼できる有里にも協力してもらって、病院探しから難題回避まであらゆることで迷惑を掛けた。それでも、2人とも本気で好きになった人の子供を産みたいという私の強い意思に、何の迷いもなく協力してくれた。そんな2人には感謝しかない。でも、そんな2人にも、子供の父親が誰なのかは伝えていない。



 とにかく、先ず、お見合いを断らなくてはいけなかった。それも、こちらが断られる形で無くてはいけなくて。これは、匿名メールで前の破談の件に適当な尾ひれをつけて数回送っただけで、すぐに片がついた。今からこれでは、この先もスキャンダルとして扱われかねないと判断した先方が、明確な断りの理由を示さず、やんわりと断ってきたのだ。先方のあまりにはっきりしない態度に腹を立てた祖父が問い質しても、「それがこちらの思いやりですよ。」などと言われたため、祖父はさらに激怒したが、こちらから頭を下げるなどと言うことはできない人なので、こんな不義理な相手などこちらだってお断りだ、次を探せばいい、ということになった。


 次は、どうやって祖父の家を出るかだった。これには、見合い話を立て続けに断られたみっともない孫を強調し、せめて留学でもしてみっともない噂が消えるまでしばらく身を隠した方がいいのでは?というアドバイスをもらったと重ねて言うことで、流れが変わった。その上で、韓国なら近いので何かあってもすぐ戻れるし、ワーキングホリデービザで1年間滞在できるから、それを利用したいと言うと、思った以上にあっさり許可が下りた。やはり、体面を気にする祖父にとって、立て続けに縁談を断られたことは、プライドが許さなかったのだろう。ほとぼりが冷めるのを待つ、というのはあながち悪いことではないと考えたようだ。


 そこで、テオクのお祖父様には、ワーキングホリデーで入国し、その際最初の3か月を働く働き口のグループ内のホテルでの仕事と、住む部屋も用意していただけることになった。そして最後に…訳があって、テオクにはこの話をしないようにお願いした。



 まだ、テオクに告げる決心がつかない。私とテオクは、韓国の法律では結婚できないのだ。日本では3親等内に限られるところが、韓国では8親等内が禁婚なのだという。この事実を知った時には、やはり少なからずショックだった。私とテオクははとこの関係。日本の法律なら許されるけれど、愛国心の強いテオクに、自分の国を捨てることなどできないだろう。それでなくても、テオクの仕事を考えると、現状到底結婚できるとも思えない。実際テオク一人で済む問題でもないからだ。私にとっては、これ以上ない幸せな妊娠でも、テオクにとっては予想外の出来事でしかないはず。責任感の強い、思いやりのある人だから、言えば絶対責任を取ろうとするだろう。そういう状況になっても、グループを辞めずに済むのかどうかがわからない。辞めずに済んだとしても、グループやテオク自身の人気に影響が出て、結果お仕事全体に影響が出ることだって十分考えられる。そんな事態は招きたくない。そんなことになるぐらいなら、言わずに私一人で産んで育てた方がずっとマシだ。でも、もしテオクが義務や責任感からでなく本心から子供を望んでくれるなら…。今は考えがまとまらない。この問題は、向こうに着いてからじっくり考えるつもりだ。



 そして、現状の1番の問題は、母のことだった。体の弱い母は、転地療養で今は伊豆の療養施設に入っている。そこの費用は当然祖父が支払っているので、もし、私がこのまま戻らなければどんな状況に陥るのか、予想がつかなかった。できれば連れて行くか、祖父の知らない場所に秘かに移したいと思っても、私にはその財力も手段もない。また、母の体力を考えると、長時間の移動や、慣れない環境への負担も心配で、簡単には動けないと思った。これも、結局テオクのお祖父様が対処してくださった。祖父の系列会社の無い関西の転地場所を探してくださり、移動の負担も最小限で済むよう手配してくださった上に、かかる費用も全部負担してくださった。「百合のお母さんは、ユナの娘だろう?こんな時に助けなくてどうする?」そう力強くおっしゃっていただいて、私は本当にありがたくて。その転地の際に、ほぼ十年ぶりに母にも会えた。一切の連絡を断つことが祖父の支援の条件だったからだ。久々の再会に、二人して声もなく抱き合って泣いた。とりあえず祖父の元から離れることを報告して、おばあちゃんの親戚が見つかって、そちらのお世話になる事だけは伝えておいた。


 母に付き添っての関西への移動でバタバタして、それでも祖父に動きを悟られないためには、何としてもその日の夜には帰らねばならず、やはり無理がかかったのだろう。その翌日、お腹に張りが出た時は、不安で仕方なかった。とにかく安静にして、最低限の食事は摂って。祈るような気持ちでお腹の赤ちゃんに話しかけながら1日過ごして、落ち着いた時には涙が出た。先日の検診でも、経過は順調で、飛行機に乗る事も差し当たりは問題ないだろうと言われた。


 

 そして、今日、ソウルへ旅立つのだ。私と生まれてくるテオクの子供との新しい人生のために。



 「リリイ、元気でね。落ち着いた頃に遊びに行くからね。ホントに体には気をつけて。」

 「有里、ホントにホントにありがとうね。いくら感謝してもし足りない。落ち着いたら連絡するから、遊びに来て。それから、絶対元気な赤ちゃん産むから、生まれたら会いに来てね。」

 「わかった。約束!」


 搭乗案内のアナウンスが流れる中、見送ってくれる有里と別れの挨拶を交わした。いつものようにハグしてくれる有里の温かさが身にしみた。



 次話はテオクサイドに戻り、百合がソウルへ旅立った約8か月後のテオクの様子を語ります。

 よろしかったら、またお付き合いください。

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