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いつまでも君と見続ける夢  作者: オクノ フミ
10/28

9.ソウル・MaHtyカムバックへ始動

 今日からは、新しいアルバム制作に取り掛かる。カムバックは、秋の予定。そこから新しいアルバムを引っさげての約半年に亘るワールドツアーに出る。その5月オーラス・ソウル公演で、来年中の年長組の入隊を発表する手筈になっている。


 入隊の猶予年齢の期限までは、最年長のベクでも来年時点であと2年あるけれど、置かれている現状と年少組のことも考慮して、年長組3人が少し早めの同時期に入隊することで調整しているんだ。オレ達が戻ってきたら、入れ替わりに年少組が行く。移り変わりの早いアイドル界、まったくの空白期間を作らないように最善の選択をした、ということだ。



 このところ、みんな個人活動をしていたから、久々メンバー全員が揃ったのだけれど、まるで違和感なくて居心地がいい。やっぱりこの6人でいるのが自然なんだなぁとしみじみ思う。研究生時代からは11年目。家族と縁の薄いオレにとっては、もはや家族以上の存在になっている。


 今日は、初日だから、アルバムのコンセプトについての話し合い。国内6枚目にして、初の全面セルフプロデュース、その上、これまでは韓国国内と日本向けで別仕様だったものを同一曲での構成にしようということは決まっているから、みんなこれまで以上に真剣だ。


 前回のアルバムが、オレ達史上最高にダンサブルなナンバーを揃えた攻めの内容で、ライブでもムチャクチャ盛り上がったから、次のライブでもそれ以上を目指して、さらに強くダンス志向を打ち出すのか、それとも今のオレ達の年齢じゃなければ出せない、デビューしたての若手アイドルとは一線を画したセクシーさを前面に打ち出すのか。方向性は、そのどちらかの2択だろうというところまでは、すぐたどり着いた。問題は、そのどちらにするかだ。


 リーダーのベクは、こういう時あまり自分の意見を主張しなくなった。これは、この6年間で大きく変わったところ。最年長のリーダーとして、先頭に立ってグイグイ引っ張ろうとしていた時期もあったけれど、今は、みんなの意見を全部吐き出させることに心を砕いている。


 年少組の内、1番年下のユチャンは元々しっかりした性格で、大人しいから自発的には発言しないまでも、話を振ってやれば考えていることをみんなに伝えることもうまくできていたが、他の二人、口数が少なく独特な考え方をするインファと、やんちゃでいつまで経っても子供なセナに関しては、何を考えているのかを推し量るのも大変だし、言っていることも言葉足らずだったり、意味不明だったりで、仕方ないからこっちの考えてる方向性を説明して、とにかく理解してもらうことばかり繰り返していた。そんな二人も20歳を超えたあたりから少しずつ変わって、インファにはもっと上を目指したいという強い向上心が、セナにはファンや周りの人間に対する責任感が感じられるようになった。だからこそ、そんな年少組の意見を大事にしてやりたいという態度に変わったんだと思う。厳格だけど実は優しい心の広いお父さんなんだよな。


 ちなみにベクの次の年長者、オレと同い年のチャンスは、その歌声同様ソフトで優しくみんなを見守るお母さんタイプ。でも、実は怒ると誰よりも怖いので、キレさせないようにだけは気をつけなくちゃいけないんだ。



 今までのところだと、ダンス推しのインファとユチャン、セクシー推しのチャンスとセナ、ベクとオレは中立なカンジになっている。推しのあるそれぞれは、やりたいライブの指向によって分かれているんだと思う。やっぱり自分の持ち味を十二分に発揮して、ファンに最高の物を見てもらいたい、楽しんでもらいたいとそれぞれに思っているんだ。その気持ちはみんな一緒だ。これまで、オレ達はどれだけファンやスタッフのみんなに支えられてきたかを思えば。



 実は、研究生からデビュー組を出すことが決まって以降、オレ達は何度かトラブルに巻き込まれている。抜群の人気を誇った中心メンバーになるはずだったヤツが、飲酒事故を起こして解雇されたり、ファンの人気投票で不正があったり、研究生同士の足の引っ張り合いやネットでのスキャンダル暴露…。みんなデビューする日を目指して必死に努力してきた大事な仲間だったはずなのに、その必死さのあまりの裏切りがショックで、目の前が真っ暗になった。どうしたらいいのかわからなくなって、一歩も前に進めなくなって。


 そんな時にオレ達を後押ししてくれた、1番身近な存在のスタッフ。特に今のマネージャーには、本当に世話になった。そして、いっぱいの応援の気持ちと愛を絶えず届けてくれたファンのみんな。おかげで、立ち直れて、前に進むことができ、デビューしての今がある。どんなに感謝してもし足りないあの時の気持ちを絶対忘れないでいようと誓って、これまでやってきたオレ達。


 今回のセルフプロデュースアルバムは、オレ達のその感謝の気持ちを最大限表現するチャンスだからこそ、絶対に妥協はしないでいこうと決めているんだ。



 熱のこもった打ち合わせが続いて、少し休憩しようということになった。用意された軽食と飲み物を摂り始めると、さっきまでの緊張が少し緩み、部屋の空気が和やかになる。


 そうなると、自然にオレの頭にはあの日の彼女の姿が浮かんでくる。あれ以来毎日そうだ。やらなきゃならないことにはいつもどおり集中して臨めるのだけれど、その緊張から解放された時、オレは知らず彼女との幸せな時間を何度も何度も頭の中でリプレイしている。


 「…ク兄さん、ね、テオク兄さんってば!」

 「ん?あ、何、セナ。」

 「兄さん、今日は何かヘン。もしかして恋でもしてる?」

 「恋?ん~、恋人はできた。でも、振られた。」

 「は?何それ。振られたのに、そんなニヤニヤしておかしくない?」

 「ニヤニヤしてるか?」

 「うん、気持ち悪いくらいにね。」

 「そっか…。何だか今は幸せな気持ちなんだよなぁ~。」

 「それ、おかしい。振られて哀しくないの?」

 「だって、彼女が去ったのは、自分の足で歩き出そうとしてるからなんだ。オレはそんな彼女を心から応援してるし、幸せになってくれたらいいな、って思ってるんだ。」

 「もう、よくわかんない!オレなら彼女を自分で幸せにしてやりたいって思うよ。」

 「いいんだよ。今のオレじゃ彼女を幸せにできないからさ。素敵な思い出をいっぱい残してくれただけで、オレは満足。」

 「それ、絶対ヘンだと思う。とにかく後悔しないでよ。見送る優しさなんて、オレは逃げだと思うから。」

 「そうか?逃げか…。」

 「ほら、もう言ってるそばからニヤニヤして。ヘンヘンヘン、絶対ヘン!」


 セナは、1人でプンプンしながらインファのどころに行った。わがままでお子ちゃまなセナも、何故かインファの言うことだけは、研究生時代からちゃんと聞くんだよな。オレ達年長組にしてみれば、何考えてるんだかよくわからない2人だが、何故か波長が合ってお互いに理解し合えてるらしく、よく一緒にいるんだ。相性ってホント不思議なものだ。



 オレと百合の相性は、どうなんだろう…。いや、そんなこと考えても仕方ないか。オレ達の未来が再び重なることはないだろうから。


 あれから一週間。元気にしてるかな?新しい仕事はうまく見つけられただろうか。ヒスイの件があるから、連絡先は交換しているけど、その件以外では連絡しないでおこうと思ってる。


 自分でもわかってるから。一度連絡してしまったらきっと歯止めが効かなくなる。せっかく新しい世界で幸せになってもらいたくて送り出した百合を、引き戻してしまいそうで。 思い出だけでこれだけ幸せなんだから、これ以上欲張っちゃいけない。オレを幸せにしてくれた初めての恋人の幸せを心から願いながら、オレも日々精一杯生きていこう。


 さあ、まずはこのアルバム制作に全力投球!史上最高のアルバムにするんだ。日本できっと百合も聴いてくれるはずだから、オレのがんばりがちゃんと伝わるように。それを励みに百合もがんばれるように。



 オレは、また気合いを入れ直して、みんなとの作業に取りかかった。




 次話は、百合サイドの東京へ戻ってからのお話になります。

 よろしかったら、またお付き合いください。

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