エピローグ~貴女と月を見る~
忽然と彼の姿は消えていた。
これまでのことを思うと、あまりにあっけない別れだった。
オズヴァルトが息を吐いた。
「……君たちには、すまないことをしたね」
「いえ、彼も望んでいたのです。これが最善だったのでしょう」
シンデレラは、彼のいなくなった場所を見つめる妖精に声をかけた。
「エインセール、私から頼みごとをしてもいいかな」
「え!? は、はい、なんでしょう?」
「しばらくオズヴァルト殿に付き従い、もしこの森で彼のようなものが見つかったら、手助けしてあげてくれないか?」
「え、それって……」
「彼は、『またな』と言っていたぞ?」
「!――――はい!」
「よし、では帰るとしようか。問題ばかりはまだまだ山積みだ」
ルヴェールの『姫』は、そうして前を見て歩み出していった。
希望と共に。
●
燃え盛る炎の中。
かつて多くの者が行き来したであろう大神殿は、今にも溶岩に呑み込まれようとしていた。
その一室で、たった一人残った姫が死の運命を待っていた。
障子を開け、月を見ている。長く艶やかな黒髪の女性。
その顔は、憑き物が落ちたかのように柔らかな表情をしていた。
ついに灼熱が神殿を揺るがし、その偉容が崩れ落ちていく。
轟音と衝撃に、筒姫と呼ばれた少女は恐怖に目をつむった。
「…………?」
いっこうに訪れない「死」に、彼女は目を開けた。
誰かに抱きかかえられ、空を浮かんでいた。
「気づかなかったが、今宵は月が綺麗なのだな」
風の神性によって、彼女らは神殿のあった場所のはるか上空に浮かんでいる。
「どう、して」
「あー、そうだな……」
どう言おうかと迷って、彼はやや情けなく笑った
「途中で思い出したことがあってだな……玉の枝を取らないで帰ってきた」
言外に込められた意図を汲んで、彼女は目を丸くする。
「そんな情けない俺なんだが、求婚の判定はどうなるんだろうか、普通のお嬢さん?」
神性を失い、普通の人間になった彼女を、死の運命から救う――その未来を、彼はつかみ取ったのだ。
理解した彼女の目から涙がこぼれ、笑う。笑顔のそばから涙があふれていた。
「よしよし、もう怖くないからな。今夜は月見でもして語り合おう」
話したい旅の話もあるから、と二人の姿が風に乗って移動をはじめる。
月の照らす暗闇に、どこまでも。
二人はずっと離れることなく消えていった。
終
ここまで読んで戴き、ありがとうございます。
個人的には、人生初めての長編小説の完結となります。
二次創作ではありますが、自分で書き出し、そして物語の終息まで書いたのは不思議な体験でした。
誤字脱字や余計な文は除くようにしましたが、全体のスケールや構成の振り返りはこの経験をもとにしつつ、行うにしても当分先と考えています。
開いた年数分、私自身の思考に変化があったこともありますが、
書きたいだけ書いて、終わるとようやく見えてくるものがあるのだと実感しております。
恥ずかしく、未熟な部分は次の課題として、これからも書くのを続けていこうと思いました。
以下、その他のことなどを。
●ゲーム「タワーオブプリンセス」について
部門賞の通知を見て知り、始める。当時の公開ストーリーまで進める。
体調を崩し始めこの話を書けなくなったと同時にゲームができなくなり、その間に終了した。悲しい。
今回を機に当時のスクショを見て台詞等に違和がないか調べようとしたら、機種変更時のあれこれやで消失していました。悲しい。
良いゲームでした。確かヴィルジナルと扉に関して話していたような……
これは二次創作なのか、発案者側が求めていたものを自分は理解できていたのか。
結果がどうであれ、そういった視点をある程度持つことについて、今後も気をつけていきたいと思います。
●物語の発案(オリジナル部分)について
『姫』を題材していたので、安直に「竹取物語」ベースに選んだ後、当時テレビで見た「ポンペイの悲劇」を合わせる。かぐや姫だと直球だよなあと、竹取に似せつつ後述の「筒姫」がメインでした。
筒姫:夏を司る女神。中国五行説を由来とすれば火を、筒=井戸を意味するということで水を司るという説もある、謎多き神。
不比等:竹取物語でかぐや姫に「蓬莱の玉の枝」を要求される、庫持ちの皇子のモデルとなったと言われる藤原不比等。職人に玉の枝を作らせて騙そうとするが結局失敗する。
アセナ:テュルク神話の雌狼から。
神性:辞書と同様、超自然的または超越的な存在などを指す言葉として使用。
絶極:①=絶:たやす ②=極遠:非常に遠いところ の意味で使用。
●最後に
6年以上も続きを書いておりませんでした。
諸事情あれど、その間にアクセスがあったのを知り驚いています。
興味を持たれた今回初めて読んでくださった方はもちろん、もしその方々がこの部分まで見て下さっていたのなら、改めて御礼申し上げます。
たいへん励みになりました。
(ゲームを好きだった方ではないか、と推測しております)。
2022年5月末日




