表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/79

幕間:いばらの塔シピリカフルーフ

 少し見に行くだけ、と言ってフヒトはエインセールと別れ、シピリカフルーフを目指す。坂になった道を歩くが、その顔に疲れは出ない。どころか、塔に近づくほど表情は晴れやかになり、足取りも軽快になっていくようだった。

「やはり、見覚えがある」

 徐々に見上げる形になっていく幾つもの塔に、フヒトは笑みを浮かべた。なぜだか分からないが、嬉しい気持ちが湧いてきたのだ。

 ここに、自分の為すべきことがある。

 そうと分かるだけで、自分が何者かという不安は押しやれた。どうやら剣術の心得があるらしいが、それ以外はエインセールから聞いたどの話にもピンとくるものがなかった。

 だがこの塔に行けば、すべてが分かる気がする。

 目的も、理由も。

「さあ、着いたぞ」

 そびえる塔の下には落とし格子を備えた、大きく頑丈そうな扉がある。その前に立って、言う。自分に向けた言葉ではない。強いていうなら塔に向かって、あるいはその中の誰かに向かって言ったようなものだった。扉の前にいた兵士が奇異の視線を向けてくるのをフヒトは感じた。それでも気にせず塔を見つめ続ける。

 変化は、待つほどもなく起きた。

 最初は見上げる先で、何かがきらめいたようにしか見えなかった。それが徐々に広がり、人の形をとっていく。

 現れたのは、美しい女性だった。

 波打つ金の髪に、慈愛の光に揺れる紫瞳。

 そして白くぼやけた姿ながらも、暖かく包み込んでくるような波のようなものを感じて、フヒトは確信した。

「『聖女』か」

『――』

 薄い、桃薔薇色の唇がなにかを紡ぐ。

「なんと言った。聞こえぬ!」

『――て』

 たすけて。

 女性が苦しそうな顔をした。元より薄かった身体が輪郭を失い、塔に吸い込まれるように消えていく。

 その姿が完全に消えてしまうより早く、塔へ向かってフヒトは駆け出した。

短かったので次回の予定を。次は9時に投稿されます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ