幕間・サクヤの過ぎ去りし時、5
少女の願いは、すべてで三つあった。
まず光り輝く竹から器を作り、以後の食事はその器でとること。
そののち、火の山でもっとも力強い魔物を狩り、顎にある光玉を得ること。
海で宝貝をとり、光玉とともにこれをすりつぶす。それを燕たちに与えること。
サクヤは村に戻ると、夜になってから暗い竹藪の中をさまよった。すると根元が光る、大きな竹が一本あった。サクヤは筒を光らせるその竹を慎重に切り取り、言われた通りに器を作った。試しに水を入れて飲んでみると、たちまち身体の疲れが吹き飛び、力に満ち溢れた。竹の器には水の神性が宿っていた。器を介して食べる物はその恩恵をあずかれた。
これならばと、サクヤは弓と剣をもち、火の山へと出かけた。
島には火山があり、そこから溢れる溶岩は常に新しき大地を生み出していた。長いあいだ熱く岩ばかりの大地をさまよい、サクヤはもっとも力強き魔物を探した。ある日、火口近くで老爺と老婆に出会った。この地に来た訳を聞くので話すと、老爺と老婆は火の竜に転じて襲いかかってきた。二頭の竜は山の化身であり、最も強き存在だった。青年は弓と剣で挑み、何日も戦い続けた。隠れては不意を突き、不意を突かれては隠れた。疲れたら、器に満たした水を飲み、すぐにまた戦いを続けた。
十日を幾ばくか過ぎたころ、ついに二頭の竜が倒れた。倒れた竜は老爺と老婆に戻り、サクヤの求める物を聞いた。サクヤは顎の光玉を求めた。山の化身たちは応じると、光と炎となって消えた。あとには五色に光る玉と、豪勢な料理が残されていた。
サクヤは玉を収め、料理はありがたく器に入れて食べた。すると、新たに火と光の神性がその身に流れ込んできた。身体中に今までにない力が満ち溢れた。
最後の約束を果たすべく、青年は海へと向かった。数か月ぶりの港町は、どこか寂しく暗い影があった。聞けば、長く続いた戦に大敗したこと、そしていったんは退いた敵が、近く来るだろうということだった。友の安否を気にするも、フヒトの屋敷には誰もおらず、草が伸び生えているだけだった。サクヤは仕方なく、海で宝貝をとり、竜の玉とともに粉とした。団子にして、海燕の舞う場所で空へと投げやった。燕たちは嬉しそうに団子をくわえると、いずこかへ飛び去っていった。余っていたので、次の日も燕たちに団子をやった。
やがて団子はなくなった。
サクヤは少女の願いをすべて叶え、やることがなくなった後も海に来続けた。友とは再会できなかった。将の息子は海竜と戦い、大渦に飲まれ消えたと噂されていた。ならば次の戦で兵となり、仇をとろうと決めていた。