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トリスタン邸の食事会(※よければ、あとがきもお読みください)

「ここがシュネーケンの貴族、トリスタン侯の別邸と知って、そこに立っているかと聞いている!」

 双瞳を剣呑に光らせる彼を、フヒトたちは呆然と見返す。

 不自然な沈黙に、少年騎士のつかんだ手すりが軋みを上げた。

「おい……まさかこの期に及んで、俺を忘れたというつもりか?」

「そ――そんなことありませんよ、エルギデオン!」

 エインセールが慌てて首を振る。

「ただ、あなたがここにいるのが意外で、驚いただけです!――ね、フヒトさん」

「あー……」

「フヒトさん」

「ああ、うん。その通りだ。エルギデオン」

 妖精の声に威圧のようなものが混じり、フヒトはカクカクと首を動かした。

「それに、今日は鎧はつけてないようだが」

「質問してるのは俺だぞ。ルヴェールの騎士」

 鋭くそう返す少年だったが、たしかにその恰好は、いつもの白銀鎧ではなかった。代わりに着ているのは仕立てに金のかかりそうな服であり、それがまた彼の、貴公子めいた風格を引き立てていた。

 いつもと違うのは服だけではなかった。エルギデオンの顔には気まずそうな、動揺の色が見え隠れしている。

「ウォロペアーレは保守派に属しているが、邸内はシュネーケン領も同じ。故なき訪問を許すわけにはいかん!」

「理由ならあるぞ」

 相変わらず語勢の強い少年に、フヒトは静かに返した。

「昼飯を食いに来た」

「えとえと、ゼノさんからご招待されました!」

 軽やかな内容に青筋を浮かべるエルギデオン。何かが暴発しそうな雰囲気だったが、エインセールの言葉がそれを押しとどめる。

「お爺様が、お前たちを食事に招待しただと……」

「『お爺様』、ですか?」

 薄々感じていたことだったが、それでもエインセールは聞き返してしまった。少年騎士が不満げに首肯する。

「ゼノ・トリスタンは俺の祖父だ……よもや休暇中、お前たちと食事を共にするとは思わなかったぞ」



「ふふぁい、ほーほーひふぁふーふーほー」

「全部、食べてからにしろ!」

 料理を頬張ったまま何事か唸るフヒトに、エルギデオンが釘をさす。押し殺された声は、むしろ手に持ったナイフで貫かんばかりの苛立ちを含んでいた。

「しゃべるならそれからだ。どうせならそのまま黙ってここから出ていけ!」

「ほほふ…………いやあ美味い! 舌に美味さが染み入るようだ」

 ようやく口の中が片付き、フヒトは満足げな吐息とともに言語を紡いだ。

「魚の白身から溢れるバターの風味が、たまらんな。作っておられるときも香ばしく感じていたが、食べると口の中が幸せになる。この感動をどう表せばよいのだ、エルギデオン!?」

「知るか! 俺に振るな!」

「はっは、喜んでくれたようで何より」

 食堂のテーブルには海の幸を用いた料理が並べられ、それをかきこんでいくように食べるフヒトにゼノ老が笑い声を発する。

「家内はこっちに来てから料理を覚えたんでなあ。お前さんの食べっぷりは嬉しいだろうて」

「……お爺様。それよりこいつらの行儀悪さを叱ってください」

 食器をガチャガチャと鳴らして食べる『客人』を忌々しそうに見つめ、少年騎士が静かにナイフとフォークを動かして魚肉を口に運んでいく。

「なぁに、腹に入ればみんな同じよ。お前ももっと元気よく食べて構わんのだぞ、エル?」

「……俺はもう、一人前の騎士です」

 言外に『騎士はあんな無様な真似はしない』と言われたフヒトはといえば、隣にいるエインセールの料理を狙っているところだった。

「エインセール、食べるのに苦労してるようだな」

「だ、ダメですよ! これは私のです!」

「食が進んで無いようなら、食ってやるぞ」

「これは楽しみをとってるんですー!」

 彼女の皿に盛られているのは、泡ゼリーだ。海を思わせるマリンブルーのゼラチンの中、気泡が静かに時を止め、食堂の照明にきらめいている。妖精の体に比して大きめのそれを、エインセールは槍のように構えたスプーンで守る。

「いくらフヒトさんといえど、至福の時間を邪魔させはしません!」

「ほう、その覚悟がどれほどか見せてもらおう」

「望むところです! せぇい!」

 フヒトのスプーンをエインセールのスプーンが弾く。

「……む、やるな」

「フッフッフ、伊達にフヒトさんと一緒に旅してはいませんよっ」

「――貴様ら、いい加減にしろよ……」

 スプーン同士が激しくぶつかり合う、とめどないその音に噴火直前を思わせる声がエルギデオンから漏れる。ゼノはそんな孫も含めて面白がっているのか、大きな笑い声を上げた。

「シンデレラの嬢ちゃんも変わった騎士を雇ったのう。お前さん、最近騎士になったばかりだろ」

「ああ。今日で二日か三日目だ」

「なっ……!」

 何気なく返事したフヒトだったが、エルギデオンの表情が変わった。いままでよりも激しくフヒトを睨みつける。

「ふざけるのもいい加減にしろ。嘘をつくな!」

「嘘ではないぞ」

「本当ですっ。私もおととい、記憶を失って倒れているフヒトさんと初めて会ったんですから!」

「信じられるかっ」

 エインセールの言葉を、少年騎士は取り合わなかった。片付いた自分の皿を手にすると、荒々しく立ち上がる。

「たかが二日や三日で、手鏡を渡されるだと? シンデレラ様は判断力がないのか? それとも――」

「エル」

 老人がそう短く発して、エルギデオンが口を閉じる。しかしフヒトを憎々しげに見る視線はいささかも減じなかった。

「俺は認めない」

 そう言って水場に消えていく。しばらくして「すまんの」とゼノが言った。フヒトが首を振って苦笑する。

「また嫌われてしまったな」

「うぅ、最初からずっとですね……あの、エルギデオンは騎士になって長いのですか?」

「んん? そうじゃなー。この前、騎士になったばかりだな」

 もっともその前に二年ほど、騎士見習いだったと老人は付け足した。

「騎士になったのが実力か、あるいは家柄のおかげか、はたまたただの人手不足のせいか、悩んでいるようじゃがな」

「そうだったのですか……」

「実力なら十分すぎると思うが」

 直接戦ってはいないが、フヒトはウヴリの塔で見たエルギデオンの剣さばきを思い出す。

 そもそも、アンネローゼの命令とはいえ、あのホッファが同行を許可していた時点で実力の照明は十分だ。

 あの性格だ。おそらく騎士になるまでに相当修練したのだと容易に想像がつく。フヒトの日数に思うところがあるのも当然と思えた。

「ありがとうよ。それより、お姫様から手鏡を渡されているなんて、ずいぶん期待されてるんじゃな」

「……どういうことだ?」

「魔法の手鏡は貴重なものなんですよ、フヒトさん」

 エインセールが疑問に応えた。

「各都市でも、実績と信頼のある数名の騎士にしか渡されません。あのホッファも、セブンドワーフスっていう、アンネローゼ様直属の騎士団にいて、有名なんですよ」

 言われてみれば彼も鏡を持っていたな、とフヒトは思い返す。

「便利な道具としか思っていなかったな」

「そりゃ、便利な道具に違いないわな」

 そう言って、老人はテーブルからやや身を乗り出した。声が密やかなものとなる。

「で。やはりあれか。夜になったら内緒話というやつになるのか」

「……うん?」

 妙な圧迫感をともなう老人の言葉に、フヒトは気圧されながらも首肯する。

「身の上話や昔の話は、しているな」

 いずれもフヒトの記憶や、聖女の探索の手掛かりになるため始めたことだ。

 ところがゼノはどう思ったのか、興奮した様子で激しくうなずいた。

「おおおおやっぱり若いもんはええのう。身の上話に、昔の話か! ワシもあと五十年若ければ、ルーツィアちゃんの元にはせ参じるというのに!」

「……もしかして、ルーツィア様のことが好きなんですか?」

 身もだえする老人から若干身を引きつつ、エインセールが聞く。

「聞きたいか妖精ちゃん。ワシにそれを聞くか」

「聞いてしまって後悔しています」

「ぜひ聞くがよい。おぬしらも会えば分かるじゃろうて。あの儚げな表情、不安になりながらも必死に頑張る健気さ。そして海の中を優雅に泳ぐボディライン。素肌の美しいボディライン。魅惑のマーメイドライン……」

「じいさん、もう身体のことしか言ってないぞ」

「わざわざここに別荘を建てたのもそのためよ。だというのに呪いのせいで、騎士でなければ祭典以外で会うこともままならぬ。ああ、なんという運命のいたずらじゃあ!」

 どこまで本気か、天を呪うように老人はもろ手を挙げた。

「ああ、ルーツィアたんに微笑まれたい……手鏡で話したり『私だけの騎士』とか言われてみたいのぅ~それが叶うなら死んでもいい!」

「ならいっそ、今天に召されますか?」

 冷たい声に老人が、まるでバジリスクに睨まれたかのごとく固まった。ゼノの背後には、美しく年を経た婦人が立っている。

 ゼノの妻で、フヒトたちに依頼をしたクラリスだった。


※2022年5月29日追記

あらすじ編を書いていましたが、内容を新たに書いて投稿することにしました。

このまま完結まで、約12,3話を投稿します。


【以下は6年前に書いたもの】

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

さて、先日この作品を応募していました「タワプリ部門賞」において、選考の結果が出ました。

結果、この作品は世に出せないと決まりました。自分なりに反省するところ多々あるのですが、「ひとまず完結させて、次へ進もう」と思い「でも、ダラダラ続けても意味がない」とも思いました。


そこで、私の勝手となってしまうのですが、すでに書き上がっていた部分を除き、あらすじ小説によるダイジェストで進める部分が増えます。


作品を書くものとしてどうかな、とも思うのですが、「まともに書きあげるにしても、結果が出たあとではモチベの持続が困難」「自分なりの区切りをつけて、次へ進みたい」とも思うので、以後、ウォロペアーレに関するお話は、プロットから転用した部分をあらすじに変えて書きます(すみません)。


それ以降はずっと以前にすでに書き上がっていたもの、下書き等がありますので、最後の方は普通に書く予定です。


ウォロペアーレ編ダイジェストは、3時間後に投稿予定です。

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