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ヘンテコ姫アリス

 まず目につくのは、頭の上でぴょん、と跳ねた大きな黒いリボン、そして頭の両端でくくられた、二つの金の竜巻だった。青と白を基調とした、フリル付きのエプロンドレスにはハートの図柄が沢山描かれている。

 フヒトを青い瞳で興味深そうにのぞき込んで笑ってるのは、十三、四くらいの少女だった。

『やっほー! 楽しんでるー?』

「……イエーイ」

『ふむふむ。シンデレデレの騎士とティーパーティーでどんな反応になるか楽しみだったけど、いい感じになってて良かったった!』

「全然よくありません!」

 フヒトの反応に楽しそうに笑う少女――ノンノピルツの姫アリスに、エインセールは反駁はんばくした。ティーパーティーの面々を指さす。

「アリス様、どうなってるんですかこの人たちは!?」

『ンフフ~、面白いでしょ? アンネロネロのとこと比べるとまったく、全然、完璧に使えないけど、アリス的にはぁ~、これくらいのイカレ具合がちょうどいいと思うよ!』

「ただでさえフヒトさん変なんですから、これ以上変な人を増やさないでください!」

 失礼極まりない事を言う妖精に、アリスも含み笑いを浮かべる。

『エインセルセルの頭は卵の殻のように固いよ~? 変わってるから、そこから見る世界はとってもたーのしぃ! あーあー、アリスも来訪者君を騎士にして、お話したかったなぁ~』

「え、エインセルセル……って」

 妖精の思考が謎のフレーズに停止した。そしてふと気づく。

 今、彼女は来訪者と呼ばなかったか?

「ヴィルジナル様が言っていた『来訪者』という言葉、アリス様はなにかご存じなのですか!?」

『分かるというか、アリスも高い所から、くるりんくるりん落ちてきた同じ穴のウサギだから。来訪者と移住者っていう違いはあるけれど、イレギュラーな存在には違いないよね♪』

「は、はぁ」

 今のは質問の答えだったのだろうか?

 会話ができているのか不安を覚えつつ、いつの間にか眠ってしまった騎士の顔を見下ろす。

「フヒトさん、記憶がないんです。アリス様は記憶を取り戻す魔法とか、ご存じないのですか?」

 思いついたその案は、意外と上手くいきそうな気がした。ノンノピルツは魔法都市と呼ばれるだけあって、新たな魔法の研究や開発が盛んだと聞く。そしてその第一人者として名を馳せているのも、目の前の少女なのである。

 しかしアリスは、間延びした声で考え込むと、首を振った。

『雪の人が自分で取り戻せって言ったのなら、それが一番幸せなんじゃないかなぁ。気持ちよく寝ているときに無理やり起こされると、エインセルセルも不機嫌になるでしょ~?』

「それは確かに、そうですが」

 しかし、これは眠りの話ではなく失った記憶を取り戻す話で、同じ次元の問題ではない。

 そう反論すると、アリスは双子の縦ロールを揺らした。

『そんなことないないっ。同じ話だよ? 本当の彼は眠ってしまっているのです。とても大事な、コワイ夢から逃げようとしている。今起こせばコワイことは忘れるけど、大事なことも忘れちゃう。アリスはフッヒーに嫌われたくないから、まっすぐ歩いてるところを寄り道させたくないのです』

 本当は声をかけて、グネグネ蛇行もさせてみたいけど、とアリスは付け加えた。

『それとも、頭がハッピーになる魔法を使って、本当にハッピーになるか試してみちゃう?』

「そ、それはやめておきます……」

 エインセールにはよく分からない話だったが、なんとなく、アリスもフヒトを思って考えがあるのだと感じられた。

『それに、ルーツィのところに記憶の手掛かりがあるんだよね~?』

「はい」

 妖精がうなずく。

 ウォロペアーレに急いで向かう一番の理由が、「玉の枝」が海の中にあるらしいという情報だったのだ。

『人魚族に伝わる話の中に、根が銀、茎が金、実が真珠という木が出てくるらしい。珠玉の花というのだが、これはとても長い年月をかけてしか生まれないようだ。玉の枝はこれを指しているのではないだろうか?』

 シンデレラは手鏡での会話中、そう教えてくれた。

 話の真偽を確かめるのが、フヒトの役目だ。

 同時に、実物を目にすれば記憶も少しは戻るだろうと、フヒトは期待している。

『なら、まずはそれで確かめるのが一番っ。アリスもできるだけ助けるから、がんばってね~』

「はい、ありがとうございます!」

 エインセールも笑顔で返す。しながら、こういうやり取りは本来フヒトがするべきことではと思いもした。が、本人が寝てしまった以上、旅のパートナーとして仕方ないと思うことにする。

『それにしても、シンデレデレも面白いよね。フッヒーを誘おうとしたらフラれたと勘違いして、なのに律儀にアンネロネロたちのこと紹介しようとするんだもん。真面目すぎ!』

「はぁ……」

 シンデレラは教会での顛末てんまつも、アリスに話したのだろうか?

 そんな疑問をエインセールが抱いたその時、フヒトが目を開いた。何かに気づいたように、天井に視線を投げる。

 次の瞬間、ストンっという軽い音が、エインセールのすぐ横手でおきた。

「え?」

 エインセールのすぐ横に、柱のようなものが出現し、揺れている。

 床に突き刺さっていたのは、幌を破って落ちてきた矢であった。

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