姫と騎士
「『騎士』志望者?」
アルトグレンツェへの道を歩きながら、フヒトはエインセールに聞く。
「はい。今日はアルトグレンツェに、各地の代表者である『お姫様』たちが会議のために来ているんです」
危険が去ったおかげか、エインセールはフヒトの周囲を軽やかに飛びながら教えてくれる。
「姫に仕え、仲間として戦う人を騎士って言うんですよ……けっこう有名なんですが、これも覚えてませんか?」
「そうだな……まったくだ。では、騎士志望者とやらが『姫』に売り込みに来ているわけか」
姫、という単語に妙な引っ掛かりを覚えつつ、フヒトは言った。
「そうなりますね。といっても、呪いによる混乱のせいでどこも人手不足ですから、よっぽどのことがなければ、どのお姫様も歓迎してくれると思いますよ」
「また呪いか」
なにかにつけて聞くその言葉に、フヒトはそろそろうんざりしてきた。
「結局のところ、その呪いとはなんなんだ?」
「すべての原因、と言われています」
エインセールの声が潜まった。楽しげだった表情が一転して、真顔になっている。
「フヒトさん、森には変な植物があったでしょう?」
「ああ」
「気味が悪いとおっしゃってましたが、森は元々あんな様子じゃなかったんです。緑の深い、そして美しい花の咲く森、ロゼシュタッヘル。本当はとても素敵な場所なんです」
「それが呪いで、あんな風になったというのか」
「はい」
森の様子を思い出して、フヒトは表情を険しくする。
あの場所がそんな風に呼ばれていたとは、到底信じられなかった。
「あの場所だけじゃありません。世界中で呪いの影響が出てるんです。詳しいことは何一つわかっていません。でも呪いに触れた人や動物は、ずっと眠り続けたまま、目を覚まさないんです」
「そうなのか?」
思わず聞き返す。だとしたらかなり大変な状況ではないのか。
「そんなこと、いつ起きたんだ」
「えとえと、三週ほど前です。お姫様たちの今日の会議も、今後についての話し合いのはずですよ」
「なるほど」
ようやくフヒトにも、状況が把握できてきた。
「団結して、降りかかった災いに対抗しようというわけだな」
ところがエインセールは首を振った。
「それが……そういうことでもなくて」
「違うのか」
「確かに半分はそうなのですが……そうですね、今ならアルトグレンツェに入った方が分かりやすいかもしれません」
視界が開けた。木々の群れが終わりをつげる。空には深い青。地にはゆるやかな風になびく緑。森を抜けると、フヒトたちは丘の上に立っていた。
その丘から、村が見える。
村の中央で、たたえられた水が陽光にきらめいている。水の周りを囲むように家々が並び、その中にひときわ大きい建物が一つ見えた。ここからでも、村の中に大勢の人がいるのが分かる。
そして、それよりフヒトの視線を釘付けにしたものがあった。
「着きました。あれがアルトグレンツェですよ!」
エインセールの話を、フヒトはまともに聞いていられなかった。
村のさらに奥、そこに高い塔が幾つも林立しているのが見える。
「石の、柱……」
そしてそれは、フヒトに見覚えのあるものだった。