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塔の調査・終幕

『話はそれたが、彼女の今後の対応を考えよう』

 シンデレラが顔に厳しさを取り戻す。

『フヒト殿はヴィルジナルのことを知らないだろうな。といっても、彼女について知られていることは意外と少ない。頼めるか、エインセール』

「はい」促され、エインセールが説明を始めた。

「最初の聖女が誕生した時に、『雪の女王』という名の女性が祝福したという話があります。雪と氷に閉ざされた最果ての地に城を構え、伝承や歴史に何度もその名が出てくるのが、雪の女王ヴィルジナル様なのです」

「……さっきの女性は、そんな年を取ってるようには見えなかったが」

『卓越した魔法の使い手ならば、自らの容貌を変化させるなど簡単なものだろう。海の魔女しかり、赤の女王しかり、だな。あるいは、ヴィルジナルという名を代々受け継いでいるのかもしれない』

「なるほど、それは分かる」

 フヒトの理解を確認して、エインセールが続きを口にした。

「表舞台に姿を現すことは滅多にないため、実際のところは誰にもわかりません。ですが世界が呪いで覆われた直後から、その姿が各地で目撃されるようになったのです」

『ちょうど、魔物の増加や凶暴化する地域と目撃情報が重なっていた。そのため、魔物たちを裏で操っていると噂されていたんだ』

 情報が繋がって、ようやくフヒトにも先ほどのやり取りが理解できてきた。

「となると、昨日の騒ぎも」

『そうなるな。彼女が現れ、強力な魔物を手ごまとした。その事実がすべてを物語っている。封印を解いたのは、ヴィルジナルだ』

「でも、それならどうして、ここに来たのでしょう?」エインセールが小首を傾げた。

「先ほどの話からだと、ここで襲ってきた魔物は、ヴィルジナル様のしもべだったことになります」

『ふむ。それもそうだな。古狼を配下にする時に連れてきた護衛だとしても、用を成せばここに留める必要もない。備えと言っていたが、なんの備えだったのだろう……』

「壊れた壁の内容ではないのか?」

 フヒトが言った。

 ここに来てヴィルジナルが行ったのは、壁の資料を魔法で壊したことと、フヒトへの忠告くらいだ。考えれば、前者こそ目的だったのではないか。

 しかしシンデレラは、首を振った。

『確かにあの資料は、強力な魔力結晶の製造工程を示していた。しかし、知ったところで我らに対した意味はなかった』

「え、どうしてですか?」

 妖精に訊かれ、シンデレラは苦々しい顔で言葉を紡いだ。

『結晶の材料となるのは人間だ。人から魔力を分離し、高密度の魔力を生み出し、結晶に精製する。しかしそんなことをされれば、魔力の枯渇した者は衰弱状態に陥ってしまうんだ。大抵の場合、長い昏睡状態になるか、死んでしまう』

「そんな!」

「恐ろしいものだな」

『その通りだ。見つけた瞬間は喜んだが、あれは正気の沙汰ではない。ヴィルジナルが破壊しなくとも、フヒト殿に頼んで処理してもらっていただろう』

 そうなると、今度は雪の女王の目的が分からない。魔物がいたことにも、不可解な点が残る。

「……やはり、フヒトさんに関することが鍵では?」

「俺か?」

 自らを指さし、フヒトは顔をしかめる。

「自分で言うのもなんだが、そんな大それた力はもってないぞ?」

『そうはどうだろうか。貴方は戦うに十分すぎる力を持っているようだ。思い出してはいないが、魔狼相手には魔法を使って戦ってもいた。アンネローゼの言う通り、ヴィルジナル自ら接触してきたのは、そんな貴方の存在が見過ごせなかったからだろう』

 シンデレラの顔が険しくなる。

『ルクレティアのこと、そして呪いやフヒト殿の記憶についても何か知っているようだった。いずれにせよ何かを判断するには、まだ不明な点が多すぎる』

「手詰まりですね……とにかく追いかけて、話してもらうしかないですね」

 二人の言葉にうなずき、フヒトは振り返った。ホッファたちがいた。話は終わったらしい。

「私も一度、シュネーケンに戻ることになったわ」イルゼが言った。

「帰りは途中までしか同行できないわ。ごめんなさい」

「いや、たくさん世話になった。感謝する」

 言ってから、フヒトは二人の騎士を見る。

「二人がいなければ、ここまで辿り着くのも困難だった。礼を言う」

「……フン。悪くない腕だった」

 ホッファが言って、階段へと歩き出す。

「シュネーケンに来れば、魔物討伐の手伝いくらいはさせてやる」

 じゃあな、と言って消えていくホッファ。その後を追うエルギデオンが、キッ、とにらみつけてくる。

「貴様、声をかけてもらったからといって粋がるなよ! 俺は貴様を認めんッ。今日こそ共闘だったが、いずれ貴様を下す!」

 変わらずに荒ぶる少年騎士が、そうして階下へと姿を消した。

「むむむ、二人とも相変わらず偉そうですが、少しはフヒトさんの実力を認めてくれているのでしょうか?」

「さあなぁ」

 フヒトは苦笑して、そこで空気の冷たさを感じて外を見た。穴から見える夕日が森の向こうに落ちようとしている。そろそろ日没だ。

「夜の森は危険よ。早く帰りましょう」

 イルゼが促す。

『なら、私も執務に戻るとしよう』

 シンデレラの姿が、鏡の中で薄くなってゆく。

『これから保守派の代表者たちに、今あったことを連絡する。二人にはヴィルジナルの行方が分かり次第、また連絡する』

「承知した」

『気を付けて戻ってくれ』

 そう言って、手鏡からシンデレラの姿は消える。

「では、行くか」

 フヒトたちも、ウヴリの塔を降りていった。


 帰り道はさしたることも起きず、途中でイルゼとも別れた騎士と妖精は、日が没した頃、ルチコル村に到着する。

 しかし休む時間はあまりなかった。

 ヴィルジナルの動きを掴んだとの一報を受け、二人は夜も更けた森を進むことになったのである。

次は二、三話、幕間が入ります。

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