告白?
シンデレラの苦い声に、アンネローゼがフヒトへ視線を転ずる。
『決まりね。お前は今日から私の為に働いてちょうだい』
『そうではない』
今度のシンデレラの声は、鋭かった。
『その者は譲れぬ。諦めるのは、助け合いの方だ』
『……自分が何を言ってるか、分かっているの?』
アンネローゼの目に、不快な色が灯る。同時に、意外そうな光もあった。
『あの女の件が片付けば、返すわよ? それでも、言い出したことをやめるというの?』
『それでもだ。彼は私のものだからな』
頑とした返事に、アンネローゼが――おそらく――珍しくも言葉を失い、呆けたような顔になった。
白雪姫だけではなく、その場の何人かが驚いた顔をしていたが、気にせずシンデレラは言う。
『それにそちらが助け合いを拒もうと、私はこれまでと同じく、助けに行く。ヴィルジナルも追う』
『――ずいぶん、都合のいい頭だこと』
アンネローゼが吐き捨てる。
『もういい。妥協せずすんで、むしろ良かったわ。ホッファ、エルギデオン。お前たちはすぐ帰投しなさい。イルゼ、貴女にもやってもらうことがあるわ』
鏡を使っての会話は終わった。シュネーケンの騎士たちが一度その場を離れ、アンネローゼから指示を受けている。フヒトはそれを尻目に、手鏡に目を落とした。
「あれで良かったのか」
『もちろんだ。確かに利は大きいが、貴方とではつり合いが取れないよ』
「そ、そんなにか……?」
真正面から微笑んでそう言われ、フヒトもさすがにどきりとした。
「う、うむ。なんだか悪くない気分だ」
「良かったですね! でも、シンデレラ様がフヒトさんにそのようなお気持ちを抱いていたとは、ビックリです!」
エインセールがどこかはしゃいだ様子で会話に混ざり……その内容にシンデレラの眉が寄せられた。
『そのようなお気持ち?』
「だって、『彼は私のものだ』と仰ったではないですか。それって、最近話題の書物で、姫が騎士に想いを告げる時の言葉なんですよっ。かなり有名です!」
「ほぅ、そうなのか」
フヒトが驚いて、妖精に転じていた視線を戻す。シンデレラの顔が固まっていた。
――これは、知らなかった流れだな。
『そう、だったのか……しかしそれは、うむ、あれだ、言葉のアヤというものだ』
「え? でも、あの場にいた全員がそう思いましたよ」
『なんだとっ』シンデレラが真っ赤になったまま狼狽えるのを、フヒトは初めて見た。『シュネーケンの者たちが驚いていたのはそういう意味だったのか!? まさか、アンネローゼもか!?』
「いえ、さすがにアンネローゼ様は違うと思いますが……それで、真意は?」
『違う、断じて違うぞ。あれは、好きという意味ではない!』
はっきりとシンデレラは言った。
『そんなことありえない!』
「そ、そこまで言われると、悲しいものがあるな」今度はフヒトの声のトーンが沈んでいった。「友人としての好意くらいはあると思っていたのだが……嫌われていたか」
『だからなぜ、貴方はそう両極端になる……それとこれとは話が違う』
シンデレラは深呼吸をした。
『とはいえ、アンネローゼに貴方がルクレティアの騎士であるとか、私の友だといったところで、通用はしないだろう。とっさに出た言葉だったのだが、誤解はしないでほしい……とにかく、この話はこれで終わりだ』
「しかし」
「でも」
『終わりだ』
そして、ヴィルジナルへの対応を話すことになった。




