塔内の戦闘・後半
当たればひき肉になりそうな斬撃を、すんでのところでかわす。大剣はフヒトの頭上を通り過ぎて、軌道上にあった石壁を砕き散らして止まった。その破壊力たるや、正面から受け止める気など到底思わせないものだ。
「幽霊甲冑というやつか……」
――厄介だな。
巨漢の首なし騎士が剣を引き抜くのを見、フヒトは歯噛みしながらも動けなかった。人でなく怨霊の類であったのは意外だったが、さりとて手にした剣で、効果的な攻撃手段は思い浮かばない。
――どうやる……?
先ほど兜を強打して倒れたが、バランスを崩して倒れたのでなければ、鎧が動く原理は鎧の中か鎧そのものにある。だが、鎧の中は空洞だった。
となれば鎧そのものだが……騎士の、分厚い鎧をサーベルでどうにかするなど論外だ。力と技術で斬れるものには限度がある。
「手詰まりだな」
攻める糸口が見つからないまま、鎧騎士が大剣を手に再び突進してきた。フヒトを肉塊に変えようと、すさまじい勢いで得物を振るってくる。舌打ちして後退するフヒトの眼前で、代わりに犠牲となった壁や床が破壊されていった。そして破壊で生まれた破片をまといながら、首なし騎士が迫ってくる。
速度を増して追いすがってくる剣撃に、フヒトも身を翻して走って避ける。階段前にあった広場からどんどん離れていき、狭い通路に逃げていく。重々しい金属音は付かず離れずその後を追尾した。
「これならどうだ」
目前に迫ってきた角を曲がると見せかけ、走る勢いのまま壁を蹴って駆け上がる。瞬く間に重力が身体を止めるが、その時には騎士鎧が勢いを止められず石壁に激突していた。首なし騎士の動きが止まる。宙でくるりと態勢を直すと、フヒトは軽やかに騎士鎧の肩に着地した。
そのまま、胴鎧に開いた穴へとサーベルを突きこむ。
「……ダメか!」
手首まで埋め込んでも、内面をひっかくように動かしても手応えはない。動き出した騎士鎧を蹴って、着地したフヒトの顔には焦燥があった。
――いっそ、塔の外まで引きずり出すか?
このまま塔内で戦い続けても埒が明かない。木々の入り組んだ森でならまだ対処法もありそうだ――そこまで考えたとき、フヒトの脳裏に疑問が湧いた。
――さっきと何かが、違う。
兜がないため印象は確かに違うが、それ以上のなにかが、先ほどと決定的に違っていた。そもそも、フヒトは目前の魔物を最初『人間』と勘違いしていたのだ。
「……そうか!」
直感的に閃いたその意味に、フヒトは踵を返した。首なし騎士との間合いはもう気にせず、速度をどんどん上げていく。
階段前の広場近くへと戻ってきた。フヒトが目指すモノに気づいて騎士鎧も足を速めるが、追いつかれるより先に、フヒトがそれにたどり着いた。
「やはりこれだったか」
気合一喝、フヒトが転がっていた騎士の兜へと剣を振り下ろした。
切っ先が兜の中へと吸い込まれる寸前、気体のようなものが兜から噴き上がり、斬撃をのがれる。気体はフヒトから離れた位置に集まると、ローブをまとった人影へと実体化した。つば広の帽子の垂れ下がった頭部は騎士同様、顔はうかがいしれない。
「それが正体というわけだな」
首なし騎士が背後から迫ってくる。フヒトはローブの影へと肉迫した。影は杖を取り出すと、その先端から炎の玉を撃ち出してくる。
フヒトの身体が加速した。炎の玉をかわし、次に動かれるより早く、刃をローブへと斬り下げる。
壮絶な悲鳴が上がった。ローブから闇色の気体が喘鳴のように噴き上がる、解け崩れるようにしなびていくローブと同時、騎士鎧も倒れて動かなくなる。最後にローブから氷でできた珠のようなものが出てきて、地面に落ちると砕けて消える。
硝子の割れる音に似たそれが、戦闘の終わりを告げた。




