塔内の戦闘・前半
カッコいいサブタイトルが思い浮かばない……ぴったりとはまるタイトルが
とっさに身を投げ出すだけで精いっぱいだった。
大量の瓦礫が降り注ぎ、地面に墜落した石材が弾けるようにばらまかれる。服や肌を石に掻かれながら、フヒトは地面を転がって起き上がる。
「大丈夫か?」
「うぅ、死ぬかと思いました……」
解いた腕からエインセールが飛び立つ。
「他の方は大丈夫でしょうか?」
「わからん」
天井の落ちてきた場所を中心に大量の粉塵が舞い、視界ははっきりとしない。さらなる崩壊は起こらないようだったが、細かな石の破片が断続的に音を奏でている。
その音に混じって、剣戟の音が聞こえた。おそらくはホッファかエルギデオンのもの。
「あの二人は前の方で離れていた。心配なのはイルゼ殿だが……」
フヒトが目を細める。粉塵の中で蠢く影があった。
「エインセール、彼女の無事を確認してきてもらえるか」
剣を手にした影は、全部で四つ。そのうちの三つは、先ほど現れた赤いスケルトンだ。フヒトに気づいて近づいてくる。
「一体ではなかったのですか!? さすがにまずいのでは」
「うむ。しかし一度、合流しないと退くことも出来ぬ」
だから無事の確認を――そう投げかけた視線に、エインセールも気づいてうなずいた。スケルトンたちを大きく迂回して、奥へと消えていく。それを見届けてから、フヒトは最後の人影に鋭い視線を向けた。
「お前がそいつらの主か」
赤いスケルトンを従え佇んでいるのは、全身を重い鎧で固めた巨漢の騎士だった。フヒトの問いかけに沈黙で応じた騎士は、兜の奥から敵意だけは痛いほどに放散したまま、手にした大剣を構える。
その動きがきっかけか、三体のスケルトンが戦闘機動に入った。骨が動いているとは思えないほどの身のこなしでフヒトに接近すると、三方から囲むように剣を振るう。完全な同時攻撃に、フヒトの顔色が変わった。
金属音と、斬られる音。
包囲網から転がり抜け、立ち上がったフヒトは頬をぬぐった。
「三位一体、達人をも穿つ、か……」
べっとりとついた己の血に、フヒトの声に何かが宿った。
「ならこちらは、一騎当千の気概で参ろうか」
そのまま、赤き屍たちへと疾駆する。
三体のスケルトンは再び包囲しようと動き出し――そのうちの一体が、腰から上を斜めに断たれた形で分離され、地面に転がった。
包囲から抜け出る時にフヒトが斬っていた個体だ。
死して魔物になった彼らはその事実に驚愕したのか、あるいは二体による効果的な戦法に移行しようとしたのか、動きに遅れが生じる。
その隙にフヒトが仕掛けた。手前のスケルトンが突き出した剣の切っ先をかいくぐるや、跳ね上がったサーベルが剣を持つ腕を剪断する。上方へ切り抜けた刃が飛燕の速度で旋回すれば、冗談のように髑髏が斬り落とされていた。
さらに回転の動きは剣から足へと波及する。
鋭い回し蹴りが横合いから斬りかかっていたスケルトンを強襲。赤い屍が超反応で盾をかかげるも、裂帛の気合がそこに加算。軸足が石畳を踏み込んだ反動が筋肉を駆け上がり、同時に上半身の捻りが腰部で収斂。盾と蹴り足が接触した瞬間、さらなるインパクトとして力が上乗せされ、解放される!
そこにどれほどの力が働いたのか、砲弾のように吹き飛んだスケルトンは石の壁に頭から突き刺さり、粉々になって砕け散った。
「なぜ襲ったか、しゃべってもらおうか。ここで何をしている」
上半身と下半身を分かたれたまま地面でうごめくスケルトンを踏み砕いて、フヒトが巨漢の騎士に向き直った。
『……』
変わらずの無言と殺気。手勢が倒されたこともあるいは想定内だったか、全身甲冑の騎士は動じた風もなく、大剣を手に向かってきた。石の床にこびりついた泥や苔を跳ね上げながら突進してくる。見た目の印象と違って、かなり速い。
「だんまりか」
フヒトは嘆息をして、自らも甲冑騎士へと地を蹴った。騎士が大剣を横殴りに叩きつけてくる。その動きを視界に収めた上での跳躍だ。
大剣が風の唸り声とともに立っていた空間を粉砕した時には、フヒトの身体は天井近くまで飛び上がっている。フヒトは逆しまに落下しながら、落下と同時に近づいてきた騎士の後頭部にサーベルを振り抜く。
バケツのような騎士兜に対し、それは致命打に遠いものだったが、フヒトにとっても衝撃による昏倒が目的だ。大人しくさせた後、事情を聞かせてもらう。
果たして一撃は、騎士の後頭部をしたたかに打ち、巨漢は身体をぐらつかせた。自らの突進の勢いもあって、地面を削るように倒れ伏す。衝撃で兜が脱げ、転がった。
「……バカな」
動かなくなった騎士に近寄り――かけて、フヒトが呻いて立ち止まった。
騎士の頭がなかった。
胴の鎧には、ぽっかりと開いた口から、黒い闇がわだかまっているのが見えるだけだ。
「なぜだ、確かに人の気配を感じた」
フヒトの困惑をあざ笑うかのように、伏していた甲冑が動き出した。素早く立ち上がる。
そして首のないまま、大剣を振るってきた。




