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ウヴリの塔へ

 昼時になると、農作業をしていた者たちも村に集まりだす。

 昨日の今日とあって、ルチコル村には魔獣を警戒して騎士や兵士がいつもより多い。自然と食事のできる場所は、多くの人で賑わうことになった。

「ぜったいに何人か、ここを食堂か何かと勘違いしてるわ」

 グレーテルができたばかりのパイを手にし、家の外へ出ていく。

 出荷できないリンゴを使って、騎士や兵士たちに料理を振る舞っているのだ。

「販売専門だったか?」

「だから違うって。ついでに駄菓子屋でもないからな」

 フヒトの疑問に、ヘンゼルが呆れたような目を投げ返してくる。

「お前らを家に入れたのは、助けてもらったのと、今日リンゴの収穫を手伝ってくれた礼だからな」

「でも、お菓子の家って、中も本当にお菓子でできているんですね」

 うっとりした声音で家の中を見まわすのは、アメリアだ。

 その手には、フヒトがグレーテルに頼み込んで作ってもらったクレープがある。

「ここに来るときはいつも気になっていたので、今日はとても幸せです」

「満足してくれたようでなによりだ」

 嬉しそうに、小さな口で少しずつクレープを食べていく彼女に、フヒトは笑いかけた。

「はい。転送の料金も払っていただいて、ありがとうございました」

「いや、無理を言ったのはこちらの方であるからな」

 アメリアと会って、フヒトとエインセールは約束を果たさねばならなかった。そのため果樹園に行き、グレーテルにクレープを作ってもらう代わりに、午前のリンゴ集めを手伝ったのである。

 そして昨日に引き続きピスラの手持ちがなかったフヒトは、情けなくもこの村で知り合ったリーゼロッテに泣きつく羽目になってしまった。

「……でも、そのせいで危険なところに行かれるのでは?」

「なに、どうということはない」

 転送料金は、助けてくれたお礼……とリーゼロッテは言ってくれたが、彼女の祖母には朝ごはんまでごちそうされた後だったので、それは承諾しかねた。

 では代わりにと頼まれたのが、ウヴリの塔の調査である。

 昨日の騒ぎの元になった、『灰色の古狼』が封じられていた場所だ。

 なぜ封印が解かれたのか調査する必要があるのだが、古狼がまだ近辺にいるかもしれないため少人数で調べるわけにもいかず、かといって呪いの対応にどの都市も人手不足の現状、大量の人員を割くわけにもいかない。

 そこでシンデレラとの相談もしたうえで、フヒトが引き受けるのがもっとも妥当という事になったのだ。

「まあ、フヒトさんは戦うのだけはすごいですからね」

「む……褒めてるようで、そこはかとないトゲを感じるぞ、エインセール」

「知りません」

 ぷい、とそっぽを向くエインセール。見ていたアメリアがおずおずとフヒトに訊いた。

「あの、ケンカでもなされたんですか?」

「いや、俺が不機嫌にさせてしまったのだ」

 言われて「ああ」と顔を何度か上下させるアメリア。フヒトとしては、なぜすんなりと納得されているのかはなはだしく不可解であったが、実際不機嫌にさせてしまっているので仕方のない事だとも思えてくる。

 ――とりあえず、楽しんで食べるか。

 予定ではこの後、ウヴリの塔までの地理に詳しいイルゼという人物と会うことになっている。

 それまでは、ルチコル村の料理を楽しんで腹ごしらえするのもまた、良し。

 そう結論すると、フヒトは手を挙げた。

「すまぬ、クレープもう二つ、お願いしたい」

「だから、ここは食堂じゃないって言ってるでしょ!」

 そして、外から戻ってきたグレーテルにかまどに入れられそうになった。

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