表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/79

強さ

「そうか、アンネローゼは私の剣で気付いたのか」

 アルトグレンツェから魔獣との戦い、そして改革派との会話までの顛末を聞いて、シンデレラは申し訳なさそうな顔をした。

「その剣は何年も前、私がルクレティアのそばにいる時は常に持っていた物だ。アンネローゼも目にしていたとは思うが、その状況で気づくとはさすがと言うべきか……嫌な思いをしなかっただろうか?」

「そんなことはない」フヒトは首を振った。

「むしろもっと早く、堂々と言えばよかったと思っている」

「革新派の者から、あらぬ敵意を向けられるかもしれないのにか?」

 問われ、一瞬フヒトは、つっかかってきた少年騎士のことを考えた。

 あれはちょっと行き過ぎでないかとは思うが、

「……別に恥じ入ることでもない。仕え信頼している人を誇りに思うのは、自然だと思う」

「そうか……?」

 フヒトの言葉に一転し、シンデレラは表情をほころばせる。

「貴方にそう言ってもらえて、嬉しい。だがフヒト殿、貴方は正確には、私の騎士ではないのだ」

 ……。

 ――なに?

「それは……俺が騎士に値しないと、いうことか?」

「す、すまない。そうではないんだ。変に誤解をさせてしまったなら申し訳ない」

 フヒトの顔の動きを見て、シンデレラは慌てて貴方は間違いなく騎士だと言いなおす。

「ほんとか?」

「もちろんだ! だからそんな顔をしないでくれ」

 言いつつ、少し嬉しそうな気配のシンデレラ。

 ……もしや、意外と目下の者をいじめて楽しむタイプなのだろうか?

「私が言おうとしたのは、フヒト殿を私の騎士だけにとどまらせておく気はないという事だ。私が貴方に言ったことを覚えているだろうか」

「……ふむ?」

 騎士になった時の話だろうか。

「私が言ったのは、共に戦ってくれるかという問いだけだ。もちろん便宜上は、私に仕える騎士とみなされるだろうが――」シンデレラはいったん言葉を切った。

「もともと貴方を呼んだのはルクレティアだ。ならば、貴方は私と同じ、ルクレティアの騎士というのが、本当のところではないかと思う」

「同じ、ということは――」フヒトはシンデレラの言葉を反芻する。「貴女も、か?」

「そうだ。私もかつて、彼女を守ると騎士の誓いを行った。それだけに今の自分が情けないが……そのようなわけで、我々の間に上下はないと、私は考えている」

「……それで良いのか?」

「もちろんだ。同じ志を持つ貴方とともに戦える、それこそが誇りなのだ」

 だから、とシンデレラは続けた。

「私のことも、シンデレラで構わない。敬語も不要だ。ずっと、しゃべりづらかったのではないか?」

「そ――んなことは、ないぞ?」そう言ってから「あ」とフヒトは言葉を漏らす。

「ないです、ぞ?」

「……むしろ、私以外の者に不敬を働かないか、心配になってきたよ」

「善処する」

「精進してくれ。ルヴェールの名を貶めるような振る舞いをしたら、私とて黙っていないからな?」

 とたんに引き攣ったフヒトに、シンデレラは小さく声を上げて笑う。

「……大の男をつかまえ苛めるとは、悪いお姫様だ」

「フフ、剣では貴方に勝てそうもないからな」

 笑いを収め、シンデレラは良い戦いだったと告げた。

 古狼との戦いだ。

「途中、エインセールが鏡を持ってくれたので、見る事ができた。あの魔物を相手に魔法と剣技を組み合わせた戦い方、実に見事だった。不謹慎だが、子どもの頃聞いた英雄譚を見ているようで、わくわくした」

「そこまで言われると面映ゆいな……」

 まんざらでもなく言って、次にフヒトの眉が「ん?」とひそまった。

「……魔法?」

「うむ。風を身体と剣にまとわせていた……もしかして、気付いていなかったのか?」

 怪訝な彼女の顔へ、フヒトは頭を振った。

 だいたい、自分が魔法を使えるなんて今の今まで思いもしなかった。

「戦っていたせいか、使ったことすら気付かなかった」

「では、身体が覚えていたということだな。記憶を失っていても、身に着けた癖は自然と出てしまうものだと聞いたことがある」

 記憶がないと言えば、とシンデレラは思案気な顔をした。

「何か思い出したことなどはあったのだろうか?」

「いや。それについては全然……」

 強いて言えばと、先ほどエインセールに話したことを繰り返す。

「なるほど、家族か」

「すまん。ハイルリーベのことはさっぱりだ」

 おそらく彼女の聞きたかったことはそれだろうと思うと、若干申し訳ない気がしてきて、フヒトはそう言った。

「いや、そちらはいいんだ」

 しかし、シンデレラは首を振った。

「もちろん、ハイルリーベのことを思い出したのなら、それは大きな助けになるだろう。あの場所が呪いで閉ざされたのは、いばらの塔と何か関係があると思っている識者もいる」

「なのに、よいのか?」

「それとこれとは話が別だろう。言った通り、私との間に上下関係はない。いわば――」

「仲間?」

「そう、でもあるが……」

 シンデレラは何故か言葉に詰まらせた。

「その、できれば、もっと身近に『友』と言いたかったのだが、構わないだろうか? こんな小娘では少々不安かもしれないが」

「不安なんて、そんなこと」

 どこか気弱そうな声がフヒトには意外に聞こえた。応えながらも、やっぱり意外にしか思えない。

「小娘とは、少々卑屈ではないか?」

 都市を代表する『姫』を担い、保守派という勢力のリーダーとして聖女を救おうとしている彼女を、『小娘』なんて言えるワケがない。

 そう言うと、シンデレラは少し困ったような、複雑な笑顔を浮かべた。

「いや、私はただの小娘だよ。たしかに貴族として生まれたし、ルクレティアの騎士になろうと、誰よりも己に厳しくあろうとしてきたとは思う。でも、それだけだ。ルヴェールの街一つとっても、お母様や大臣たちの手腕があってこそ、上手く機能している」

「お母上が?」

「ああ。それに『姫』としてやっていると、悩むことも多々出てくる。そういう時は、お姉様たちにもいろいろと相談して、頼らせてもらっている。アンネローゼとは大違いだ……彼女の雰囲気はもう見て知ってるだろう?」

 フヒトがうなずく。

「ルクレティアほどではないが、彼女とは知らぬ仲ではない。以前はルヴェールの舞踏会にも呼んだことがある。その頃は物静かだが、どこか不思議な存在感があったな。ルクレティアがいるのでその影に隠れてしまう形だったが……私は密かに、その存在感を羨ましく感じていた」

 努力しても持てない何かを、彼女が持っている気がしたからと、シンデレラは遠い日の記憶を思い返すように呟く。

「最初に『改革派』・『保守派』ということを言い出したのもアンネローゼだ。言われた時は、まさかあのようなことを考えていたとは思わなかったよ。ルクレティアの救出を説いて回り、共感してくれる人を探して……とにかく必死だった。アリスやルーツィアの助けもあって、まとまりをもって互しえたのは、本当に最近のことなんだ」

「しかし、五分に対抗できるようになったのだろう?」

 聖女が行方不明になって数週間。アンネローゼの行動は確かに早いが、シンデレラたちも十分に早く対応できたのではないのか。

「それは違う。二千年も続いた聖女による統治を否定し、新しい統治者を立てるという考えを、あの時持っている者などほとんどいなかったんだ。それをアンネローゼは、世界を二分するほどの勢力を作り、まとめあげた」

 そう言われると、確かにアンネローゼと言う人物には才覚があると感じてしまう。

「強敵だな」

 呟く。才能ある人物を間近にした時、自らの全力を優に越えていく存在を見たとき、己を無力に感じてしまうことがある。

 シンデレラが自身を『小娘』と評したのも、それと比べてのことだ。

「でも、負ける気はないのだろう?」

「もちろんだ」

 ここで万一「不安だ」とシンデレラが零せば、フヒトは励まそうと思っていた。

 だが、彼女の志はそんなに弱くはないらしい。

「私は彼女に負けることはできない。私にも、守りたい人と、世界がある」

 自らを無力な小娘と思った上で、それでも立ち向かおうとする言葉。

 強い眼差しに戻った彼女に、フヒトも強くうなずき、言った。

「なら俺も、全力で手伝おう」

 友として――そう言えることを光栄に思いながら。

キャラブレ上等で姫の内面に立ち入ってみる。


ところであんねろねろの「どSときどきつんでれ」の絶妙なニュアンスがわかりませぬ。

だれか改革派の人にデータ提供をしてもらった方が良いのかな……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ