表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/79

呪われた森で

 教会の村 アルトグレンツェ


「オズヴァルト様、大変です!」

 オズヴァルトと呼ばれた青年は、手にした本から顔を上げた。エインセールが慌ただしくこちらへ向かってくる。

「やあ、エインセール。どうしたのかな?」

「大変なんです、オズヴァルト様!」

 エインセールはオズヴァルトの顔の前で止まると、もう一度同じことを言った。

「さっき、ハイルリーベから来た人と出会ったんです!」

「……フム?」

 オズヴァルトがその言葉に、微かに眉を寄せた。

「それは本当かい?」

「えとえと、本人からちゃんと聞けたわけではなく、可能性としてなのですが……」

「構わないよ。そう思った理由を詳しく話して」

 分かりましたと言って、エインセールが話し始めた。

「さっき、いばらの森で倒れた人を見つけたんです。介抱している最中に魔物に襲われて、でもその人が助けてくれて――」



 アルトグレンツェ南方、いばらの森ロゼシュタッヘル


「――きて」

 誰かに呼びかけられたような気がして、彼は自分の意識に光が灯るのを感じた。薄暗い光だ。暗い場所にいるのだと分かる。背中の感触からおぼろげに、自分が横たわっていることも分かった。

 身体が重い。途方もなく長い道のりを旅したゆえの疲労だ。

 ……旅?

 なぜそんなことをしている。

 自分に問いかける。理由が思い出せない。ただ、そうしなければいけなかったのだとは分かる。断言できる。

 しかしなぜ断言できるのかは皆目、見当がつかなかった。

「――きて、起きてください!」

 すぐ近くで声がした。

 少女のものであった。それまでの思考が吹き飛ぶ。

 顔に感じるのは、吐息だ。

 そう思った瞬間、起き上がっていた。

「ひゃわわわわ!?」

 驚き慌てる声。額に何かがぶつかる感触。続いて悲鳴。

「……だれぞ、いるのか?」

 問いかけ、フヒトは額に手をあてる。覚醒し始めた目で周りを見れば、そこは森だった。

 どこもかしこも木々が果てしなく続いており、密に育った葉は夜かと思うほどに、太陽の光を覆い隠している。わずかな木漏れ日で見えるのは、木々の合間で繁茂する雑草や、見たこともない植物――そしてそれらに巻き付く茨の群れ。

 なんだここは。

 初めて見る森だった。鳥や虫の声が一つもしておらず、耳鳴りが頭を揺らす。空気はよどんでいて、冷たい。氷が身体に根差すような感覚に、フヒトは顔をしかめて体をさすった。

「狩りをするにも最悪の場所だな――」

 ――狩り?

 自ら呟いた言葉に疑問が生まれる。

 ――俺は何を言っている……?

「いたたたた……」

 声が、彼の意識を現実に引き戻した。

 さきほどの少女の声だ。

「もう、いきなり動くからびっくりしたじゃないですか!」

「どこだ、いずこからしゃべっている?」

 声は近い。そのはずなのに、その主の姿はどこにも見えなかった。

「声からして小童か。妙な真似はせず出てくるがよい」

「……なんだか、妙な話し方の人ですね」

 姿なき声には、訝しげな調べがのっていた。

「それより、私はここです。ずっとあなたの前にいますよ!」

「なに?」

「あ、もう少し下です。下を見てくださーい」

 言われた通りフヒトが視線を下にやれば、確かにそこに人がいた。

 いや、それを人というには語弊があるだろう。

 地面に投げ出すように開かれた、フヒトの両足のあいだ。そこにいたのは、広げた手よりも少し大きいくらいの少女であった。

 緑色の服に包まれた身体からは蝶の羽があり、それが手にした灯りを受けて煌びやかに輝いている。輝きは一様ではない。空にかかる虹のような色めきがたゆたい、羽がはためくたび鮮やかな色の移り変わりを見せていた。

 ――なんだこれは。

 生まれて初めて見た存在に、フヒトは声も出せず、見つめるのみとなっていた。

「初めまして、私はエインセール」

「えいん、せえる……?」

「見ての通り、かよわい妖精です」

 かよわいようせえ?

 笑顔で自己紹介をしたエインセールだったが、珍妙な顔のまま動かなくなった彼の様子に、徐々に不安そうになっていく。

「あの、私の言ってること、分かりま――」

「ああ、そうか!」

 言葉の途中で突然大きな声を出すフヒト。エインセールのつぶらな目が丸くなった。

「そなた物の怪か!」

「も、もののけ?」

 合点が言った様子の彼だが、エインセールは発せられた言葉の意味が分からず、首を傾げた。

「いえ、私は妖精――」

「おおかた、蝶の物の怪であろう」

「――なんとなく、それ、悪口ですよね?」

 ニュアンスから感づいたのか、エインセールの顔が憮然とする。フヒトはうなずいた。

「こんな気味の悪い森におるのだ。きっとそうに違いない」

「失礼なこと言わないでください! そもそも、森がこんな風になったのは、例の『呪い』が蔓延したからで……?」

 エインセールの言葉が途切れた。

 近くの下生えが、前触れもなく大きく揺れたのだ。

「なんだ?」

「そそそそうでした! この辺りは危険なんです!」

 エインセールが羽をはためかせ、フヒトの顔の前に飛び上がった。かなり狼狽えている。

「立てますか? 早くここから離れましょう」

「猪でもおるのか?」

 彼女の様子に、フヒトが訳が分からないながらも腰を上げた瞬間。

 それが下生えを飛び出して、二人へと向かってきた。

キャラぶれ、地の文や句読点の不備等多々あるかもですが、締め切りも近いので、のちのち大幅に書き直すのを前提にとにかく進めます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ