門出
「な……それは確かか!?」
シンデレラの声が動揺した。続く兵士からの報告を聞き、すぐさま指示を出していく。
その間に、フヒトはエインセールに耳打ちした。
「なあ、りーぜろってって誰だ?」
「リーゼロッテ様は、ルチコル村を代表するお姫様ですよ」
私たちの出会った森より、さらに南にある村ですねーと、エインセールが説明を加える。
「改革派の旗印であるアンネローゼ様の、昔からのご友人らしいですよ。私は行ったことがないのですが、特産品のリンゴがとても美味しいとか、動物と話せる人がいるって聞いたことがあります」
勢力的には、ルチコル村は改革派に属している。
「対立相手になるわけか」
「ええ。でも、憎み合ってるわけではないんですよ~」
「エインセールの言う通りだ」
シンデレラが話に加わった。指示を終えたのか、出ていった兵士の足音が遠ざかっていく。
「意見の対立ができ、二分する勢力ができてしまったが、心の底から誰かを憎んでいるわけではないんだ。私も、そしてきっとアンネローゼも」
シンデレラの言葉に熱がこもっていく。
「私とて、民を救いたいという気持ちは同じだ。だがそれには何よりも聖女が、ルクレティアの存在がまず不可欠だと思っている。私は彼女を救い、民も救っていく。私はすべてを救いたい……贅沢な悩みだろうか?」
フヒトは首を振った。不敵な笑みを浮かべる。
「手の届いたところから順番に、全部やっていけばいい」
「……うむ、その通りだな」
つられたのか、シンデレラの笑みもこぼれる。
「フヒト殿には悪いが、さっそくルチコル村に向かってもらいたい。随行していた騎士たちには村に行ってもらったが、人手は多い方が良い」
「任された。気張ってくるとしよう」
フヒトがベッドから立ち上がる。
「急な出立になってしまったね」
それまで事態を見守っていたオズヴァルトが言った。差し出された手を、フヒトも固く握り返す。
「君に運命の祝福が与えられん事を――そうだエインセール、しばらく同行して、手助けしてあげなさい」
「はわぁ~!! いいんですか!?」
「おや、もうその気だったのかい?」
言われ、エインセールが「えへへ」と笑った。
「……良いのか?」
「彼女は導きの妖精。今の君にこそ、必要とされる存在だよ。それに好かれてもいるようだからね」
「だってフヒトさん、私と離れたとたんに捕まっちゃうなんて、危なっかしいじゃないですか!」
「そ、それはすまなんだな……」
「えへへ、冗談ですっ。きっとお役に立ちますから、頑張りましょうね!」
エインセールは、会った時からずっと手にしていた灯りをかかげた。
次回、一部エインセールの性格が壊れます。
読み飛ばしても問題なしのギャグ回とします。