玉の枝
「実は、聖女に探してほしいと頼まれたものがある」
「ルクレティアが?」
おそらく、とフヒトはうなずいた。夢での呼びかけと同じく、ずっと頭に残っているフレーズがある。
「『玉の枝』と言う、数千年に一度しか咲かない花だ。それを探してほしいとのことだった」
むしろそちらの方が、大事なことのような印象がある。
「玉の枝、か。初めて聞く名だな。ルクレティアは花のことに詳しかったが……賢者殿、その花は呪いとなにか、関係があるのでしょうか?」
「それは僕にも分からない」
シンデレラの問いに、オズヴァルトは断言した。
「ただ、フヒト君がより重要に感じたのなら、なにか意味があるんじゃないかな」
「なるほど」
シンデレラがふむ、としばらく瞑目する。そうしていると彫刻のようだとフヒトが思っていると、彼女の瞳が開かれた。
「幸いルヴェールは歴史学に通じている。私の姉が詳しいので、聞いてみるとしよう。少しは進展があるはずだ」
「すまない」
「礼を言うのはこちらの方だ。その花が呪いを解く鍵となるのかもしれないのだからな。最近は悩ましい出来事ばかりだったが、おかげで良い展望がもてそうだよ」
そう言ってにこりと笑う。凛とした花が咲いたようだった。
「さて、フヒト殿に改めて伺っておこう。私とともに戦ってくれないか?」
うなずくフヒトに、シンデレラは「ありがとう」と笑みを深めた。
「良かったですね、フヒトさん! シンデレラ様、これからフヒトさんはどうするんですか?」
「そうだな。本来なら新たな騎士は、我が拠点であるルヴェールに来てもらい、防衛の任から始めてもらうのだが……次の攻略隊の結成まであと一週間くらいしかない」
「一週間か」
「しかし、ローズリーフの確保に難航しているのが実情だ。純度の高い物は、なぜか呪いの濃い場所でしか見つからないんだ」
必然、それは呪いに冒されるリスクがつきまとう。
「だが、フヒト殿が呪いに打ち克って出てきたならば――」
「俺が取りに行った方が安全だな」
シンデレラの言わんとするところをフヒトも悟った。
「構わない。この腕、どんどん使ってくれ」
「感謝する。だがあまり危険にもさせたくないのが本音だ。貴方になにかあれば、元も子もないのだから」
シンデレラはそう言うと、フヒトに手を伸ばした。
「さあ、立ってくれ。ひとまずルヴェールに行こう。貴方に必要なのは、今は十分な休息のはずだ。休むにしても、ここは埃が多い。あまり良い場所ではない」
一瞬、オズヴァルトが妙な顔をする。フヒトはそれが気になったが、直後聞こえてきた荒々しい足音に注意が転じた。部屋の扉が勢いよく開かれる。
「シンデレラ様、報告です!」
「何事だ」
兵士の余裕のない声に、シンデレラの顔から笑みが消える。
「ルチコル村に多数の魔物が襲来しました。騎士を中心に応戦しているそうですが、リーゼロッテ姫が現在、行方不明になっています!」




