シンデレラ
フードからこぼれる豪奢な金髪が、窓からの光をはね返して輝きを放つ。
「……」
露わになった女性の――少女の顔に、フヒトの呼吸が止まる。
うっすらと赤みが見える、細く白い面の上、瞬きすれば音が鳴りそうなほど長いまつげが閉じられている。震えるそれが開くと、深い森の中を思わせる翡翠の輝きがフヒトを映した。まっすぐな、意志の強い瞳だ。
長衣の下からはさらに、ドレスとも甲冑ともとれる服が現れる。薔薇をあしらった装飾が施されており、部屋の中が一気に華やいだ雰囲気になった。
「たしか、言いあっていた――」
「顔を隠していたこと、すまない。貴方から率直な意見を聞くには、先入観を持たれない方がいいと思っていたんだ」
アルトグレンツェの水辺で口論していた一方の姫が、そう言って笑みを浮かべる。
「我が名はシンデレラ。神聖都市ルヴェールの姫を拝命している。聖女ルクレティアを……大切な友を救い、失われた平穏を取り戻すため、貴方の力を私に貸してくれないか」
「――なぜ、俺を」
しばらくして、フヒトはそう絞り出した。
「志望者全員を、こんな風に誘ってるわけではないだろう」
「もちろん、理由はある。主に三つ」
シンデレラはエインセールを視線で示した。
「彼女の話だと、貴方は塔に呼ばれ、あのハイルリーベから脱出した可能性がある」
「そうなんです! 私、思い出したんです」
エインセールが勢い込んで、フヒトに考えを話す。話を聞いたフヒトが唸る。
「ハイルリーベ……しかし、俺は何も覚えてないぞ」
「強い呪いの中を抜け出た後遺症かもしれない。いずれにしろ、倒れていた場所が不自然なのは確かだ。それに、賢者殿も貴方が見た夢はただの夢ではないだろうと仰っていた」
塔に呼ばれた夢のことだ。
フヒトの視線に、オズヴァルトが首肯する。
「最初は、何かの思念をキャッチしただけかもしれないと思っていたんだけど……君が塔に行って、なにか変わったことは起きなかったかい?」
今度はフヒトが体験を語る番だった。
「ルクレティアの幻影が見え、しかも苦しそうだっただと!?」
聞いて、シンデレラの表情が激変した。一瞬嬉しそうな顔をして、そして次に怒りを秘めた顔になる。拳がきつく握りしめられている。目を閉じて美貌を歪ませ、しかしすぐに深い息を吐き出して元に戻った。
「すまない。行方が分からなくなってから、その姿を見た者は誰もいなかったんだ。各地で聖女の力が確認されているから、生きていると信じていたが……」
安堵して、それでも納得のいかない複雑な声音だった。
「しかし、これで確信できた。やはり貴方は特別なのだ。事態は一刻を争う以上、是が非でも次の攻略隊に加わってほしい」
「攻略隊、か……?」
「うむ。先ほど聞いた通り、塔の中は濃い呪いと魔物たちで溢れている。呪いそのものには、ローズリーフという魔力結晶を用いるのだが、純度の高い物は入手が難しく、数も限られてしまっている」
「だからシンデレラ様は、騎士から精鋭の方を選抜して隊を編成し、定期的に塔の攻略を行っているんですよ」
説明を、エインセールが引き継いだ。シンデレラがうなずく。
「その方がローズリーフの消費も、負傷者も軽減できるからな。それでも被害は出てしまうが……これまで行った攻略隊は二回。二つの塔をくまなく探したが、結局ルクレティアは見つからなかった」
アンネローゼが新たな先導者を、と言いだしたのもその頃かららしい。
「だが、貴方が手伝ってくれれば、何かが起きるのではないかと思う。私と同じ、ルクレティアを救いたいと言ってくれた貴方だからこそ頼みたい」
私と一緒に、剣を取ってくれないか。
そこまで言われて、フヒトに断る言葉はなかった。
しかし言っておかねばならないことはある。




