いつもの道で~軽い自己紹介~
からっと広がる、清々しい秋晴れの空の下を、僕は軽い足取りで進んでいた。向かう先は、親戚の家。僕はそこで、町の人たちにピアノを教えている。
本当は祖母が教えていたその教室も、一昨年祖母が亡くなってから一年間は父が受け継いでいた。自宅から、その親戚――僕の従兄妹と叔父さん叔母さんたちの家に毎日教えに行っていた。
しかし。
その父も、去年のちょうどこの時期に亡くなった。ピアノ教室もそこで途切れるかと思いきや、何故か今度は僕の番。本当は母さんが、叔父たちに「ピアノの音が生きがいだからなあ、あれが無いと生きてけねぇよ、ははは」と頼まれていたのに、その母は「えー面倒くさいしあんたの方がピアノうまいんだからあんた継いでよー。しかもあんたどーせ高校行けないでしょ」というなんとも無責任な発言をした。
それを聞いた従兄妹たちに期待の目で見られて。きっとそれに負けたんだろうな、僕は。
気が付いたら、頷いていた。
まあ、正直なところ、高校行けないだろうという母さんの言葉に脅されたのもある。
今僕は年齢からいうと高校一年生で、ピアノ教室を受け継ぐことになったのは、ちょうど受験真っ盛りだった。その頃成績は散々で、僕の成績表の上には絶望が勝手に悲惨な国を造り上げていて、僕をあざ笑うかのようにはしゃいでいた。それを見た母さんも多分悲惨な心境になっていて、僕の身を案じてピアノ教師にしたんだろう。そう考えると、母さんなりの気遣いというか、我が子を将来へ導いてくれたのかもしれないな。
そう思うと良い母さんだ。少し見直した。
別にそのせいではないだろうけれど、今日の僕はすごく機嫌が良い。なんでかと聞かれても困るんだけど、とにかく上機嫌で、その気持ちをメリーさんの羊にして口ずさんでいた。スキップは昔、間違って覚えたために、どこかぎこちないスキップだ。
右足を膝が胸まで届きそうなくらい振り上げて、下すと同時に、左足で妙なスキップ。右足も同じようにして、左足を振り上げる。それを繰り返す動きは、小学校の頃結構バカにされた記憶がある。
それと、勘違いされるから、一応言っておく。
僕は、正真正銘、女の子だ。