表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
9/90

ゴミ溜めの暗殺者




「悪徳親子」と同じ時制です。




 生まれた時から、少年はゴミ溜めにいた。

 汚い場所で――――どうして生まれたのか。誰から生まれたのか。なぜ生きているのか。―――― 名前も、言葉も、何にもわからないまま、それでも息をし続けていた。

 ある日、そんな少年に誰かが声をかけた。


『よお、少年。汚いなりしてるくせに、元気そうだな。』


 そういう彼も、酷い格好をしていたが、少年は何も言わなかった。そもそも、言える言葉はひとつたりとも持っていなかった。

 彼はニヤリと笑って、少年に手を伸ばした。


『やることがないなら、俺と一緒に来ないか?こんな、ただ“汚い”だけの場所より、“汚くて”“怖くて”“暗くて”“楽しい”場所の方がいいだろ?』


 彼の提案は――――――言葉を知らない少年にとって、ほとんど理解できない内容だったが―――――輝いて聞こえた。少年の直感は、この人が自分に“何か”を与えてくれると・・・・・・そしてそれは、きっと自分がこのまま生きていく上で、必要なものなのだと、語っていた。

 少年は黙って、彼の手を取った。硬い手のひら。少年と同じ温度の手のひらは、決して暖かいものではなかったが・・・・・・これが、少年が初めて知った“ぬくもり”だった。


『よし、それじゃあ、行こう。』


 そうして、少年は男に手を引かれ、ごみ溜めのような場所を後にし―――――――――遺体安置所(モルグ)のような場所に、足を踏み入れたのであった。



***



「国王及び、第一王子を暗殺して欲しい。」


 暗殺者――――かつて少年だった彼のもとに、そんな依頼が来たのは、2日前の早朝のことだった。

 依頼主は“とある御方”と名乗る者で、実際に暗殺者のもとへ来たのはその使者である。


「金なら用意してある。これだけあれば、充分だろう?依頼が無事に達成された暁には、更に追加で払うとの仰せだ。」


 と渡された鞄の中には、金貨がこれでもかと言うほど詰め込まれていた。

 暗殺者は、しばらくの間それを黙って見つめていたが、やがて


「・・・・・・承知した。」


 ポツリと呟き、金を受け取った。


 使者が帰ると、暗殺者はおもむろに、身なりを整え始めた。品のいい服を着て、髪を整え、口元に柔らかい笑みを浮かべると、彼はまるで貴族のような好青年になる。変装は彼の得意技だった。その時々に応じて、年寄りにも女性にも変身し、任務を遂行するのである。

 それから彼は、鞄の中から金貨を一掴み取り出して、家を出た。城下町に向かう。出国許可証を手に入れるためだ。


(これを最後に、国を出よう・・・・・・。)


 暗殺者は潮時を敏感に読んでいた。


(おそらく・・・・・・依頼主は大臣だな。王族根絶やしは狙ってないようだから、第2王女を即位させて、政を操りたいのだろう。―――――――“追加の金”?どうせ、それを餌におびき寄せて、殺すつもりだろうな・・・。まぁ、大臣ごときが集めた私兵に、みすみす殺されるつもりは無いが。)


 それでも、面倒事は出来るだけ避けたい暗殺者だった。

 だからと言って、依頼を受けないのも信用に関わる。何より、出国に必要な金が欲しい。それには、前金だけで充分だった。


 城下に着いた。通りは人が多く、賑やかだ。暗殺者は人波に乗り―――――不意に、足を止めた。顔見知りがいたのだ。咄嗟に身を隠そうとした暗殺者だったが、一瞬の躊躇が明暗を分けた。


「あー、ザックだ。」


 いつもと同じ呑気な笑顔を浮かべたそいつが、手を振りながら近づいてくる。もう逃げられない。暗殺者は腹を括って、仕方なく、旧友を迎えた。


「・・・・・・久しぶりだな、フェル。」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ