5年後の商人
5年の時が流れ、そこからです。
「この国に来るのも5年ぶりだが、まったく変わりないな・・・。」
「そうですね。」
唯一開かれている東の関所から、たくさんの商人や旅人たちが入ってきている。
早朝の広場には穏やかな会話だけが広がり、澄んだ空気と混ざりあって、身体中に浸透してくるようだった。
綺麗な空気に怖じけずいたのか、路地裏から顔を出した小汚い格好の老人が、慌てて踵を返して立ち去っていった。
2人の商人が慣れた様子で、城下のメインストリートを進んでいく。どこか周りと違う雰囲気のある2人だった。深々と帽子を被った青年が、もう片方の黒髪の青年に話し掛けている。
「あれ? ここ、こんな店だっけか?」
「ううん、違う店だったよ。前は雑貨屋さんだった。変わったみたいだね~。うわ、凄い混んでるね。」
「そうだなー・・・あ、チョコレート専門店か。にしても、かなり繁盛してるな!」
「凄いねぇ。・・・この近くでお茶とか売ったら、売れるかな。」
「お・・・それはいいな。今の手持ちに・・・確か、紅茶があったな?」
「連合三王国のミハエルと、中占舞国の杏廉酩、相国の相真平・・・そんなところかな、お茶関係は。」
「流石の記憶力だな。――――じゃあ、さっきの店の隣にあった小物屋に行ってみたらどうだ?」
「小物屋さんに?」
「あぁ。女性客が多かったから、隣に流れるだろ?」
「あー、そうだね! じゃあ、後で行ってみようかな。ついでに、小物も置かせてもらえたら嬉しいなぁ。」
「そうなるといいな。――――――さて、ところでお前は、これからどうするんだ?」
「えー、と・・・そうだね。しばらくはここで商売して、また次の場所に行こうかな。」
「・・・つまり、いつも通り、と。」
「うん、そういうことかな。」
黒髪の青年はふんわりと笑った。
帽子の青年がちょっと肩をすくめて、軽い呆れを表現した。
「そっか。じゃあ、もうお別れだな。」
「そうだね、名残惜しいけど。5年間、楽しかったよ! 2人旅なんて久しぶりだったから。」
「そうか。俺も、楽しかった。本当に、世話になったな、ありがとう。・・・俺はこのまま王宮に行くけど――――」
と、帽子の青年は語尾をくぐもらせた。
「――――何か、あるか?」
「え? ・・・何か、って?」
「伝言とか、配達とか・・・。」
「・・・・・・・・・――――――」
黒髪の青年はぽかっと口を開け、虚空に視線を投じた。何か考えているようにも、何も考えていないようにも見える、間抜けな表情だ。
暫しして、
「―――――・・・いや、いいよ。」
青年は首を振った。
「これ以上、縛るわけにはいかないし・・・それにきっと、忘れちゃってるだろうから。」
「・・・そっか。お前がいいなら、いいや。」
それから2人はしばらく無言で歩き、王宮が見えてきた辺りで立ち止まった。帽子の彼が一歩前に出て、2人の間に一歩分の距離が開く。
「――――――じゃあ、俺はこの辺で。」
「うん。それじゃあ、」
黒髪の青年が片手を上げて、ニコリと笑った。
「またね。」
「っ・・・・・・あぁ、またな。」
そう言って手を振り返した帽子の彼の笑顔は、眩しさか、涙か、とにかく何かを堪えているように見えた。
小さな商人たちのよくある別れなど、王国にとっては些細なこと。とりたてて注視すべきことでもない。2人が互いに背を向けて、別々に歩き出すと、1人になった2人はすぐに大通りの波に飲まれて、消えていった。
後には何も残らない。
ただ、人の流れが滔々と続いていくだけだった。
だから、1人になったその人がもう一度2人になっていたとしても、それは誰にも知られないことだった。




