王女の説教
「第1王子様がお戻りになられました!」
第2王女はその報告を自室で受けると、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、使用人を押し退けて部屋を飛び出した。アリシアとハルシャが慌てて後を追う。
エントランスホールに出ると、第1王子を先頭に、第3王子やらミシェルやら騎士団やらが続々と入ってきていた。
「お兄様!」
階段の上から声をかけると、第1王子は彼女を見上げ、片手を上げた。
第2王女が、その飄々とした態度に苛っとしたのは言うまでもない。笑顔に殺気を纏わせて近付くと、身の危険を察知したようで、第1王子の足が止まった。
「――――――お・兄・様?」
「・・・シルヴィア、落ち着いて、まずは私の話を聞いてくれ。」
「自己中心的バカ兄貴の話になど傾ける耳は持ち合わせておりません、お生憎様。」
涼しげに小首を傾げて睨み付けると、たじろいだ第1王子は目線をあらぬ方へとやった。
「・・・す、すみません、でし、た・・・・・・。」
「謝って済ませられたら裁判は起きませんのよ。だいたいお兄様はお分かりですの? お父様がお亡くなりになった今、国の全権はお兄様の手の内にあるのですよ。それなのに何ですか! やれ脱走だ、やれ暗殺だと、お戯れも大概になさい!」
「いや・・・その・・・」
「なんですか? 申し開きがあるのでしたらハッキリと仰ったらいかがです? ―――――もっとも、私を納得させられるような言い訳があるのでしたら、ですけど。」
「・・・・・・。」
第1王子は完全に沈黙した。何を言おうと無駄であることがよく分かったからである。下手に口を開いて、火に油を注ぐ羽目になったら堪ったもんじゃない。
意気消沈する第1王子に満足して、第2王女はふいに矛先を変えた。
「カルディア!」
「っ、ひゃいっ!」
「貴方も貴方です! お兄様に釣られて何をほいほい脱走しているのですか!」
「すっ、すみませんでしたぁっ!」
「謝って済むものではありません! まったくもう・・・あなた方は本当に、王族としての自覚が――――――」
「あ、あー、ヴンッ。スマン、シルヴィア?」
「何ですか!」
第1王子に説教を遮られ、王女は声を尖らせた。気迫に圧されかけた第1王子が一瞬、言葉を詰まらせて、しかしすぐに気を取り直した。
「説教はあとでたっぷり受けよう。今はその前に、この一連の事件に決着をつけるべきだと思うのだが。」
「――――――」
感情は納得いかないが、理性は正論だと訴える。王女は唇をひん曲げて、渋々頷いた。
「・・・分かりましたわ。右大臣とジキルは衛兵に見張らせてあります。その他、私が分かる範囲内で、事件の関係者を集めましょう。謁見の間でよろしいですか?」
王女が物分かりの良い様子を繕って言うと、第1王子はあからさまにほっとした様子を見せた。
「あぁ、ありがとう。任せた。」
「今すぐでよろしいですか?」
「いや・・・そうだな・・・・・・2時間後にしてくれ。少し、考えたいことがある。」
「分かりましたわ。」
「よろしく頼む。カルディア、ちょっといいか。」
「あ、はい!」
「ミシェル、先に謁見の間に行っていてくれ。」
「はっ!」
第1王子が簡単に指示を下し、王宮の奥に姿を消す。ミシェルが第2王女たちに深々と一礼し、去っていった。
(あら、ミシェルと仲直りしたのね。)
城下を歩き回った所為だろうか、父王が亡くなった所為だろうか、第1王子の後ろ姿は昨日までと少し違っているように見えた。
(何かしら・・・・・・。)
小さな違和感を感じたが、今は深く考えている時ではない。心の底に丸めて転がし、思考を切り替えた。
「アリシア、行くわよ。」
「はいっ!」




