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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
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賢明な右大臣

 

 第1王子がいなくなった、と聞いて、動揺したのは側近のミシェルだけではなかった。


「なっ・・・・・・なんだって?」


 この男―――――右大臣のアルシエも、思わず聞き返した。


「第1王子様が・・・失踪、なされた?」

「はい。昼食を摂られたのを最後に、何処にも姿をお見せにならない、と・・・。」

「宮廷内を捜したか?」

「現在、従者たち総出にて捜しております。」

「そう、か・・・・・・。」


 一体、何がどうなってこうなったのか、右大臣にはまったく見当もつかなかった。

 従者が退出し、誰もいなくなった執務室で、右大臣は額を押さえ溜め息をつく。


(まさか、私の計画がバレたわけでは無かろうな・・・・・・。)


 彼の計画―――――それは、この国家に対する最大の不敬と言っても過言ではない陰謀であった。


“現・国王陛下と第1王子を暗殺し、第2王女を玉座につけ、政を操る。”


 バレたら即刻、死罪となるような大きな大きな計画を、彼は数年前から着実に進めていっていた。

 情勢はちょうど、その企てがほとんど進行し終えたところである。そんなタイミングで、当事者の1人である第1王子の突然の失踪だ。

 バレてるとは思えない・・・・・・いや、思いたくない右大臣だったが、しかし、よくよく考えてみれば、


(―――――これは、チャンスではないのか?)


 王宮の外に出れば、暗殺の機会は広がる。暗殺者が手を下すまでもなく、不慮の事故で死亡する可能性だって出てくる。

 たとえ、第1王子が勘づいたのだとしても―――――死人に口無し、だ。死んでしまえばこちらのものであった。


(・・・・・・ふむ。うまく行けばよいが。)


 何にせよ、王子がどんな目的で脱走したのかわからない今の状態のままでは、迂闊に動くことはできない。


(今は待ち、だな。)


 そう結論付け、右大臣は椅子に座り直した。




***




 しばらくして、国王陛下からお呼びがかかり、右大臣は謁見の間にいた。広間には、左大臣や騎士団長やら・・・すなわち、この国の“重鎮”と括られる人々が集まっていた。

 右大臣は、正直かなり緊張していた。自分の罪を暴かれるのではないのか、と・・・。

 しかし、その心配は杞憂に終わったのであった。


「畜生っ、ラッヴィアンドッー!!」


 罪を告発された平民の出の男が、騎士団に引きずられて広間から出ていった。

 それを見送り、右大臣は胸を撫で下ろす思いでいた。


(なるほど・・・。そんなことがあったのか。それで、王子は脱走したのだな。良かった・・・・・・。)


 少し後味の悪い話ではあるが、自分の計画がバレていないのはまぁいいか、と、無理矢理 自分を納得させた右大臣。 ―――――だった、が。つらそうに顔を伏せ、額に手を当てていた国王が、不意に呟いた。


「――――――・・・なんちゃって。」


 右大臣は、全身全霊を懸けて我が耳を疑った。


(ええと・・・・・・陛下、今、なんと・・・?)


 不思議に思ったのは右大臣だけではなかった。他の者たちも、怪訝そうな顔を互いに見合わせている。

 理解されていない空気を感じたのか、国王が顔を上げた。


「嘘だからな、今の話。信じるなよ。」

「・・・・・・はい?!」


 右大臣は、思わず声を上げた。


「どうした?右大臣。」

「ど、どうしたもこうしたも・・・・・・今の話は、全て、嘘だったのですか?」

「当然だろう。我が息子がみすみす、そのような狼藉の餌食になるとでも思うのか?」

「え・・・いえ、思いませんが・・・・・・。では何故、このような嘘の告発を?まさか、ミシェル殿をハメたのですか?」

「あぁ、その通りだ。」


 国王は平然としたものである。右大臣は言葉を失った。これで、王子脱走の理由は不明の状態に逆戻りである。


(しかし、何故、ミシェルをはめた・・・?)


 右大臣の疑問は、すぐに氷解することとなった。

 国王がくるりと、広間の中を見渡した。


「癌細胞を取り除くためにな。他に転移してないことを祈るのだが・・・・・・どうだろうなぁ。」

「「・・・・・・。」」


 国王の視線に、左大臣を筆頭にした者たち数名が下を向いた。

 右大臣も、本当は下を向きたかった。俯きそうになる頭を必死に支え、“何が何やらまったく分からない”という顔を作る。


(バレてる・・・・・・だが、追及されてはいけない・・・。)


 ここまで言われて“バレていない”とは思えない右大臣だったが、どうにかして誤魔化しきらないといけないと思った。幸いにして、国王は“誰が癌細胞なのか”ということは特定できていないようだ。


(つまり、ここをしのげば、まだ大丈夫・・・!)


 右大臣の目論見は成功した。

 国王は、下を向いた左大臣たちを睨むように見て、ひとつ頷くと、謁見の間を出ていった。

 ほっと一安心すると同時に、頭が回りだす。


(何故・・・・・・左大臣たちは下を向いた?)


 今の状況で下を向いたということは、何かしら疚しいことがあるのだろう。おそらくはミシェル関係で。


(―――――調べてみるか。)


 上手くやれば、さらに手駒を増やせるかもしれない・・・・・・右大臣はそう思って、内心でほくそ笑んだ。

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