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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第3章
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平民と騎士

 

 息を吸い、鋭く吐くと一緒に矢を放った。

 自慢だが、レイシーは弓の腕にかなりの自信がある。この距離で無風なら、外すはずがない。

 一直線に第1王子目掛けて飛んでいく矢。

 ふいに、第1王子が振り向いて、レイシーは唖然とした。そしてそれ以上に、射線上に別の影が現れ第1王子を庇ったのを見て、驚愕した。

 金髪の少年が必死の形相で第1王子を庇い、その肩に矢が刺さった。


(あれ、は・・・・・・第3王子?)


 眉をひそめて舌を打った。何だってこんなことになってんだ・・・――――――――気にくわない。背中からもう1本の矢を抜く。

 レイシーが再び、弦に矢を番えたところで、


「うわぁっ!」

「なんっ・・・ぐあっ!」


 悲鳴が聞こえ、慌てて背後を振り返った。ミシェルを捕まえていた騎士が倒れている。倒した犯人らしき男が、ミシェルの髪を掴んで叫んだ。


「貴っ様ぁあああああっ!」

「お、前は、さっきの・・・っ!」


 ミシェルが狼狽える。その、ローブを纏った魔導士のような男が、ミシェルを力任せに壁に叩きつけた。


「がっ!!」

「ミシェル! ―――くそっ!」


 レイシーは弓矢を魔導士に向けた。

 魔導士はレイシーをちらりとも見ず、片手にミシェルを掴んだまま、もう一方の手の上に魔法を展開する。


(一撃で殺る――――――!)


 瞬間的に魔導士の頭に狙いを定め、レイシーは矢を撃った――――――が、


「うあっ!」


 その直前に肩を衝撃が襲って、狙いが狂った。

 しかし、それでも狂った矢はきちんと飛んで、魔導士の手に刺さった。ミシェルがその手から脱け出して、這う這うの体でレイシーの方へ逃げ出す。

 レイシーは弓を放棄した。何故かは分からないが、肩に矢が刺さり弦が引けなくなってしまった。仕方なしに抜剣すると、ミシェルとすれ違い様に、追撃に放たれた魔法の氷を打ち砕いた。


「邪魔するか、貴様・・・!」


 血走った目が初めて、レイシーを睨んだ。


(ああああ、なんかコイツやばいかもしれん。)


 背中にミシェルを庇いながら、レイシーは唾を飲んだ。冷や汗が頬を伝う。

 剣先を相手に向けながら、ジリジリと後ずさる。


「【煌々と光る金色は俺に味方をし、何にも換えがたい優越を俺にもたらす、俺の悲しみは冷たく凍り付いて、】」


 魔導士が詠唱を始める。

 はたと事態に気が付いて、魔導士の危険性に怯えた他の騎士たちが、狙いが自分に向いていないのを良いことに、あっさり背を向けて逃げていった。


(おいおいおいおい、マジかよ。ふざけんなって。)


 レイシーはそれを横目に見、顔を引きつらせた。


「【俺を悲しませるあらゆる災厄を打ち砕く、俺の名は天に轟くことはなく、俺の声は地に降り落つことはなく、】」


 魔力が集まってきて、常人の目にも映るほど強く輝きだした。


(ま、マズイ! 殺られる?!)


 焦燥に駆られたレイシーは思わず、騎士としては最低な事をしてしまった――――――――――手の中の剣を思い切り投げつけ、結果も見ずに背を向けたのである。本来の役目を失った剣は、しかし上手い具合に魔導士の目の前を掠め、集中を欠かせることに成功した。魔力が散り散りになって消えたが、正直、結果オーライとは言いたくない。


「に、逃げるぞ、ミシェル!」

「あ、あぁ!」


 レイシーとミシェルは互いに肩を貸しながら、ふらつく足を叱咤して路地裏から飛び出た。

 

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