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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第3章
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王子の我が儘

 

 路地裏からわらわらと出てきた占い師配下の連中は、誰よりも先に商人に手をかけた。


「へ・・・?」


 フェルが意識を失っていないのが災いした。間抜けな声を漏らした商人が、次の瞬間 容赦の無い暴行に襲われ、悲鳴を上げる。


「フェル!」

「フェル?!」


 暗殺者と第1王子が揃って動こうとし、しかし呪いに阻まれ微動だに出来ず、悔しさだけを募らせた。


「ふぇっ、ふぇっ。どうした“蜃気楼”? お前の唯一の友人が、ピンチじゃぞ?」

「っ・・・・・・貴様・・・!」


 怒りに任せて全身に力を籠めると、その分 呪いが重たくなって、抗う間もなく暗殺者は膝を落とした。


「おい、ザック!」

「第1王子様? お前さんに、そやつらを心配する資格があるのかえ? すべての元凶は、お前さんなんだぞ?」

「は・・・?」


 占い師の言葉に、王子は眉根を寄せた。――――――すべての元凶? 何のことだ?

 老婆は厭らしい笑みを満面に満たしながら、ゆっくり、近寄って来る。どこか嬉しそうな声が、朗々と響き、空気に浸透していく。


「商人の坊やが酷い目にあっているのは何故だい? お前さんが巻き込んだからだろう? まぁ、いろんな偶然が重なったようだが、そもそもの始まりはお前さんだ。お前さんが坊やに協力を求めなければ、坊やはこんな目には遭わなかったはずだぇ。私らに目を付けられることぁ無く、こんな怪我をすることぁ無く、普通に商売やって、普通にこの国を出ていたはずだ。それを、お前さんが狂わせた・・・。」

「・・・っ、んな、ことは・・・・・・。」

「この場にいる奴らに関してもそうだぇ。お前さんがこの場に来たから、巻き込まれたんだ。かわいそうに、お前さんとは何の面識も無いのになぁあ。」

「・・・・・・。」


 気付くと、第1王子は俯いていた。俯いている自分に驚いたが、顔を上げることは出来なかった。返す言葉が咄嗟に見つけられない。王子の視界の端に、血塗れになって倒れている商人と、息を荒げて頭を垂れている暗殺者の姿が映った。

 自分に注目が集まっているのが分かる。しかし、いつものような、華々しいものではない。重苦しく粘着質な視線が、呪い以上に強く食い込み、余計に彼を俯かせた。

 占い師の老婆は手応えを感じながら、よりいっそう芝居掛かった口調で続けた。


「さぁてどうする、おうじさま? お前さんの一番大切な国民が、お前さん1人の我が儘の所為で、傷付いてるんだ。―――お前さんが王宮から脱走なんてしなきゃあなぁ。何も、起こりはしなかったのに。この王国は今日も、平和だったのにねぇ・・・。」


 占い師は滔々と語りつつ、第1王子の目の前にまで来ると、杖を彼の顎の下に突き入れた。無理矢理上げさせられた第1王子の目を、金色に光り出した瞳が捕らえた。―――――――精神的な傷口から不安を煽り、心を支配する、占い師の一番得意な魔術だ。


「さぁて、この事態・・・どう責任を取るんだい? 第1、王、子・・・――――――?」


 不意に、占い師は語尾を濁した。大きく見開かれた瞳が、元の色に戻っていく。

 第1王子はその瞳を貫くように見返して、ようやく言葉を返した。


「――――――決まっているじゃないか。私の間違いは私が直す。私の我が儘がこの事態を引き起こしたのならば、私がすべてを片付ける。――――ここで立ち止まり、逃げ出したらそれこそ! すべての不幸が不幸のままに、終わってしまうじゃないかっ!」

「あんた、まさか・・・っ!」


 第1王子はニヤリと笑って、動揺を見せた占い師に囁く。


「人を呪わば穴2つ・・・呪いは、より弱い人間を支配する。――――貴方の敗けだ、“朽縄”。」

「っ・・・―――――うっ、ああああああっ!!」


 闇が、逆流した。

 


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