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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第3章
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箱入り王子と魔術士

 

 喉元に刀印を形作った指先が突き付けられ、第3王子は息を飲んだ。ノイズに感覚を鈍らされていて、まったく気付かなかった。


「やっぱり、さっきのは偶然とハッタリだったのか・・・。」

「あな、たは・・・さっきの・・・・・・。」

「動くなよ。下手な真似はするな。そっちのお前もだ。動いたら殺す。大人しく、第1王子どもが死ぬのを見てろ。」


 傭兵ミルが、第3王子を盾にミシェルを脅す。動きを封じられて、第3王子もミシェルも歯噛みした。

 広場の騒動に釘付けになっていた人々が、平行して起きたこちらの騒動に気付き、いっそうざわめき出す。第3王子が苦しげに表情を歪めた。


「――――さて、俺が何故、すぐにお前を殺さないか、分かるか?」

「・・・・・・。」

「聞かせろ。お前は何者だ?」

「・・・・・・・・・。」


 第3王子は黙り込んで、決意した。


「・・・ミシェル殿、僕のことは構わないで、行ってください。」

「えっ、し、しかし・・・っ!」

「兄の方を優先すべきです。行ってください!」

「はっ、大した自己犠牲だな。―――反吐が出る。」


 嘲笑し、吐き捨てた傭兵が、鉤状にした指を喉仏に強く食い込ませる。絞め殺された蛙のような悲痛な音が、第3王子の喉の奥から漏れ出た。それで、ますますミシェルは動けなくなる。


「さっきのがハッタリでないなら、お前には分かるだろ? どれだけ素早く動こうが、俺はお前らを2人同時に、殺すことが出来る。ほら――――――」


 傭兵に掴まれている左腕が、熱を感知した。傭兵の左手に熱が発生している。魔力が集まっているのだ。


(あ・・・うぅ・・・まずい、痛い、やばい、殺される。――――殺される。)


 第3王子の瞳が恐怖に揺れる。負けてはいけない、と告げる心の声が、徐々に小さくなっていく。

 傭兵は鼻で笑った。こんなガキに謀られたとは、己もまだまだ未熟者である。

 喉元の圧迫を少し緩め、耳へ蝋を流し込むように声を垂らす。


「名を名乗れ、ガキ。呪い殺してやるよ。」

「・・・・・・。」

「そっちの方がいいだろう? 周りにも被害が出ないんだから、なぁ。」

「・・・・・・・・・僕、は・・・」


 何の所為か、おそらくは今この状況すべての所為で、目の奥がチカチカして頭が朦朧としてきた第3王子は、何がどうなろうとどうでも良くなってきてしまった。


(やっぱ・・・駄目だった。今まで何もしてこなかった奴が、今更やる気を出したところで、遅いんだ。兄上のようになることは勿論、兄上の助けになることも出来ない・・・。)


 希望は失われ、覚悟は揺らがされ、点いたばかりの火種は薪に燃え移らず、第3王子を臆病者に戻す。すべてを流れるに任せ、人の言うことに従うことの容易さを思い出した彼は、指示通り名乗ろうと口を開き、


「―――――わっ、わかりましたぁっ!」


 叫んだのはミシェルだった。


「申し訳ありません! カルディア様の仰せの通り、行かせていただきますっ! 本当に申し訳ありませんっ!!」


 言うが早いか走り出し、一本隣の路地へ入っていく。

 それに慌てたのは傭兵だった。


「あ?! おい、待てっ!」


 と、右手をミシェルに向けて、

――――――第3王子の喉から手が外れた。

 一瞬で魔力を凝縮し、

――――――酸素を思うままに取り込んで、火種が再び燃え上がる。

 魔法を放った。

――――――ミシェルへと向いている腕を横からひっぱたいた。


「っ!」


 第3王子によって軌道をずらされ、狙いを失った傭兵の魔法は、大通りに面している店の外壁に衝突して、その一部を崩した。


「お前っ・・・!」

「離してくださいっ!!」


 第3王子は力任せに左腕を振って、拘束から脱け出した。そして傭兵と向かい合い、その氷のような瞳を真正面から見据える。


(ミシェル殿が解呪に成功するまでの間、どうにかして時間を稼がないと・・・!)


 戦うことは無理だ。相手は凄腕の魔術士。こちらは箱入りの王子。ならばどうやって引き留める? 勝たなくても良い。戦わずして時間を稼ぎ、尚且つ負けないためには・・・――――――第3王子は勢いに任せて言い放った。


「そんなに知りたいのなら、教えてあげましょう! ―――僕の名前は、カルディアンド。カルディアンド・ベーネ・イル・カント! この国の、第3王子だ!」

 

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