3人組の窮地
大通りの衆目を思いっきり集めながら、第1王子たち一行は関所に向けて歩いていた。
(かなり目立っているな・・・・・・まぁ、仕方がないか。)
自分の格好を鑑みれば、むしろ当然のことである。我ながら、かなりのクオリティーを演出できた――――――男としては少々不本意だが。
思いつつ、ただ黙って歩くのもつまらないので、彼は商人に話しかけた。
「ところでフェル、この国を出た後はどこへ行くんだ?」
「え? えーとですねぇ、一回、僕の故郷に行こうかと。」
「故郷へ?」
「はい。ここから西の方にある、リヴァン、という街です。この街は、もとは1つの国として独立していたんですが、今から約130年前にウェリウス王国と併合し、1つの街になりました。かなり小さい国だったので、個人個人の名前が被ることはほとんど無いし、被ったとしても住んでる地域で識別できるので、今でも、苗字という概念が無いんですよ。」
「へぇ! それは面白いな。」
「あと、リヴァンには、そこで生まれた人にしか使えない、特殊な魔術式がありまして。」
「ほお。」
「魔封石、と呼ばれるアイテム型のものなんですが、これくらいの―――」
と、商人は指先を折り曲げ、2センチほどの隙間を作った。
「―――大きさの、予め魔力を込めておいた石なんです。きっかけ1つで、詠唱なしで発動できて、威力は、使い手次第ですけど、最低でも基礎魔法の中級から、上は特級程度の効果が出るんです。最近は、いくつか連結させて、詠唱を重ねることで、より大きな効果を出せるようになったみたいで。」
「ほぉー・・・それは興味深い。ぜひ、詳しく調べてみたいな。それにしても、リヴァン出身の人にしか使えないとは・・・・・・どうしてなんだ?」
「んー、僕は専門じゃないので、よく知らないんですけど・・・確か、魔術回路の形とか、魔力の質なんかが、他国の人達とまったく違うみたいなんですよ。」
「あぁ、なるほど。」
第1王子は納得して頷いた。
他の人々に距離を置かれながらも、どうにかその流れに乗って、関所の前の広場に入っていく。
「それで、他にはどんなところへ行くつもりなのだ?」
「そうですね~、ザックの故郷の技術大国アルメイス共和国もいいですけど、一番ラヴィさんに紹介したいのは、ラウセェントレーヴ王国、っていう、すごく小さな国かなぁ。」
「ラウセェントレーヴ・・・聞いたことがあるな。確か、人間以外の種族が統治している国だったか。」
「そうなんです。人間よりそれ以外の数の方が多い、世界で唯一の国で、」
話しながら、広場の中央付近に来た時だった。
パァンッ! と大きな音と共に、信号弾が青空に花開いた。
不覚にもかなり驚いた第1王子と、普通にびっくりした商人が、そちらに気をとられて空を見上げる。ほぼ同時に、暗殺者が第1王子の腕を引いて、強い口調で囁いた。
「マズイ、魔法だ!」
その言葉を理解するより早く、不意に日が陰った。
次の瞬間、広場のレンガの継ぎ目を縫うようにして、漆黒の影が網目状に触手を伸ばし、その場にいる人々全員の身体に絡み付いた。
第1王子は顔を歪めた―――――――――全身から力が抜けていく。この影に吸いとられていっているようだ。
(これは、呪いか・・・っ! ということは、犯人は――――――)
第1王子の推測は的中した。
近くの路地から不気味な笑い声を上げながら、小柄な老婆が現れる。言うまでもないが、占い師の“朽縄”だった。
「ふぇっふぇっふぇっ、いい様だねぇ、“蜃気楼”に、商人の坊やと―――綺麗な第1王子様?」
化けているのが知られていることは、さして気にならなかった。町中の噂になっているのだから、仕方あるまい。
そんなことよりも第1王子を怒らせたのは、
「貴様っ・・・関係のない人々を巻き込むな!」
彼らの放った魔法が一般人にもかかっていることだった。
呪いの範囲は、広場全体となっているようである。偶然、この場に居合わせただけの、顔すら知らない人々が、呪いに縛られ次々と膝を突いていく。
第1王子や暗殺者のように、強い魔術耐性を持ち、呪いを全身に絡みつかせながらも立っていられる人は、なかなかいない。
商人も顔色を悪くして、意識こそ失わなかったものの、遂にがくりと崩れ落ちた。
「フェル。」
暗殺者が商人を気遣って声を上げる。それからすぐに、きつい視線を占い師へ投じた。
第1王子は唇を噛む。打開策がまったく思い浮かばない。
「あまり変なことぁすんじゃないよ。」
第1王子の内心を見透かしたように、占い師は言った。
「今度の人質は、ここにいる全員だ。関係の無い奴らを巻き込むのぁ、嫌なんだろう? ――――だったら、何もしないことだね。あんたらが大人しく死んでくれりゃあ、それですべて事足りるのさぁ。」
「っ・・・・・・・・・。」
「さぁて、皆、出番だよ!」
占い師が手を打つと、路地裏からぞくぞくと柄の悪い連中が出てきた。
広場の異常に気付いた関所の衛兵が、広場に入り、すぐさま影に絡めとられて沈黙する。その様を横目で見ながら、ラヴィは考えていた。
(かなり高度な魔術だな。人数制限が無く、尚且つ敵と味方を識別しているとは。真っ向から壊すには時間がいるな・・・。この魔術を構成している陣か何かを崩せれば、手っ取り早いのだが・・・どこを基点に構成されている? どこだ・・・?)




