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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
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悪徳親子

 二日前の早朝のことである。

 国王は何か物音を聞いて、目を覚ました。起き上がり、まだ薄暗い部屋に目を凝らす。―――――――と、本棚の向こうから、人が現れた。

 国王はさして慌てることもなく、その人物を見ていた。本棚の裏のあの通路は、国王になる者しか知らない場所だ。つまり、来たのは第1王子のラッヴィアンドである。

 王子は通路を抜けて、静かに部屋に入ると、国王に一礼した。国王はベッドの縁に腰掛け、小さな声で聞いた。


「何用だ、ラヴィ。」

「失礼いたします、お父様。折り入って相談したき義がございますれば、無礼とは知りつつも参上した次第であります。」

「わざわざ通路を使ったからには、人に聞かれたくないのだろう?時間は少ない。本題に入れ。」

「はい。」

「来い。」


 国王は王子を手招いた。王子は国王の傍に跪くと、口元に笑みを浮かべて話し始めた。


「私の側近にして、従者長の、ミシェルという男はご存知ですか。」

「あぁ。あの、悪そうな平民だろう?そやつが、どうかしたのか?」

「ええ。実は、少々調べてみましたところ、彼が従者長の立場を手に入れるにあたり、我が国の重鎮たち数名に、賄賂を手渡していたようで・・・。」

「――――ほぅ。大臣は、賄賂を受け取ったのか。」

「そのようです。――――本来、賄賂は渡した者はもちろん、受け取った者も罪に問われます。しかし、受け取ったのは左大臣を始めとする、我が国を代表する大臣たちです。彼らを、一度に断罪するとなれば、国政の混乱は免れ得ません。」

「そうだな。」


 国王は頷いて、王子を見た。普通の親より接する機会は少ないが、それでも自分の息子だ。微笑んだ顔から、何かを企んでいるな・・・ということくらいは分かる。


(さて、何を考えている?)


 国王は少しだけワクワクしながら、王子の言葉を待った。

 王子は王子で、自分の父親が自分の話すことに、興味を抱き始めたことを感じていた。


「癌細胞は転移する前に、元凶を叩かねばなりません。しかし、既に転移してしまった以上、重要な器官を切り捨てるわけにはいきません。ならば、元凶を叩き、薬を与え、これ以上 癌が体を蝕んでいかぬようにするべきではないでしょうか。」

「ふむ、その通りだな。――――――――何を、企んでおる?」


 王子と国王は悪役のごとき笑みを浮かべ合い、ミシェルをハメるための策を話し合った。その様子は、朝の爽やかな日差しにはまったく似合わぬものだった。そのうち、どこかから菓子折りを出してきてその底に金が敷き詰められていても、なんら不思議はないと思った。




***




 そうして話し合った結果が、これだ。ミシェルが去った謁見の間は、静まり返っていた。

 国王は重々しくため息をついて、目を閉じた。そして目元を手で覆うと、ツラそうに声を絞り出した。


「――――――・・・なんちゃって。」


 謁見の間は静かなままだ。臣下たちは、陛下の突然の言葉を理解できず、されど迂闊に聞き返すことも出来ず、床を見て黙っている。

 理解されてない空気を感じて、国王は顔を上げ、もう一度言った。


「嘘だからな、今の話。信じるなよ。」

「・・・・・・はい?!」


 ついに耐えきれなくなった一人の臣下が、声を上げた。


「どうした?右大臣。」

「ど、どうしたもこうしたも・・・・・・今の話は、全て、嘘だったのですか?」

「当然だろう。我が息子がみすみす、そのような狼藉の餌食になるとでも思うのか?」

「え・・・いえ、思いませんが・・・・・・。では何故、このような嘘の告発を?まさか、ミシェル殿をハメたのですか?」

「あぁ、その通りだ。」


 国王は平然と、つまらなそうに、右大臣に返した。それから、他の臣下たちを見回しながら、声に力を込める。


「癌細胞を取り除くためにな。他に転移してないことを祈るのだが・・・・・・どうだろうなぁ。」

「「・・・・・・。」」


 国王の視線に、左大臣を筆頭にした者たち数名が下を向いた。


(ミシェルから金を受け取ったのはあやつらか。よし、減俸だな。)


 一つ頷いて決心し、国王陛下は謁見の間を退出した。後には、何が何だか分かっていない右大臣と、釘を刺されて気まずげにしている左大臣たちが残された。

 国王は自室に戻りながら、窓の向こうを夕焼けを眺めた。真っ赤な光が身体中に染み渡り、その眩しさに目を細める。


(さて、ラヴィはいつ帰ってくるのだろうか・・・。まぁ、帰ってこないつもりだろうけどな。――――国を出るなら、今日中にしろよ・・・。)


 明日になっても帰ってこなかったら、兵団を出さぬわけにはいかなくなる。その前に・・・――――――――息子は、親が自分の計画に気付いていることに、気付いていないだろう。大っぴらに支援してやれないことに、国王はじれったさを覚えながら、踵を返したのであった。

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