表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第3章
63/90

礼儀知らずの従者たち

 

 コンコンコンコンッ


 第2王女の部屋にノックが訪れた。

 目上の人がおられる部屋へのノックは、握った拳の手の平側で、4回以上叩くのが礼儀である。

 マナーを忠実に守ったその人は、しかしマナーを守ることなく、中からの返答を待たずして扉を開け放った。

 素早く室内に入って、まるで退路を断ち切るように、すかさず扉を閉める。


「失礼いたします、第2王女様! ご無礼をお許しください! 緊急にお知らせしなければならないことがありまして、参りました!」

「――――――・・・どちら様?」

「あ、すみません、私、第3王子様付きメイドの、ハルシャ・カルセルと申します!」


 やって来たその人―――ハルシャは、髪の毛を豪快に振り回しながら頭を下げた。それから思い切り振り上げて、不思議そうな顔になった。


(あれ? なんか、変な空気・・・?)


 第2王女は平淡な表情をしているが、なんとなく警戒心が見え隠れしている。側近のアリシア様に関しては、完全にこちらを睨んでいる。


(ええと・・・やっぱり、返事を待たずに入ったのは、まずかった、かな・・・・・・?)


 どう考えてもまずくないわけがなかろう。普段はもとより、今の王宮の状勢を鑑みればなおのこと、こんな無鉄砲なことはできないはずだ。それをやってのけてしまうのが、ハルシャという奴なのだが。

 不穏な空気にさすがに怯んだハルシャであったが、やはり立ち直りは早かった。


「あ、それでですね、そうなんです、はい。」

「「・・・?」」

「ええと、第3王子様からお手紙をお預かりしております。」

「カルディアから?」

「はい。」


 ハルシャは真っ白い封筒を両手で恭しく差し出した。

 第2王女と側近が顔を見合わせる。小さく頷いた王女に、側近が頷き返し、ハルシャに向き直った。

 ――――――――――――なかなか近寄ってこない。

 どうしたのだろう? 何か、変なところでもあるのだろうか? だとしたらハッキリ教えてほしい。曖昧、うやむやなのは嫌いだ。

 と、ハルシャが眉をひそめて2人を見遣った。

 その時、


 コンコンコンコンッ


 再び、ノックが訪問した。

 礼儀に適った訪問者は、もちろんハルシャのように、いきなり扉を開け放つような無礼は働かない。

 ハルシャは姿勢を正して、部屋の主を窺った。

 王族の私室は特に防音性に優れているため、少し開けないとやりとりが出来ない。覗き穴は付いているが、勝手に覗くのは無作法だ。

 そんなわけで許可を求めたハルシャだったが、王女は彼女には頷かず、


「アリシア。」

「はい。」


 一言で側近を動かした。


(あらら? 私が一番近くにいるのにな~・・・?)


 ハルシャはわかりやすく不満げな顔で首を傾げつつ、大人しく場所を空けた。

 側近はハルシャから目線を外さずに扉に近寄って、素早く外を覗き見た。


「っ!」


 大きく息を飲んだ音が聞こえた。弾かれたように飛び退き、王女に耳を打つ。

 ハルシャは(あくまで自分にとって)さりげなく耳を澄ませた。が、


(・・・・・・聞こえない。え~、誰が来たんだろう? 気になるなー・・・。)


 何だかそわそわしてきてしまった。気になる。気になる! ――――――遂に、ハルシャは好奇心に負けた。

 つつつ、とさりげなく扉に近寄り、


(えい!)


 思い切って覗き見て、――――――――――執事服。仮面のような柔らかい笑み。右目を覆う黒い眼帯―――――――――― 一瞬固まり、側近より派手に飛び退いた。


(た、大変だ!!)


 ハルシャは咎めの声をかけられるより早く、勢いのままに王女に近寄った。合間に側近が立ち塞がるが、構っちゃいられない。側近に向けて言いつのる。


「大変です第2王女様っ! 外の人は敵です! 危ないです! 開けちゃ駄目です! 今すぐ、お逃げください!」

「、どうして貴女が、そのことを知っているの?!」

「すべて、第3王子様から教えていただきました! それで、第2王女様のお力になるようにとご命令を賜りまして、参ったのです!」

「―――――――――」

「信じてくださいっ!」


 どうやら私は信用されていないらしい、と、いくらハルシャでも悟っていた。

 ここまで言っても分かってもらえないなら――――――どうしようか・・・正直、万事休すだな・・・――――――と冷や汗を流しつつ、2人を上目に見る。

 不意に第2王女が立ち上がった。


「分かったわ。信用します。」

「本当ですか?!」

「シルヴィア様―――」

「嘘を吐いているようには見えないもの。それに、彼女の持ってる手紙の封筒と封蝋、それお父様のものね。執務室のものを使ったのでしょうけど、それらがある場所は王族しか知らないし、開けられないわ。だから、信用するの。」


 そんなことより――――――と、王女はクローゼットに近寄っていく。


「敵が外にいるのでしょう? 早く、脱出するわよ。」

「脱出、ですか? どうやって――――――」


 王女は、どでかいクローゼットの観音開きの扉の中央にある、飾りと思しき鍵穴に、胸元から取り出した鍵を差し込んで、右左と何度か回した。


 カチンッ!


 何かが開く音がした。

 王女がクローゼットの横に行き、全体を使ってそれを押す。

 と、クローゼットが動いた。

 そして、その裏に、人1人がようやく通れるくらいの通路が現れる。


「・・・・・・・・・。」

「うっわー! すっごぉい! 隠し通路ってやつですね! うわぁ、さっすが王族! わぁ~!」


 驚愕に口もきけない側近と、興奮して目を輝かせるハルシャに対し、王女はにやりと笑って、暗い通路へ誘った。


「さぁ、行くわよ。」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ