利用する右大臣
(――――思っていたよりは、強かだな。)
右大臣は第2王女からそんな印象を受けた。
父親を亡くして、泣き崩れてそのまま再起不能になるかと思っていたのだが、第2王女は王族の権力を握ったまま離さず、第1王子捜索のために騎士団の出動を命じてきた。
(さすがに、そこまで馬鹿ではなかったか。まぁ、あの第1王子の妹だからな・・・。)
騎士団長の元へ向かう。
命令を出すためだ―――――――――出動するな、と。
「やぁ、右大臣。」
「騎士団長。命令が下されたぞ。」
騎士団長エドウィーは右大臣の友人であり、そして勿論、計画の協力者だった。
「計画の進み具合はどうだ?」
「少々誤差が出たが、まぁ予定通りだ。」
「第2王女様のご様子は?」
「気を落とされてはおられたが、さすがに、責任放棄まではなさらなかったよ。お前ら騎士団に、第1王子捜索の出動命令を下された。」
「へぇ。案外、お強い方なのだな。あまりお話したことがないから分からないのだが、そういう方なのか?」
「・・・少々、男勝りな面はあるらしい。」
「ふぅん? ――――――ま、なんだっていいさ。それで? 出動はしないのだろう?」
「あぁ。左大臣様に止められて、出動命令は無くなった。そういうことにしろ。」
「わかった。そのようにしよう。」
団長が頷いたところで、猛々しい足音が廊下を歩いてきた。まだ結構遠いが、そうとう強く踏み込んでいるらしく、その音はハッキリと届いた。
ヒールの音である。従者や文官たちに、ヒールのある靴を履いている者はいない。
右大臣は嫌な予感がしてきて、団長の肩を掴み、耳元に囁いた。
(「王女様かもしれん。」)
(「何?!」)
(「いいか? 王女様は、あまりのことにお心を痛められ、お食事もままならない状態だと“左大臣様から”聞いた。出動命令の破棄は“左大臣様の”所為。何か命令されたらとりあえず逆らうな。わかったか?」)
(「――――わ、わかった。」)
簡単に指示を出し、右大臣は近くの部屋に潜んだ。
少々、いやかなり、不安である。騎士団長はアドリブに弱く、表情に出やすい、正直な男だ。その分、御しやすい又は騙しやすいのだが、善し悪しである。
扉を薄く開けて、2人のやりとりを見守った。
***
王女が立ち去って、たっぷり5秒ほどを数えてから、右大臣は外に出た。
(まったく・・・このタイミングで、アリシアが帰ってきたか・・・・・・余計なことを言ってもらっては困るからな、見に行くか。)
騎士団長が切羽詰まった情けない顔で右大臣を見る。
「ど、どうしようアルシエ。どうしたらいい?」
「・・・・・・予想外だったな。――――――とりあえず、素直に出動してくれていい。」
「いいのか?」
「逆らった方がマズイだろうが。素直に出動して、王子を探せ。ミシェルは既に放してあるから、ソイツをけしかけるか、上手いことはめて、始末しろ。」
「おや、“蜃気楼”は?」
騎士団長の問いに、右大臣は肩をすくめた。
「裏切った。」
「裏切った?! “蜃気楼”が、か?!」
「あぁ。だから、その場に応じて、上手く殺ってくれ。何が起ころうと、ミシェルか暗殺者の所為にするから、安心して行け。」
「わかった。すべて終わった暁には――――――」
右大臣はゆっくりと頷いた。
「――――――王権は、山分けだ。」
書面での契約では無い、単なる口約束だ。たったこれだけの言葉で思い通りに動いてくれるなら、安いものである。
王権の山分けと言っても、実際に舵を取るのは右大臣だ。騙し騙し上手く転がしてやっていけば問題ない。
(口約束は悪魔の十八番だからな・・・。)
思うことに、団長は気づかない。
互いの勝利、そして平等な報酬を確認するように笑って頷き合って、互いに背を向けた。
(さて、と。)
第2王女様に合流し、アリシアの動向を見張らなければならない。
(妹が心配で~・・・とか言っとけば大丈夫だろう。)
右大臣は第2王女に追い付くため、そして偶然の出会いを演出するため、少し遠回りをしながら早足になって、王女を追った。




