呼ばれる王女
新年一発目!
今年こそ完結させたいです!
2014年もどうぞよろしくお願いいたします。
国王の執務室を出て、まず第2王女が向かったのは、騎士団のところだった。今頃は右大臣が出動命令を出しているはずである。
カツカツカツと低いヒールを高らかに鳴らして、広い廊下のど真ん中を歩きゆく。
王宮は、国王の寝室・執務室を中心に、南側が文官や広間の領域、北側が騎士の領域となっている。騎士団のほとんどは別の場所にいるのだが、団長副団長と一部精鋭の者たちは、王宮守護のためここに寝泊まりしていた。
すでに城を出てしまっているなら仕方がないが、もしまだ団長がいるのなら、伝えたいことがあった。
(狡猾な兄貴のことよ・・・・・・分かりやすくその辺にいるはずがないわ。多分、思いきり変装して――――万全を期して、女装くらいしてるかもしれないわ。)
そうなったら、見つけるのは至難の技だ。その旨を伝えなければならない。
団長を探して歩き回っていると、その尋ね人は向こうの方からふいに現れた。
「おや、第2王女様・・・お加減はもう宜しいのですか?」
「? 体調は、もともと悪くなどありませんわ。」
「おや、そうでしたか。それは失礼いたしました。左大臣様からは、あまりのご心痛にお食事もままならない、と聞き及んでおりましたので。」
「なんですって? 左大臣殿が?」
「ええ。」
頷く団長に、王女は形の良い眉をひそめた。何かが引っ掛かる。が、その“何か”が何なのか分からない。
(・・・・・・まぁ、いいわ。)
今優先すべきことは、こんな自分の些細な違和感ではない。
「そんなことより、団長殿? 右大臣殿から、出動命令は受けまして?」
「・・・受けたのですが・・・――――――」
と、騎士団長は言葉を濁した。
「どうかしたの?」
「・・・・・・実は・・・・・・左大臣様に、出動を止められてしまいまして・・・・・・。」
「――――止められた? 左大臣殿に?」
「はい。」
団長は神妙な顔で頷いた。
「僭越ながら右大臣様と共に抵抗したのですが、左大臣様にはお聞き届けいただけず・・・。」
「左大臣殿が出動を止めた・・・?」
王女はうろんげに繰り返し、首を傾げた。
(一体、何のために? 騎士団の出動を止めて、左大臣に何のメリットがある?)
騎士団の出動目的は、第1王子の捜索のため。それを邪魔するということは、第1王子が見つかってしまっては困るということ。
(つまり、暗殺を企む黒幕?)
いや、しかし、と王女は思い直した。
(あの無駄に小賢しい兄貴のことよ。きっと、左大臣にまで根回しをして、騎士団に出動させないよう言ったのだわ。賄賂の罪か何かをちらつかせて。)
そうに違いない! まったく困った兄貴だ・・・――――――――――と、怒り心頭で黙り込む王女を、騎士団長は少しニヤリとして見ていた。
「~~~~ま、第2王女さま! 王女さまー?!」
廊下の向こうの方から、メイドの声が聞こえてきた。
「私はここよ! どうかしたの?」
「あ! 王女様・・・――――――――――」
「何があったの?」
「――――――実は、その・・・・・・だ、第3王子様が・・・」
「っ! カルディアに、何かあったの?!」
その時 王女の脳裏をよぎったのは、父の後を追い力なく横たわる弟の姿だった。
色を失う王女に、メイドは恐る恐る告げる。
「第3王子様におかれましては・・・・・・・・・城下に、下りられたご様子で・・・――――――」
「――――――・・・はぁ?」
思いっきり顔を歪めて言った王女に、メイドも団長も身を引いた。怒気が立ち上って見えるようだ。
(ぁぁあああああああああっ! 本当にもう! どいつもこいつも・・・っ!)
この時シルヴィアは最高潮に苛立っていた。
兄貴が脱走し、父上が亡くなって、その上アリシアは戻らないし――――――その上、弟カルディアまでもが城を出たですって?!
正直、発狂しそうなほどの怒りと混乱にさいなまれていた。ぶちギレる寸前である。
そこに、
「・・・・・・2王女様ー! 王女様ー!」
「――――――今度は、なに?!」
新たな知らせを持って別のメイドがやって来た。
八つ当たり的に王女に睨まれ、一瞬身をすくめる。が、すぐに立ち直って、告げた。
「第2王女様付き従者長のアリシアが、つい先程王宮に戻られ、王女様を探しておられます!」
「アリシアが?! ――――――・・・ようやく来たのね、まったく・・・。すぐに戻るわ。貴女は先に行って、アリシアに私の部屋で待つよう言いなさい。」
「はいっ!」
「団長殿は騎士団を出動させて。捜索対象は第1王子および第3王子。左大臣より私の命令の方が優先されるべきなのは分かるでしょう?」
「・・・・・・・・・。」
「団長殿?」
「あ、は、はっ! 第2王女様の仰せのままに――――」
「頼んだわよ。」
自分を取り戻し、的確な指示を素早く下して颯爽とその場を後にする王女には、苦い顔をする騎士団長は目に映らなかった。




