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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第3章
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純情商人

 


フェルリーくんに癒しを…………!(切実w)


 

 

 窓から優しい光が射し込んでいる。

 商人は、ぼーっとする頭を幾度となく瞬きすることで覚醒へと導いて、ゆっくりと身を起こした。

 大きく欠伸を1つ。

 伸びをしようと両手を上げて、その瞬間、蹴られた背中が激痛を訴えた。


「い゛っ・・・・・・・・・うぅ・・・・・・。」


 仕方なく、伸びをすることは諦めて――――――――――その手を、自分の足の上に頭を預けて、座ったまま眠り込んでる女性の髪の上に置いた。

 栗色の、柔らかい髪である。

 何となくその髪を鋤くように撫でながら、商人は呟いた。


「看てくれていたんですね・・・・・・ありがとうございます。」


 半分だけ覗く寝顔は安らかで、可愛らしい。歳は商人と同じくらいだろうか? 緩くカーブする髪の毛が、輪郭をふんわりと隠している。化粧っけは薄く、服装もシンプルでシックな感じだ。

 綺麗な女性(ひと)である。

 商人はしばらくその女性の顔を見詰めていたが、やがて、彼女を起こさないよう細心の注意を払い、ベッドから抜け出した。

 毛布をそっと肩に掛け、


「・・・おやすみなさい。」


 と耳元に囁く。

 女性は少し身動ぎして、しかし目を覚ますことはなく、安らかな眠りを継続した。

 どんなにお人好しだろうと、商人だって人である。可愛らしく、好ましい女性が目の前で寝てるのだ。それも、自分の看病のために夜を徹してくれた・・・―――――――――――― 一瞬、思い切り抱き締めたい衝動に駆られ、商人は焦った。

 どうにかそれを押し留め、商人は名残惜しく後ろ髪を引かれつつも、部屋を出たのであった。



 階下では、暗殺者と店主と――――――見知らぬ女性が、揃って席に付き商人を待っていた。

 商人の姿を認めるなり、女性が立ち上がって笑顔で彼を迎えた。


「やぁ、おはようフェル! 身体の具合はどうだ?」


 商人はちょっと呆気に取られた。なんだか聞き覚えのあるような声だが、一体彼女は誰だったか? 記憶力には自信のある商人だが、すぐには思い出せそうにない。

 小首を傾げつつ、答える。


「・・・あ、はい、おはようございます? もう、だいたい、大丈夫です。」

「そうか、それは良かった。」


 心底ほっとしたように微笑んだ女性。

 それから彼女はくるりとその場で一回転し、見せびらかすようにロングスカートをつまみ上げた。金のロングヘアーは真っ直ぐと背中に垂れ、凛々しい顔立ちは高貴な美しさを湛えている。

 女性はニヤリと笑った。似つかわしくない表情の筈が、やけに似合っていた。


「どうだ? 似合うか?」

「・・・・・・え? あ、はい、とてもよくお似合いですよ?」


 社交辞令(リップサービス)は商人の必須スキルである。突然のことに、クエスチョンマークが付いてしまったのはご愛嬌だ。

 女性は満足げに頷き、その賛辞を受けた。


「その反応を見る限りでは、私が誰だか分かっていないようだな・・・・・・さすが。完璧だな。」


 言葉をかけられた暗殺者は、照れたように黙然とそっぽを向いた。

 ここまで来て、ようやく商人は事態を飲み込み、目を見開いた。


「え? あれ? えっと・・・ま、まさか――――――ラヴィさんっ?!」

「ご名答。」


 見知らぬ女性――――――もとい、第1王子は、深く頷いて席を勧めた。


「さ、早く朝御飯を済ませろ。国を出るぞ。」


 商人は言葉を失ったまま、素直に従って、暗殺者の隣の席に付いた。


「どぞっす。」

「あ、どうも、ありがとうございます。」


 店主がサンドウィッチをテーブルに置いた。

 商人は上の空で礼を言い、それをもそもそと頬張り始めた。

 テーブルの上で、王子達の会話が跳ねている。その声を聞くともなしに聞きながら、商人は思った。


(うーん・・・? ラヴィさん、風邪でもひいたのかな? 少し、声が枯れているような・・・・・・)


 まぁ気の所為かな、と、商人は結論付けて、好物のタマゴサンドにかぶり付いたのだった。

 

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