純情商人
フェルリーくんに癒しを…………!(切実w)
窓から優しい光が射し込んでいる。
商人は、ぼーっとする頭を幾度となく瞬きすることで覚醒へと導いて、ゆっくりと身を起こした。
大きく欠伸を1つ。
伸びをしようと両手を上げて、その瞬間、蹴られた背中が激痛を訴えた。
「い゛っ・・・・・・・・・うぅ・・・・・・。」
仕方なく、伸びをすることは諦めて――――――――――その手を、自分の足の上に頭を預けて、座ったまま眠り込んでる女性の髪の上に置いた。
栗色の、柔らかい髪である。
何となくその髪を鋤くように撫でながら、商人は呟いた。
「看てくれていたんですね・・・・・・ありがとうございます。」
半分だけ覗く寝顔は安らかで、可愛らしい。歳は商人と同じくらいだろうか? 緩くカーブする髪の毛が、輪郭をふんわりと隠している。化粧っけは薄く、服装もシンプルでシックな感じだ。
綺麗な女性である。
商人はしばらくその女性の顔を見詰めていたが、やがて、彼女を起こさないよう細心の注意を払い、ベッドから抜け出した。
毛布をそっと肩に掛け、
「・・・おやすみなさい。」
と耳元に囁く。
女性は少し身動ぎして、しかし目を覚ますことはなく、安らかな眠りを継続した。
どんなにお人好しだろうと、商人だって人である。可愛らしく、好ましい女性が目の前で寝てるのだ。それも、自分の看病のために夜を徹してくれた・・・―――――――――――― 一瞬、思い切り抱き締めたい衝動に駆られ、商人は焦った。
どうにかそれを押し留め、商人は名残惜しく後ろ髪を引かれつつも、部屋を出たのであった。
階下では、暗殺者と店主と――――――見知らぬ女性が、揃って席に付き商人を待っていた。
商人の姿を認めるなり、女性が立ち上がって笑顔で彼を迎えた。
「やぁ、おはようフェル! 身体の具合はどうだ?」
商人はちょっと呆気に取られた。なんだか聞き覚えのあるような声だが、一体彼女は誰だったか? 記憶力には自信のある商人だが、すぐには思い出せそうにない。
小首を傾げつつ、答える。
「・・・あ、はい、おはようございます? もう、だいたい、大丈夫です。」
「そうか、それは良かった。」
心底ほっとしたように微笑んだ女性。
それから彼女はくるりとその場で一回転し、見せびらかすようにロングスカートをつまみ上げた。金のロングヘアーは真っ直ぐと背中に垂れ、凛々しい顔立ちは高貴な美しさを湛えている。
女性はニヤリと笑った。似つかわしくない表情の筈が、やけに似合っていた。
「どうだ? 似合うか?」
「・・・・・・え? あ、はい、とてもよくお似合いですよ?」
社交辞令は商人の必須スキルである。突然のことに、クエスチョンマークが付いてしまったのはご愛嬌だ。
女性は満足げに頷き、その賛辞を受けた。
「その反応を見る限りでは、私が誰だか分かっていないようだな・・・・・・さすが。完璧だな。」
言葉をかけられた暗殺者は、照れたように黙然とそっぽを向いた。
ここまで来て、ようやく商人は事態を飲み込み、目を見開いた。
「え? あれ? えっと・・・ま、まさか――――――ラヴィさんっ?!」
「ご名答。」
見知らぬ女性――――――もとい、第1王子は、深く頷いて席を勧めた。
「さ、早く朝御飯を済ませろ。国を出るぞ。」
商人は言葉を失ったまま、素直に従って、暗殺者の隣の席に付いた。
「どぞっす。」
「あ、どうも、ありがとうございます。」
店主がサンドウィッチをテーブルに置いた。
商人は上の空で礼を言い、それをもそもそと頬張り始めた。
テーブルの上で、王子達の会話が跳ねている。その声を聞くともなしに聞きながら、商人は思った。
(うーん・・・? ラヴィさん、風邪でもひいたのかな? 少し、声が枯れているような・・・・・・)
まぁ気の所為かな、と、商人は結論付けて、好物のタマゴサンドにかぶり付いたのだった。




