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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第3章
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メイドは見た

 

 ハルシャは、1ヶ月前に王宮に上がったばかりの、新米の従者(メイド)だ。

 特技は掃除と洗濯。趣味は読書。好きなことは恋ばな。他人と違うところを挙げるとするならば、少々――――――いや、かなり――――――過激な選択をすることがある、という、その程度のことで、取り立てて目立つところも無い、ごくごく平凡な、ちょっと夢見がちな女の子である。

 王宮を立て続けに襲うハプニングに巻き込まれ、新米ながら何か出来ないかと、表情を引き締めて廊下を歩いている。


(―――――――――王子様の脱走・・・・・・国王陛下の暗殺・・・・・・やだもう、わくわくしたら不謹慎よね! でも駄目、物語みたいでわくわくしちゃう!)


 いや、表情を引き締めているのは、そうしないとニヤニヤしてしまうからだったか。歩き方にも気を付けてはいるが、油断するとスキップするように、飛び跳ねてしまっている。


(落ち着けあたしー、国王陛下がご逝去なされたのに、にやにやしてたら怒られるぞー、うふ、うふふふっ!)


 怒られるのも時間の問題であろう。

 さて、そんな彼女であったが、ただ無駄に歩き回っているだけ、というわけではない。きちんと訳あってうろちょろしているのだ。


(第3王子様、どこにいるのかなー?)


 彼女は第3王子付きのメイドである。事態が事態のだけに、どこかで落ち込んでいるのだろう、とは思うのだが、その居場所が宮中の誰にも分からない、という状況ではいられない。

 そこで、捜索が命じられたのだが、


(うーん、やっぱり、第3王子様って、立場弱いよね~。)


 メイドは少し、眉をひそめた。

 第1王子の姿が見当たらないとなったときは、第2王女付きの従者達も第3王子付きの従者達も、全員駆り出されて捜索に当たったというのに、第3王子の捜索はメイドたった1人だけである。

 第3王子付き従者長に、『あっれー? カルディア様、何処行っちゃったわけ? ったくもう、面倒だなー。あー丁度いいや、ハルシャ! あんた今 暇だろ? ちょっと捜してきな。』と背中越しに言われて今ここにいる。


(・・・いくらなんでも、ぞんざい過ぎじゃない?)


 と思う。

 可哀想な第3王子様―――――――――何となく悲しい気持ちになりながら、廊下の角を曲がり、


「~~~~はまだか!」


 突然の大声に驚いて立ち止まった。

 廊下に面したドアが細く開いていて、声はそこから聞こえてくるようだ。

 メイドは隙間に忍び寄った。息を殺し、中を覗く。彼女を突き動かすのは、純粋な好奇心―――――――――それと、『これってもしかして、リアル“家政婦は見た”?!』というちょっとした冒険心だけ。

 壁にぴったりとくっついて、慎重に中を窺う。

 中では、2人の男が向かい合っていた。1人は部屋の奥のデスクにつき、もう1人は従者だろうか、その前で直立不動の姿勢を保っている。


(あれは・・・・・・右大臣様ね? ・・・なんだかとっても、不機嫌そう・・・。)


 メイドの見立て通り、彼は今この上ないほど苛立っていた。冷静さを失い、大声でがなりたてるほど。

 その声は廊下の外にいるメイドにまで、ばっちり聞こえていた。


「まったく、なにをやっているんだ! 奴が死ななければ意味が無いではないか! 何のために“蜃気楼”を雇って、国王を殺させたと思ってるっ?!」


 メイドは全力で自分の耳と脳味噌を疑った。


(え? 嘘、え? な、なに・・・・・・なんですって? え?)


 メイドがどんなに混乱していようと、室内には関係ない。話は続く。右大臣の声音は少し冷静さを取り戻し、小さくなったが、耳を澄ませばはっきりと聞き取れる。


「・・・申し訳ございません、右大臣様。不測の事態に対処しきれず・・・・・・。」

「はぁー・・・・・・まさか、“蜃気楼”が裏切るとは、な・・・―――――――――次の手は?」

「既に。右大臣様の仰せの通り、ミシェルを解放して参りました。」

「よろしい。左大臣の所為にしてきたな?」

「勿論ですとも。」

「彼は、今日は?」

「ご自宅に居ていただいております。」

「うむ、いいだろう。多少、ズレがあったが―――――――――まだ、充分やり直しはきく。失敗も、後戻りも、許されないぞ・・・・・・気を引き締めて行け。」

「はっ。」


 従者らしき男の方が直角に腰を折り、踵を返した。


(やばいっ!)


 メイドは咄嗟に背を向けて、一目散にその場から逃げ出した。

 一瞬――――――

 コンマ1秒だけ、回避が遅れたメイドの視界に、振り返った男の右目を覆う眼帯が映って――――――


(きゃあああああヤバイ! やばいやばい! これはヤバイ! 誰かに知らせなきゃぁああああ!)


 メイドはもはや、笑顔を隠す努力すらしようともせず、廊下を全速力で走り去った。

 

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