表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国脱走物語  作者: 井ノ下功
章間話
47/90

参謀王子

 

 私たちは、元の酒場に戻ってきた。

 店主はまだ、床でみのむしになっている。まったく、もう夜は明けたぞ。

 叩き起こして朝食のひとつでも作らせようかと思ったが、はたと思い留まる。・・・これからする話は、聞く人が少なければ少ないほど良い。

 フェルを二階に運んでいったザックが、帰ってきた。


「アリシアはどうした?」

「・・・看ている、と。」

「へぇ、そうか。」


 ずいぶんと、気に入ったようだな。そういえば、戦っている最中も、移動している間も、ずっと手を握っていた。惚れたか?


(シルヴィアが喜びそうな話だな・・・。)


 思いつつ、適当な席に座った。ザックを手招いて、向かいに座らせる。

 やっぱり店主を起こせば良かったな。茶のひとつでもあれば、話しやすかったものを。まぁいい。


「・・・なぁ。」


 ザックが、沈黙に耐えかねたように口火を切った。


「ん? なんだ、ザック。」

「・・・・・・お前は、一発殴ってそれでいいと言ったな。」

「あぁ・・・父上の話か。それが、どうした?」

「本当に恨んでないのか? ・・・・・・許すのか? 俺を・・・。」


 泣きそうな顔だな、と思った。いや、決してそんな顔ではないのだけれど。ただの無表情だ。少し私を睨むようにして見ている。

 本当は、泣きたいのではないかと、勝手な想像だが、そう思った。


「ザック、暗殺者とは、依頼を受けて人を殺すのだろう?」

「あぁ。」

「つまり、仕事だな。お前は人を殺し、それによって得た金で生きている。それは立派な仕事だ。私は犯罪が大嫌いだが、お前の殺しは犯罪ではない。仕事だ。職業に貴賤はない。」

「しかし・・・」

「さっきの戦いの中でも、お前は誰も殺さなかったな。“犯罪”としての“殺し”はしなかった。もしお前が1人でも無駄に殺していたら、今頃私はお前を糾弾し、追い出していただろう。」

「・・・・・・。」

「それに、さっきも言ったが、私が恨むべきは依頼者の方だ。――――――そうだ。はっきりとした許しが欲しいのなら、お前の知っていることを全て、教えてくれないか?」


 まぁだいたい予想はつくがな・・・と気軽に言ったが、ザックは首を横に振った。


「守秘義務を守れない暗殺者は早死にする。たとえ破棄された依頼でも、話すことはできない。」


 はっきりとそう言ったザックからは、暗殺者として生きる自分への、誇りと矜恃が伝わってきた。

 それが分かって、なんだか嬉しくなってきて、私は笑んだ。


「そうか・・・プロだな、さすがだ。」


 言いつつ、私はふと気になった。


「なぁ、ところで、“私を殺す”という依頼は、いいのか?」


 自分から言っておいてあれだが、『今から達成する』とか言われて殺されたらどうしよう。私も彼も疲労困憊の状態だが、ここはナイフの間合いだ。どう考えても、私が魔法を放つより、ザックがナイフを振るう方が速い。

 ちょっと警戒したのが分かったのか、ザックは呆れた目で私を見た。


「・・・殺しはしない。矛盾する依頼が手違いで重なってしまってな・・・・・・相殺して、0に戻せば良かったんだ。だから、そうする。お前は殺さない。」

「ほぅ、そうなのか。なら、気兼ねなく頼めるな。」


 私の目はおそらく輝いていることだろう。

 何を感じてか、ザックが身を引いた。―――――いい勘してるな。


「・・・・・・何を、企んでる? ラヴィ・・・?」

「なに、“ちょっとした”“一大”計画だ。そう気負うな。」

「お前いま無茶苦茶言ってる自覚は?」

「あるに決まってるだろう。よくあることだ、気にするな。さて、皆が起きてくる前に、話を纏めるぞ、ザック――――――」


 私はニヤリと笑った。


 

 



二章で終わる予定だったんですけどね・・・・・・まさかの、次から第三章に突入です。

第三章で終了予定!

また完結に一歩近付きました!嬉しいです。


最後まで頑張りますので、今しばらくお付き合いください。


ありがとうございました。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ