参謀王子
私たちは、元の酒場に戻ってきた。
店主はまだ、床でみのむしになっている。まったく、もう夜は明けたぞ。
叩き起こして朝食のひとつでも作らせようかと思ったが、はたと思い留まる。・・・これからする話は、聞く人が少なければ少ないほど良い。
フェルを二階に運んでいったザックが、帰ってきた。
「アリシアはどうした?」
「・・・看ている、と。」
「へぇ、そうか。」
ずいぶんと、気に入ったようだな。そういえば、戦っている最中も、移動している間も、ずっと手を握っていた。惚れたか?
(シルヴィアが喜びそうな話だな・・・。)
思いつつ、適当な席に座った。ザックを手招いて、向かいに座らせる。
やっぱり店主を起こせば良かったな。茶のひとつでもあれば、話しやすかったものを。まぁいい。
「・・・なぁ。」
ザックが、沈黙に耐えかねたように口火を切った。
「ん? なんだ、ザック。」
「・・・・・・お前は、一発殴ってそれでいいと言ったな。」
「あぁ・・・父上の話か。それが、どうした?」
「本当に恨んでないのか? ・・・・・・許すのか? 俺を・・・。」
泣きそうな顔だな、と思った。いや、決してそんな顔ではないのだけれど。ただの無表情だ。少し私を睨むようにして見ている。
本当は、泣きたいのではないかと、勝手な想像だが、そう思った。
「ザック、暗殺者とは、依頼を受けて人を殺すのだろう?」
「あぁ。」
「つまり、仕事だな。お前は人を殺し、それによって得た金で生きている。それは立派な仕事だ。私は犯罪が大嫌いだが、お前の殺しは犯罪ではない。仕事だ。職業に貴賤はない。」
「しかし・・・」
「さっきの戦いの中でも、お前は誰も殺さなかったな。“犯罪”としての“殺し”はしなかった。もしお前が1人でも無駄に殺していたら、今頃私はお前を糾弾し、追い出していただろう。」
「・・・・・・。」
「それに、さっきも言ったが、私が恨むべきは依頼者の方だ。――――――そうだ。はっきりとした許しが欲しいのなら、お前の知っていることを全て、教えてくれないか?」
まぁだいたい予想はつくがな・・・と気軽に言ったが、ザックは首を横に振った。
「守秘義務を守れない暗殺者は早死にする。たとえ破棄された依頼でも、話すことはできない。」
はっきりとそう言ったザックからは、暗殺者として生きる自分への、誇りと矜恃が伝わってきた。
それが分かって、なんだか嬉しくなってきて、私は笑んだ。
「そうか・・・プロだな、さすがだ。」
言いつつ、私はふと気になった。
「なぁ、ところで、“私を殺す”という依頼は、いいのか?」
自分から言っておいてあれだが、『今から達成する』とか言われて殺されたらどうしよう。私も彼も疲労困憊の状態だが、ここはナイフの間合いだ。どう考えても、私が魔法を放つより、ザックがナイフを振るう方が速い。
ちょっと警戒したのが分かったのか、ザックは呆れた目で私を見た。
「・・・殺しはしない。矛盾する依頼が手違いで重なってしまってな・・・・・・相殺して、0に戻せば良かったんだ。だから、そうする。お前は殺さない。」
「ほぅ、そうなのか。なら、気兼ねなく頼めるな。」
私の目はおそらく輝いていることだろう。
何を感じてか、ザックが身を引いた。―――――いい勘してるな。
「・・・・・・何を、企んでる? ラヴィ・・・?」
「なに、“ちょっとした”“一大”計画だ。そう気負うな。」
「お前いま無茶苦茶言ってる自覚は?」
「あるに決まってるだろう。よくあることだ、気にするな。さて、皆が起きてくる前に、話を纏めるぞ、ザック――――――」
私はニヤリと笑った。
二章で終わる予定だったんですけどね・・・・・・まさかの、次から第三章に突入です。
第三章で終了予定!
また完結に一歩近付きました!嬉しいです。
最後まで頑張りますので、今しばらくお付き合いください。
ありがとうございました。




