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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第2章
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王子の魔法

 

(これほど緊迫した“実戦”は初めてだ。)


 王子は地面に胡座をかいた。

 飛んできた矢に一瞬身を固めたが、すぐに脅威は打ち払われ、安堵する。


(さすがザック・・・・・・信頼、してるからな。)


 思いながら、目を閉じ、呼吸を整えて集中力を高めていく。


「――――――任せろ。」


 ザックの声が小さく聞こえ、王子は微笑んだ。彼の見込んだ通りだった。

 ザックから預かったナイフを足の前に横に置き、手をかざす。


(音を聞け。闇を感じろ。我が身は守られている。)


 様々な風切り音が、王子の身に届くまでもなく消えていく。

 占い師の声。傭兵の声。暗殺者を呪う黒い声。

 フェルの呻き声。泣き声を混ぜた悲痛な唸り。暴行の音。

 闇が濃く濃く渦巻いている。黒々とした負の声が、夜の冷たい帳に混ざり、闇を強く濃く重たくしていく。

 感情の闇。夜の闇。

 夜明けは少しずつ近づいているが、まだ時間は夜だ。


(私の舞台だ・・・!)


 王子が得意とするは、闇の魔法。闇の力を利用した、黒い魔法だ。強い呪いや、無慈悲な攻撃を主とする魔法体系の1つである。

 闇の魔法が最も上手く働くのが、この時間だ。

 爽やかな夜ではない。

 どす黒い、深夜。丑三つ時を中心とした前後だ。

 中途半端な悪を憎む王子が求めた、絶対的な悪。悪を叩き潰す、悪の魔法。“毒を以て毒を征す”の考え方である。


「【闇よ、我に力を貸せ、あくなき世界の探求へ、黒き翼を羽ばたかせん、】」


 空気中に漂っている目に見えない金色の粒子が、互いにより集まって目に映る大きさになっていく。しかしきらりと光を放つ前に、夜と同じ色に染まった。その粒々が、王子を中心に渦を巻く。

 詠唱は進む。


「【通路は既に開かれた、闇のトンネルを潜り抜け、2つの物は繋がれたり、泣き声を辿って行く末は、同じ場所へと帰す血路、蛇の頭を断ち切りて、その血で濡らした手が砕く――――――】」


 唱えしは“共感呪術”と呼ばれる呪文を応用したものだ。

 “共感呪術”とは、簡単に説明すると、Aという場所とBという場所を、魔方陣などで魔術的に“同じ場所”と定める。すると、Aで起こしたことがBでも同じように起きる。例えばAに火を放てばBでも自然に炎が出る、という魔法である。

 専ら罠として使われる魔法だ。

 これを応用すると、人物や物にも効果を現すことが出来る。一種の呪いだ。“丑の刻参り”がわかりやすい一例だろう。かなり簡略され、効果もまちまちだが、あれも立派な“共感呪術”である。

 今回王子は、既に用意されている“同じ物”を通路で繋ぎ、それに共感呪術をかけようとしている。

 王子の憂いは、占い師に狙いを気付かれて阻まれることであったが、占い師はアリシアを警戒しながら暗殺者を呪っている。呪いは、継続して呪をかけ続けなければ効果を失う。そのため、別の魔法を同時展開することはほぼ不可能になる。不幸中の幸いだった。


「【――――――闇は我に力を授く、闇は繋がり、1つの道を為す】!」


 繋がった。

 王子の持つザックのナイフと、ジキルのナイフとの間に、闇の魔力で形成された通路ができる。


(よし、次だ!)


 ここまでくれば、後は二言三言で終わる。

 王子は深呼吸をして、次の魔術を唱えようとした。

 その直前に、


「さて、どうします? 王子様、“蜃気楼”? 武器を置いて、大人しく投降なさった方が、よろしいかと存じますが。」


 ジキルが言った。

 ナイフを手に、座ったまま、目を開く。いつの間にか、王子たちを取り囲む敵の数は、3人にまで減っていた。

 後ろに立つザックの息遣いが、王子にまで届く。それも当然だと思った。


(呪いを受けながら、ここまでやったのか・・・!)


 王子は素直に感嘆した。

 しかし、感嘆に丸くした目をすぐに細めることになる。

 ジキルが、フェルの肩に足をかけ、顔の上でナイフをぷらぷらさせている。王子は(はらわた)が煮えくり返るような思いに顔をしかめた。


「・・・・・・フェルを、放せ・・・っ!」


 ザックが、荒い息の中、絞り出したようなドスの効いた声で言った。

 王子は、体の前面をジキルに向けた。同時に、ザックにさりげなくチラリと視線を送る。

 怒っているようだから気付いてもらえないかと思ったが、暗殺者はきちんと分かったらしい。王子とはタイミングをずらした一瞥を後頭部で受ける。


「今すぐ、武器を捨ててください。」


 ジキルが宣告する。

 王子はしばし躊躇して、片膝を立て、それからゆっくり、ザックのナイフを石畳の隙間に刺した。ザックも、手からぱらぱらとナイフを落とす。


(“落とす”というより“落ちる”という感じだな・・・。)


 と王子が思った時だ。

 ガクン、と糸が切れたように、暗殺者が膝を突いた。

 

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