間抜け商人
城下町にて――――――置き引きに遭った商人が、酒場で嘆いていた。
一人旅を始めて、5年目の春。認定商人証を手に入れ、100年近く前から鎖国中のこの王国にも、初めて入国できた。
初めての国での商売は上々に終わり、浮かれていたんだろう。滞在中に仲良くなった宿屋の主人と道端で話し込み、
「じゃあ、名残惜しいけど、僕、そろそろ行きますね。」
「おう!達者でな。頑張れよ!」
「はい!お世話になりました。」
と、その場を離れようとしたところで、足元に置いてあったはずの荷物が無いことに気付いたのである。
ひとしきり慌て、騒ぎ、とりあえず城下町の王府の犯罪担当兵団に話したのだが相手にされず、ほぼ諦めて――――――そして、冒頭に戻る。
宿屋同様、馴染んだ酒場の一席を占領し、机に突っ伏し、肩を落として呻き続けて早20分。
「あ~・・・・・・・・・。あぁ、あぁー・・・。」
「・・・そう、気を落とすなよ、兄ちゃん。な。」
「・・・・・・うぅ・・・・・・・・・。」
開店直後の、まだ酔うには早い時間の酒場には、この商人以外に客はいない。
雨雲を背負っているような暗いオーラの商人に引きずられ、店内の空気まで湿っていく。
「僕・・・・・・よく遭うんですよね・・・。置き引きとか・・・・・・スリとか・・・・・・・・・。」
「あぁー・・・。兄ちゃん、ニブそうだもんなぁ。なんつーか、目の前で荷物持ってっても、堂々としてりゃ気付かれなそうだし。―――――――あ、あぁー悪ィ悪ィ!言い過ぎた。ほら、兄ちゃん、飲めよ。ホラホラ、俺のおごりだから。な!」
マスターの客観的な指摘を受け、商人は更に落ち込んでしまった。
更に湿気っていく酒場の中、完全にとばっちりを食らったマスターが、困り果てて頭を掻いた。