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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第2章
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従者の後悔

 

「ま、待ってください! 待って! 私は・・・あの人を置いていっては・・・・・・っ!」


 抵抗むなしく、アリシアは青年に――――――王子に“フェル”と呼ばれていた彼に手を引かれ、酒場を出るはめになった。

 酒場のドアを開け放つと、嫌に冷たい夜気が2人を包んだ。一歩出たところで、フェルが立ち止まる。アリシアは止まりきれずに、フェルの肩にぶつかった。

 肩越しに人影が見える。その内のひとつが、こちらを見て叫んだ。


「――――フェル!!」

「あれぇ、ザック?!」


 フェルが返答した瞬間、いくつもあった人影がいっぺんに動き出した。暗がりでよく見えないが、多対一の戦いのようだ。

 フェルはわたわたとしながらも、意外にしっかりした足取りで、アリシアを引っ張った。


「こ、こっちです・・・・・・巻き込まれるとまずいんで・・・。」


 最初にアリシアが入っていった路地とは反対の路地の前まで来て、2人は止まった。フェルが、アリシアを安心させるように、微笑みかける。


「ここまで来れば、たぶん、大丈夫だと思います。」

「そ、そうですか・・・・・・。」


 戦闘慣れしていないアリシアは、展開にまったく付いていけず、呆然と頷いた。

 暗闇の中、どうにか攻防を見ることができる。金属音や風切り音や、物騒な音ばかりが耳に届く。


(近所迷惑だな・・・。)


 と、アリシアはどうでもいいことを思った。どうでもいいことでも思っていなければ、泣き出してしまいそうだった。

 汗ばむ手のひらが恐怖に震えている。


(――――――なんで、こんな事に巻き込まれてんのよ・・・・・・あぁもう最悪っ! 全部ぜんぶぜ~んぶ、クソ兄貴の所為だ!! もう嫌だ、帰りたい・・・!)


 ぎゅっ、と目を瞑り、拳を握りしめたアリシア。

 その手が不意に、


「――――っ!」

「大丈夫ですか?」


 フェルに握られた。

 アリシアはびっくりして振り返った。フェルはどこまでも柔らかい笑みで、優しくアリシアの手を包む。戦場を前にしているとは思えない余裕だ。


「最近、何か悪いことしましたか?」

「え?」


 突然の問いに、アリシアは目を瞬いた。


「悪いこと・・・ですか?」

「はい。何かしましたか?」

「・・・・・・・・・。」


 アリシアは答えられずに、うつむいて黙り込んだ。


(国王陛下の暗殺を黙認した・・・・・・それだけじゃない。シルヴィア様のために、第1王子様を売ろうとした・・・。)


 沈黙を返したアリシアを見て、フェルは多少察したのだろう。手を握る力を少しだけ強めて、言った。


「後悔、してますか?」

「・・・・・・えぇ、しています。いくらしても足りないくらい。」

「なら、大丈夫です。」


 アリシアは顔を上げた。


「悪いことに自覚があって、それを後悔してるってことは、これからの行動を許されるためのものに出来る、ってことです。許される為に動く人を、神様は殺しません。どんな窮地に陥っても、案外どうにかなるものですよ。」

「そういう・・・もの、なのでしょうか?」

「そういうものです。僕なんて、」


 ギィィンッ


 一際高い金属音が、フェルの言葉を断ち切った。音の方を見遣る。

 と、鍔迫り合いをしていた1つの影が、また別の影の襲来を避け、そして次の瞬間3つ目の影に殴られた。


「ザックっ!!」


 フェルが思わず叫んだ。

 アリシアも息を飲んだ。破砕音とともに、酒場の中から新たな人影が――――王子が、転がり出てきたからである。


「――――――凍りついた悲しみが俺の敵を貫く】!」


 敵の声が響いた。金色の光が瞬間的に辺りを照らし、巨大な氷柱が宙に生じた。

 アリシアとフェル。繋がった手が強く固まる。

 背中合わせになった暗殺者と王子が、パッと顔を見合わせ、向こう側に身を投げ出した。


 その時。


 真横から鈍い音がして、


「っうあっ!!」


 フェルが呻きその場に崩れ落ちた。

 声も出せずそちらを向いたアリシアに、背後から手が掛かる。


「大人しくしていなさい、アリシア殿。」

「――――――ジキル様・・・!」


 夜の城下に轟音が響き、盛大な水蒸気の柱が立った。

 



久々の更新です、すみません。


ありがとうございました!


 

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