傭兵と暗殺者
酒場のドアが開いた。
“通りすがりだ”と名乗った奴が振り返り、出てきた人間を見て叫ぶ。
「――――フェル!!」
「あれぇ、ザック?!」
そこに隙が出来た。
(チャンス!)
一斉に殺しにかかる。誰だか分からないし依頼とは関係ないが、奴は危険人物だ――――――ジキルに雇われた傭兵たちは、そう認定していた。
傭兵の1人、リーダー格であるウノが真っ先に突っ込んだ。
「――――――っ!」
喉元を狙って突き出した細身の剣は、暗殺者のナイフに弾かれて軌道を変えた。
剣を弾いたナイフが、そのまま己の頸部に迫ってくる。傭兵ウノの防御は間に合わない。
が、暗殺者はウノの頸部を裂く前に、飛び退いた。
一瞬前まで彼のいた場所に、傭兵ドスの重たい剣が突き立てられ、石畳を削った。その体が唐突に横に吹っ飛び、傭兵トレスにぶつかった。暗殺者が蹴ったのだ。
体勢を立て直したウノが、剣を横に薙ぐ。
難なくそれを躱して距離を取った暗殺者に、矢が降り注いだ。
「ちっ。」
舌打ちしたのが聞こえた。暗殺者はさらにバックステップでそれを躱し、躱し切れなかった数本をナイフで打ち払う。
ウノは素早く距離を詰めた。
体勢を崩した暗殺者に、剣を思いきり降り下ろす。暗殺者はそれをナイフで受け止めた。
甲高い金属音が鳴り、ナイフと剣が競り合う。
その隙に、傭兵トレスは暗殺者の横に忍び寄った。
「っ!!」
「ふっ!」
トレスの存在に、間一髪で気が付いた暗殺者は、競り合いを無理矢理 受け流して横に飛んだ。
そこにすかさず滑り込んできた傭兵ドスが、暗殺者の頭を思いきり、剣の腹で殴った。
暗殺者はうめき声をあげてよろめいた。
「ぐっ・・・。」
「ザックっ!!」
傍観していた商人が悲痛な叫びをあげた。
追撃が来るかと身構えた暗殺者だったが、しかし、追撃をかけるべき傭兵たちは大きく距離を開けた。
「――――――凍りついた悲しみが俺の敵を貫く】!」
新たな声が闇夜に力強く響き、さっきからずっと唱え続けていた傭兵ミルの魔法が成就した。
パァッ・・・と金色の光が辺りを照らした。光はすぐに収まって――――――代わりに、ミルの手の上に巨大な氷柱が現れる。
「くっ・・・そ・・・っ!」
暗殺者は毒づいた。頭から流れ出た血が、地面をぼたぼたと濡らす。
背後で、破砕音が聞こえた気がした。
暗殺者の歪んだ視界が、さらに揺れた。背中に何かが――――誰かが、ぶつかったのである。暗殺者は思わず振り返った。
ほぼ同じ高さに、真っ直ぐな目があった。その目が暗殺者の後ろを見て、真ん丸く見開かれる。
暗殺者は暗殺者で、自身の目を疑った。酒場の壊れたドアの向こうに、真っ赤な塊が渦巻いている。
一瞬だけ、2人は目を合わせた。
そして、暗殺者は名前も知らぬその人の腕を思いきり引っ張りつつ横に身を投げる。それに付け加え、その人が暗殺者の肩を押した勢いも手伝い、彼らは大きく横に転がった。
夜の城下に轟音が響き、盛大な水蒸気の柱が立った。




