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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第2章
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追い詰められる王子

 

「うわああああああぁっ!!」


 突然、商人が叫んだ。

 奴らが何かしたのか――――――カッとなった王子は、隣でおろおろしているアリシアを置いて、カウンターに飛び乗った。魔法を放つ。


「【闇よ、我らに仇為す者どもを飲み込め】!」

「ちぃっ、【運命は私に味方する、闇を打ち払――――」


 振り返った老婆が魔法を放とうとし、しかし、ぎりぎりのところで間に合わなかった。金色の粒子が室内を照らし、形を持った闇が彼らに纏わりついて自由を奪う。

 王子は結果の確認もせず、カウンターから飛び下りて、老婆の脇をすり抜けた。


「あ、う、うああああぁ・・・・・・。」

「フェル! 大丈夫かっ?!」

「・・・ら、ラヴィさん? ラヴィさん?!」

「何をされた、フェル!」

「ね、ねず、ねず・・・――――――」

「・・・ねず?」

「鼠、がぁ・・・・・・うぅ。」


 王子は目をしばたたかせた。――――鼠? 鼠が、どうしたというのだろうか。――――王子は理解 出来なかった。

 商人は本気で泣き顔だ。


(・・・・・・と、とりあえず――――――)


 王子は商人の背後に回り、縄に手を当てた。小さく呟く、


「【解けろ】」


 と、縄がひとりでにほどけて床に落ちた。


「フェル、立てるか?」

「はい・・・大丈夫です・・・・・・うぅ。」

「アリシア、早くコッチに来い。」

「は、はいっ!」


 呼ばれたアリシアが人壁を通り抜けて、王子たちに合流するとほぼ同時に、


「――――――~~~~~、闇を打ち払え】!」


 老婆がさっきからずっと唱えていた呪文が成就した。王子の魔法が掻き消える。

 王子は眉をひそめ、商人の袖を引っ張った。


「出るぞ!」

「逃がすもんかい! やっちまいな!」

「「おうっ!!」」

「フェル、アリシア、先に行け!」

「え?! し、しかし――――――」

「わかりました、すみません! 行きましょう!」


 王子の命令に、商人は素直に従った。商人は自身が足手まといになることをよく理解している。故に、諦めと行動は人一倍 早い。アリシアの腕を掴んで、扉に向かって走り出す。

 王子は扉を背に、占い師と相対した。占い師の周りでは男たちが、拳を、剣を、それぞれ構え、半円上に王子を取り囲んでいる。


「盾の無い魔術士がどこまでやれるかねぇ?」

「盾無しだからと言って、あまり舐めない方がいいぞ。負けてやるつもりはないのでね。」

「ふぅん・・・その高慢な鼻っ柱、今すぐへし折ってやるよ!」


 占い師が王子を指差したのが、合図になった。


「ぅおらぁっ! 死に晒せぇっ!!」


 吠えながら突っ込んできた1人に対して、王子は指を構えると、パチンッ、と弾いた。


「――――――っ、うおわっ!!」


 何がどう作用したのか、男が壁まで吹っ飛ばされた。

 占い師が盛大に舌を打ち、いきり立って突っ込もうとした奴らを制した。


「言無しの呪文でこの威力かい・・・。鼻も高くなるはずだよ。」


 まぁまだ青いがな――――――――呟いて、占い師は手を打った。


「【運命は私に味方する、炎は私に力を貸す――――」

「【闇よ我にっ!」


 占い師に対抗して詠唱を始めた王子だったが、唐突にそれを中断し、しゃがんだ。

 風切り音が頭上で鳴った。


「詠唱なんかさせるかぁっ!」


 宣言した通り、絶妙な間合いを保った奴らの攻撃に、王子は防戦一方で、指を弾く隙さえ無い。

 そうこうしている内にも、占い師の呪文は途切れることなく成就を目指す。


(マズイな・・・・・・このままでは、)


 王子はそこで思考を止めた。その言葉だけは、思うことすらしたくなかった。

 しかし焦りは消えない。占い師の魔法は完成間近だ。無数の金色の粒子が、占い師の両手の中に集まって、煌々と光輝いている。


「――――は私の手にあり】!」


 ついに、成就した。

 集まった金色が、一瞬で炎の塊に変わった。真っ赤な光が店内を染める。熱風が王子の髪を煽り、威力の高さを思い知らせた。


「う・・・・・・――――――っ!」


 思わず動きを止めてしまった王子を、回し蹴りが襲った。

 吹っ飛ばされて背中からドアに激突。そのままドアをぶち破って、外に転がり出る。


「ゲホッ、ごほっ、ぐっ・・・・・・。」


 咳き込みながらもどうにか立ち上がる。

 酒場の中が、真っ赤に燃え上がっている。


(くっそ・・・・・・やばいな・・・。)


 気圧されて、無意識に後ずさる。――――――その背中が、何かに当たった。

 振り返る。

 ほぼ同じ高さに、暗い目があった。

 その目が王子の後ろを見て、見開かれた。

 王子も、その目の向こう側を見遣り、目を丸くした。――――――どでかい氷柱が、宙に浮かんでこちらを狙っている。

 一瞬、2人は目を合わせた。

 王子は瞬間的に判断し、暗い目の彼の肩を強く押した。と同時に、王子の腕も強く引かれ、彼らは大きく横に転がった。

 夜の城下に轟音が響き、盛大な水蒸気の柱が立った。


 

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