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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第2章
34/90

王子の敵

 


自称・酒場ランプ編です。時制は『大根役者の従者』のすぐ後です。

これからしばらく、ランプでの攻防が続きます。主人公格が揃ったので、丁寧に書いていこうと思います。よろしくお願いします。





 

 

(ここは・・・“ランプ”か。ミシェルの行きつけの酒場だな。)


 自分がはめた従順な側近のことを思い出しつつ、王子はアリシアを追って路地裏に入った。道の中腹に古びた木戸があり、半分ほど力なく口を開けている。王子はゆっくりとそこに近寄って、中を覗いた。


(アリシアと・・・・・・誰だ? 見たことはある、が・・・・・・誰だったか・・・。)


 王子は首を傾げた。

 2人の会話は聞こえないが、アリシアが頭を下げているあたり、仲良さげではないと思われる。


(それにしても、嫌な気配しかしないな、この辺りは。)


 顔をしかめて、警戒する。幾つもある嫌な気配のうちの1つは、自分を見ているように思える王子。


 パチンッ


 小気味のよい音がして、気配が一気に強まった。敵意と殺意が一斉にアリシアに集中するのを感じて、王子は思わず飛び出した。

 アリシアの背後に駆け寄って、吠える。


「【闇よ我らを冷たき場所へ!】」


 言った瞬間、ぶわっ、と闇が王子の周りを取り囲み、アリシアを巻き込んで縮まった。視界が暗闇に染まって、胃の辺りを持ち上げられたような気味の悪い浮遊感に包まれる。そして、気付くと2人は何処かの屋内にいた。


「ふぅ・・・・・・上手く行ったな。」


 王子が咄嗟に叫んだのは、闇色の特級魔法。使用者とその周囲の人を――――王子の実力では1人が限度だが、実力者が使えば大人数を同時に――――“安全な屋内に”移動させることができる、便利な魔法だ。・・・実を言うと、王子がこの魔法を成功させたのは、今までにたったの一度だけだった。

 だから、


(さぁて、ここは一体どこなんだろうな?)


 闇を通って辿り着いた場所など、まったく、検討もつかなかった。

 振り返って辺りを見渡すと、どうやらここは店のようだった。微かに、酒や料理の匂いがする。内装は、見たことがあるような無いような、王族の彼にとってはどこも同じような物かもしれないが、そんな風に思った。今2人がいるのは、カウンターか何かの裏のようである。

 王子の背後で、突然のことに呆然としていたアリシアが我に返った。


「え・・・・・・あ、あれ? あれ、王子? 王子?! な、何故、何故ここに・・・?」

「しぃっ。黙れアリシア。居場所がバレる。話は後だ。まずはここから、出ないことには――――――」


 突然、扉が開いた。王子は素早くアリシアを掴んでしゃがみこんだ。

 がやがやとした連中が入ってくる。王子とアリシアはカウンターに引っ付いて、息を殺す。


「おぅい、店主ー。いないのかぁ?!」

「寝てんじゃねぇの?」

「んだよ使えねぇなぁオイ。」

「構わないさ。さ、あんたら。さっさとそいつを縛りな。」

「「へいっ!」」


 ガタガタ、ごそごそ、と潜めることを知らない物音が店内に満ちる。作業はすぐに終わったようで、物音が無くなり、代わりに大きな声でのお喋りが始まった。


(何者だ・・・? 少なくとも、味方ではないだろうが。数は・・・・・・1、2――――3――――4、5、6。それから、歳を取った女性が1人・・・7人か。さて、無関係か敵か・・・。)


「~てと、起~~かね。」


 男どもの喋りの隙間から、老婆の声が微かに聞こえた。そして、薄暗い店内に、一瞬、金色の粒子が散った。


「【起きな。】」


 今度ははっきりと聞こえた。


(魔法か!)


 王子は全身を緊張させた。魔法は王子の得意分野である。宙に舞った金色の粒子を見れば、相手の実力のほどを知ることができる。――――彼の見立てでは、老婆はかなりの実力者のようだった。

 これほどの実力者が市井(しせい)にいたとは・・・――――――と王子は驚いたのだが、老婆に魔法をかけられた相手の声を聞き、さらに愕然とするのだった。


「う・・・うぅ~ん・・・・・・あ、あれ? ・・・・・・ここ、は?」

「お目覚めかい、坊や。」

「へっ?! あ、うわあぁっ!」


(この、声は――――――まさか、フェル?! 何故、彼がここに・・・?!)


 老婆が笑う。周りの輩どもが笑う。


「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。坊や、悪いが私たちの目的のために、犠牲になってもらおう。」

「ぎっ、ぎせっ・・・え?」

「ま、自分の不運と“蜃気楼”を、存分に恨むんだね。」


 老婆の高笑いが耳に障る。王子にとって“誘拐”は、大嫌いな“セコい犯罪”のひとつだった。


(こいつらは敵だ。)


 断定した王子は、奴らをどうやってぶちのめそうかと――――もとい、どうやって商人を救おうかと、本気で考え出した。

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