表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第2章
33/90

使われる盗人

 


盗人さんのお話です。時制は前話の少し後。





 

 

 不思議な場所で変わった人間に出会い、爆弾(だと思い込んでいる物)を処理し損ねた盗人は、ズルズルと辛気臭く歩いていた。


(はぁぁ~・・・弱ったぁなぁ・・・・・・。)


 口から出るのはため息ばかり。

 成り行きで(盗みをしたのが悪いのだが)爆弾を所持する羽目になり、投棄しようにも出来ず、その上 変な頼み事さえされてしまい、盗人はすっかり参っていた。


(ふむむむむぅ・・・・・・王子様暗殺の話を広めてくれ、っつわれたってなぁあ。)


 第1王子が暗殺されようとしている、と語った地下の人は、『きっと王宮は気付いていない。おそらく、王子はまだ王宮にいない。だから、町の噂として、広めてくれないか? この事を。王宮の耳に、ラヴィ様の耳に、入るように。それだけでいい。それだけで、人々の意識は変わるのだから。』と盗人に頼み込んだ。

 それで、いま彼は、


(うううううぅぅぅ・・・・・・どうしよぅかぁ・・・。)


 と悩み込んでいる。


(盗人ネットでも使ぅかぁ?しっかし、なぁー。ふぅむ・・・。)


「弱ったなぁあ・・・。」

「何がどうしたって? (ラット)。」

「わぁあぁ!」


 鼠は大袈裟に飛び上がって、振り返った。


「く、くくくくく、“朽縄(くちなわ)”のババァじゃねぇかよぉ、脅かすない!」

「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。なぁにをそんなに怯えてるんだぇ? 原因は・・・・・・その、鞄のようだねぇ?」

「なあ゛っ!」

「図星かい。ふぇっふぇっ。」


 “朽縄”の二つ名を持つ占い師が、盗人をからかうように笑う。盗人はかろうじて、『相っ変ぁらず薄気味悪ぃばぁさんだぜぇ・・・。』と呟くのを抑えた。地獄耳の婆さんに聞かれでもしたら、何を言われることか、わかったもんじゃない。


「どうにかしてやろうかぇ、鼠? ・・・・・・その、鞄の中身、丸ごと買い取ってやろうか。」

「・・・・・・はぁ?」

「ついでに、お前さんが抱え込んでる面倒事も、引き受けてやろう。」

「・・・・・・。」


 『なんで知っているのか?』という疑問は、この占い師には愚問である。だから盗人は何も言わず、ただ、疑った。

 占い師を精一杯睨んで、精一杯ドスの効いた声を出す。


「なぁにを、企んでぇいやがんだぁ?」


 占い師は不気味に微笑んだ。この食えない老婆が、無償で人助けなどするはずがないのである。


(これ以上ぉ、厄介事にぃ巻き込まれるわけにぁいかねぇよぉ・・・。)


 この切実な思いを知ってか知らずか――――おそらくは重々承知した上で――――占い師は盗人の目を覗き込んだ。


「お前さん、今の“蜃気楼”と知り合いだろう?」

「蜃気楼の旦那ぁ? あぁ、まぁ、そうだけどぉ・・・。」


 盗人と先代“蜃気楼”は旧友で、共に仕事をしたこともある仲だ。その繋がりで、現“蜃気楼”の彼とも顔見知りなのである。


「蜃気楼の旦那が、どうしたんだぁ?」

「今、この町にいるって知ってたかい?」

「そうなのかぁ?! へぇえ、そいつぁ知らなかったなぁ。」


 しかし、どうして今ここで蜃気楼の名が出てくるのだろう、と、盗人は首を傾げた。嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。

 果たして占い師は、盗人の耳元で囁いたのであった。


「あいつを潰したいんだ。ちょいと協力しておくれよ、鼠。」

「なぁっ、えぇっ、そ、そんなぁことぁ、」

「何、ちょっと声をかけて、蜃気楼を連れ出すだけさ。珍しく、蜃気楼が堅気の者を連れていてね。そいつと引き離して欲しいんだよ。」


 ここまで言われたら、盗人にも占い師のやりたい事がわかった。


(そのぉ堅気の方をぉ、人質にぃするつもりだなぁ。)


「きちんとやれたら、あんたが抱える物ぜーんぶ引き受けてやるよ。――――――やってくれるな?」

「・・・・・・。」


 盗人はもちろん、首を横に振ろうとした。抱え込んでる物は確かに押し付けてしまいたいが、先代とはいえ“蜃気楼”は彼の旧友だ。裏切るような真似は、盗人のプライドが許さなかった。

 だから当然、断ろうとして、占い師をまっすぐに見据えた。

 目があっている。

 占い師の金色の目だ。――――金色の? ――――不思議に思った時はもう遅かった。


(うぅ、爆弾~・・・・・・面倒事ぉ・・・・・・俺にぁどうにもできねぇよぉ。どうしろってんだよぉ。あぁ、あぁぁぁぁ・・・。)


 当然、盗人は底知れない不安に襲われて、泣きたくなった。そこに、占い師の優しい声が囁くのである。―――――――――私たちなら、その不安どうにかしてやれるよ。大丈夫だ、雑談をしてくればいいだけなんだから。バレなければいいんだよ。バレたって、私たちに無理矢理やらされたんだと言えば、蜃気楼だって人間だ。見逃してくれるさ。――――――――――囁かれるほどに、盗人はだんだん、どうにかなるような気になってきて、遂に、


「・・・わかったぁ。」


 と頷いたのであった。


 

 




ありがとうございました!




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ